劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ほっといたら余計に面倒な事になるし……


続く悩み

 物騒な会話を終えて部屋に戻ると、さっそく来客が部屋に近づいてきている。別に拒む理由もないので達也はその来客たちを部屋に招き入れ、備え付けのコーヒーメーカーで人数分のコーヒーを用意する。

 

「あっ達也さん、私がやります」

 

「気にするな」

 

 

 来客の一人、ほのかが達也から作業を引き継ごうとしたが、彼はそれを手で制してほのかに座るように指示する。ほのかの方も無理矢理作業を奪おうとは思っていないので、その指示に素直に従う事にした。

 

「達也さん、巳焼島での研究は進んでる?」

 

「お陰様でな。御父君にもお礼を言っておきたいところだが、それは完成してからの方が良いだろう」

 

「そうだね。途中段階でお礼を言われるよりも、完成して稼働してからの方がお父さんも嬉しいだろうし」

 

 

 雫の父、北山潮はESCAPES計画の出資者である。逐一報告する義務は無いが、順調に進んでいる事は雫から報告を受けているようだ。

 

「達也くんが関わっているんだから、成功間違いなしだと思うのに、未だに政府の人間たちは達也くんのESCAPES計画を認めようとしないらしいわね」

 

「民間企業のプロジェクトとして発表したのが気に入らないんだろう。国家プロジェクトとして発表すれば、自分たちの手柄に出来たとか思っているのだろう」

 

「ありえそうね。そもそも直前まで魔法排斥運動が行われていて、それを扇動していたのは反魔法師派の国会議員だって言うのに、ちょっと魔法師が有益な存在だと気付いたらすぐすり寄ってこようとするんだから」

 

「議員なんて所詮風見鶏。自分たちに都合が悪くなりそうになったら、またすぐにそっぽを向く」

 

「雫って前からそんなに議員嫌いだったっけ?」

 

「そんな事はないけど、最近の言動は目に余る」

 

 

 雫の尤もな意見に、エリカも同意して頷く。世間の眼がディオーネー計画に向いていた時は達也をUSNAに差し出そうとし、そのディオーネー計画が宇宙開発を目的として物ではなく、自分たちに都合の悪い魔法師を宇宙空間に追いやってUSNAが世界を支配しようとするものだと分かったら、今度はそれを非難してESCAPES計画を支持する議員が増えたのだ。

 

「それでも外務省のお偉いさんたちは達也くんの事を認めようとしてないんでしょ? 外交問題に発展する可能性を孕んでいるからとか言って」

 

「自分たちがUSNAの計画を見抜けなかったくせに、その事を黙っていた達也さんを非難するなんておかしいですよ」

 

「誰もが達也さんのように真実を見透かせるわけではないけども、あれは明らかに外務省の落ち度。同盟国だというだけでUSNAの事を無条件で信じて、達也さんをUSNAに明け渡そうとしたんだから」

 

「その達也くんが真に魔法師の為になるプロジェクトを立ち上げ、新ソ連の侵攻を阻止した戦略級魔法の開発者。外務省としてはこれ以上ない程の屈辱でしょうしね」

 

 

 達也としては、将輝の戦略級魔法の開発者はあくまで吉祥寺だという事にしておきたかったのだが、吉祥寺が馬鹿正直に途中まで達也が関わっていたと発表した所為で面倒な事になっている。もちろん、住所変更をしていないので、マスコミがこの場所に大挙して押し寄せるという事は無いのだが、先ほど亜夜子たちと話していた時と同じく、一部の例外は存在するのだ。

 

「報道の自由を笠に押し入ろうとしたけども、不法侵入で警察に捕まってたわね」

 

「そもそも報道の自由は、何を報道するか制限しないというだけで、報道するために何をしても許されるという意味では無かったと思うんだけど」

 

「自分たちに都合よく変換されてるんだろうな。実際一高に対する迷惑行為に対しても、あまり反省しているようではなかったし」

 

 

 達也がトーラス・シルバーだとレイモンドが発表した直後、マスコミは一高に取材申し込みをせずに押し寄せ、学生たちに被害を及ぼしかねない勢いで取材を敢行。警備員が追い返そうとしても『報道の自由を侵害するつもりか』というお決まりの言葉を吐き悪びれた様子もなかった。

 

「達也くんのお陰で日本という国が潤うかもしれないって言うのに、そういう考え方が出来ないんだね」

 

「潤うのはあくまでも達也さんで、日本には関係ないと思うけど」

 

「でも達也くんの研究が成功して、日本中のエネルギーを賄う事が出来れば、その為に使っていた予算を他に回せるわけでしょ? まぁ達也くんからエネルギーを買い取る予算は必要だろうけども、それだって今までの予算に比べればだいぶ低く収まるだろうし」

 

「国から金を受け取るつもりは無いんだがな。利用者から使った分の料金を受け取るだけだ」

 

「というか、達也さんは既にシルバーとして莫大な利益を得ているから、今更国からお金を貰っても嬉しくない?」

 

「そんな事も無いが、国に技術を買い取られ、海外に売りさばかれたら面倒だからな」

 

 

 達也の技術をそう簡単に他国が真似できるとは三人とも思っていない。だが皆無でもないとも思っているので、達也の心配に納得して頷いた。

 

「まぁそういう悩みは、完成してからでも遅くはないだろうがな」

 

 

 そう締めくくって、達也はこれ以上ESCAPES計画を話題に上げる事はしなかった。




余計な事しかしないのに、デカい顔してるマスコミに腹立つ……

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