劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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たまには出しておかないと


後輩の質問

 魔法大学で所用を済ませて光宣捜索に戻ろうと思っていた克人は、思いがけず将輝と吉祥寺の会見を目にし、丁度居合わせたあずさと服部に声を掛けられた。

 

「十文字先輩」

 

「服部か。何か用か」

 

「今の会見ですが、先輩はご存じだったのでしょうか?」

 

 

 服部が何を指しているのか、克人は誤解しなかった。吉祥寺のインタビューが始まるまで、主役は画面の中にいる将輝と吉祥寺だった。だが吉祥寺の告白により、その中に達也も加わってしまったのだ。

 

「俺は何も聞かされていないし、司波も俺に報告する義務はない。それに司波の事だから、自分が関わっていたことを公にするつもりなど無かったと思う」

 

「そうですね……アイツならそう考えるでしょう」

 

 

 服部と達也の関係は決して良好では無いが、服部は達也の事を認めている節がある。入学当初は二科生というだけで下に見ていたが、直接対決で負け、九校戦での数々の離れ業、十師族の一員と認められていない内から、一条家次期当主である将輝に真正面から戦い勝利を収めたりと、認めざるを得ない戦果を達也が残してきているからだ。

 

「兎に角俺は何も聞いていなかった。もし聞いていたとしたら七草の方だろう」

 

「真由美さんが、ですか?」

 

 

 今まで無言を貫いていたあずさが、思わず口を挿む。その声に反応したのかは分からないが、克人の視線が服部からあずさに向けられる。あずさの身長は相変わらずなので、克人に視線を向けられると言いようのない圧を感じるのだが、このまま黙っていても意味はないのであずさは自分に活を入れて口を開く。

 

「真由美さんに話してしまったら、七草家の耳にも入る可能性があると思うんです。司波君個人は兎も角として、四葉家が七草家に情報を簡単に流すとは思えないんです。その辺りは私たちより十文字先輩の方が詳しいとは思いますけど、四葉家当主と七草家当主は仲が良くないって、数字付き以外でも話題になってますし」

 

「確かに真夜殿と弘一殿の関係は微妙だが、それとこれとは関係ないと思うが」

 

「そうでしょうか? 表面上は四葉家と仲良くしようという動きが見られますが、七草家当主は以前、司波君が不利になるようマスコミを煽ったり、自分の息子に手柄を上げさせようとしたりと、色々と問題行動が見られるって、前に真由美さんが愚痴っていたのを聞いたことがあるので。今回の件も、司波君は自分に向けられる好奇の視線の何割かを一条君と吉祥寺君に向けさせるつもりだったのだと思います。もし七草家の耳に入っていたら、これ以上四葉家の技術発展を妨害するために真っ先に発表しててもおかしくないと思うんですけど……」

 

 

 ずっと克人に見つめられていた所為で、あずさの声は徐々に小さくなっていき、最後の方は聞き取れないくらいの声量だった。だが克人はしっかりとあずさの声を拾っており、少し考え込むように腕を組んで瞼を閉じた。

 

「弘一殿も司波の研究の有用性は理解しているだろうから、言いふらすとしたら七草の方だと思うが」

 

「真由美さんが、ですか?」

 

「話して良い事とそうではないものの区別は出来るだろうが、アイツは近しい相手になら良いだろうと思っても不思議ではないからな。硬く口止めされていない限り、話していても不思議ではないと思う」

 

「確かに……七草先輩なら、あり得そうですね」

 

 

 克人と服部が納得している横で、あずさは首を傾げていた。確かに婚約者である達也の名誉を自慢したいという気持ちがあっても不思議ではないが、ただでさえ達也との時間が確保できないこの状況で、自分から達也の時間を奪うような事をするだろうかと、あずさは引っ掛かっていたのだ。

 

「兎に角司波が新しい戦略級魔法を開発したのは事実なのだろうが、大騒ぎするとアイツの邪魔をするだけだろうからな。十文字家としては、詳しい事情を聞くのは一連の問題が片付いてからでも良いと考えている」

 

「それが普通でしょう。ところで、都内にパラサイトが発生したというのは事実ですか?」

 

 

 服部の質問に、克人は片方の眉だけを吊り上げる。情報統制は敷いていたが、人の口に戸は立てられない。どこかから情報が洩れ、服部の耳にも入ったのだろう。克人の反応を見ただけで、服部はそれが事実だと理解し、それ以上質問を重ねる事はしなかった。

 

「十文字先輩、お急ぎのところ申し訳ありませんでした」

 

「気にするな。急いだところで、成果があるとは限らんからな。むしろ、焦れば焦るほど相手の思うつぼの気がしてならん」

 

「先輩がそんな風に言うなんて、相当な相手なんですね」

 

 

 あずさからすれば、克人が動けば大抵の事は片付くのではないかと思っているのだが、実際はそんな事はない。むしろ若輩である克人が動けば、年寄り連中が面白くない顔をする事が多々ある。邪魔、まではいかなくとも、何かしらの小言をぶつけてくることはある。

 

「司波の方でも動いているようだがな。何か分かっていればいいのだが」

 

「十師族が一丸となって動いてるなんて、相当な事なんですね」

 

 

 あまりそういう裏の事情に詳しくないあずさは、しきりに頷いて見せる。克人は先程とは違う理由で片眉だけ吊り上げ、何も言わずに大学を後にした。




本編で出番ないしな……

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