劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

2127 / 2283
恐ろしい相手だからなぁ……


敵対の代償

 新居の方に達也が顔を出すということで、摩利は久しぶりに顔を拝みたいということで真由美と共に新居にやって来た。ここには摩利の天敵とも言えるエリカも生活しているのだが、この時間はまだ学校にいるということで、緊張することなく新居の門をくぐる。

 

「達也くん、お帰りなさい」

 

「ただいま戻りました。まぁ、またすぐに巳焼島に戻らなければいけないのですが」

 

「相変わらず忙しそうだな、君は」

 

「渡辺先輩、お久しぶりです」

 

 

 摩利に軽く会釈をして、達也はすぐに会話を切り上げようとした。これは摩利と話したくないということではなく、純粋にこちらに滞在できる時間がそれほどないので、お喋りで時間を潰すわけにはいかないというだけである。

 

「達也くん、そんなにゆっくりしていられないの?」

 

「一応恒星炉プラントの責任者ですからね」

 

「君が立ち上げた企画だが、君がいなくても大丈夫じゃないのか?」

 

「まだ完全に軌道に乗っていないので、万が一のことがあるかもしれないので。それに、向こうにいるほうが細かい指示とかを出しやすいので」

 

 

 達也がいなくても何とかなるところまでは研究は進んでいるのだが、達也が現場にいた方が問題が発生した時に解決しやすいのは本当だ。だが達也の本音は本土にいたらマスコミの餌食になる可能性が高いので、巳焼島で生活した方が精神的な安寧に繋がるというの部分が大きい。

 

「達也くんが忙しいのは私たちも理解しているけども、たまにはこっちにも顔を出してよね?」

 

「できる限りそうしたいのですが、光宣の追跡の際にいろいろと無茶をしたので、警察からもマークされていますからね」

 

「いったい何をしたんだ?」

 

「正規の許可無く巳焼島と本土を飛行魔法で往復したり、高速道路でいろいろとやったりしたので」

 

 

 どれも達也が原因で行ったことではないのだが、警察にマークされているのは達也だ。国防軍から手が回されていたり、レイモンドや光宣が密告したりした結果なのだが、今目立つことをすれば計画を邪魔される可能性があるのだ。達也としても、その全てを消し去るのはできることなら避けたい。

 

「私は家のヘリを使って会いに行ったりできるけども、他の子たちはそう簡単にはいかないんだから、直接顔を見せるのが難しいのなら、せめて電話くらいはしてあげたら? それくらいの時間は取れるでしょう?」

 

「巳焼島の周辺には今、国防軍のスパイがうろついていますからね。通信を傍受される可能性もありますので、落ちつくまでは電話も難しいかと。もちろん、何時までも好き放題させるつもりはありませんが」

 

「防衛大に通う身としては、君が国防軍と対立しているようで居たたまれないんだが……まさか、本気で対立するつもりじゃないだろうな?」

 

「少なくとも、俺の方から敵対するつもりはありません。俺の邪魔さえしないのなら、興味などありませんから」

 

 

 達也のこの言葉は、強がりでは無く本音だ。達也が本気になれば、国防軍の一個大隊くらいなら一瞬で消し去ることができる。ましてや巳焼島は離島であり、達也の「眼」があれば、気付かれずに接近することすら難しい。そんな条件だというのに襲いかかろうとする考えなしは、国防軍にもいないだろう。

 

「達也くんの邪魔をしようとすればどうなるか、考えただけでも恐ろしいわね……」

 

「実際に見たことは無いが、真由美から聞かされた話だけでも、確かに恐ろしい結果になるだろうな」

 

 

 真由美は達也の『分解』をその目で見たことがある。当時は何故あのようなことが起こったのか理解できなかったが、婚約の際に聞かされた達也の魔法特性と合わせて考えた結果、その出来事が理解でき、それを摩利に話したのだった。もちろん、「分解」のことを摩利に話しても問題無いか達也に確認してから話したので、そのことで真由美が婚約者から外されることはなかった。

 一方の摩利は、当時真由美が見た光景を聞かされていたが、自分の目で見たわけでもないし、そのようなことが起こるはずがないと思っていたので、当時は何かの見間違いではないのかと真由美に言っていた。しかし真由美も特殊な視界を持っているので、見間違いだと断言する方が無理があると摩利も思っていた。そこに達也の魔法「分解」の特性を聞かされ、当時の話が漸く腑に落ちたのだ。

 

「あの魔法は、人体だろうが関係ないんだろう?」

 

「えぇ。経路を辿れるのであれば、距離も関係ありません」

 

「そんなことができるのか?」

 

「実際にベゾブラゾフが一高上空に『トゥマーン・ボンバ』を放とうとした際に、発動に必要なCADを一高から消し去りましたので」

 

「……ますます君と敵対したらどうなるか、不安になるな」

 

「というか、摩利は達也くんと敵対するつもりなんて無いでしょう? 達也くんがいないと、エリカちゃんとまともに話せないんだから」

 

「今はそのことは関係ないだろう!?」

 

 

 小姑になるエリカ――義妹と表現した方が良いのかもしれないが、エリカは明らかに摩利を敵視しているし、摩利の方もエリカに対して苦手意識があるので、彼女は小姑と表現している――と話す際、摩利は間に達也を入れることが多い。それができなくなるだけで、摩利は今後の生活が不安になると真由美は知っていたのでからかったのだが、想像以上に摩利が慌てたので、真由美は声をあげて笑ったのだった。




小姑に勝てる未来が見えない……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。