劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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これで深雪の暴走は止まる……?


達也合流

 昼食時の少し前に用事を済ませた達也は、深雪と水波がいるであろうショッピングモールに向かい、二人を探すことなく合流した。存在を探る事が出来る達也は、そもそも探し回る必要は達也には無い。

 

「達也様、お疲れ様です」

 

「あぁ、深雪も水波も楽しそうだな」

 

「わ、私はあまり楽しめてません……」

 

「そうなの? それじゃあ午後はもっと水波ちゃんに似合いそうな物を探そうかしら?」

 

 

 深雪が勧めてくるものを何とか断ろうと苦労していた水波に、深雪が笑顔でそう提案する。深雪も水波が苦労しているのには気付いているので、あくまでも冗談のつもりだったのだが、水波の顔が引きつったのを見て、午後は自重しようと心に決める。

 

「一先ず食事にするか。そろそろ良い時間だ」

 

「そうですね。水波ちゃんもお疲れのようですし」

 

 

 些か水波で遊び過ぎたと、深雪は彼女の表情を見て反省する。いくら自分が姉妹のように思っていても、深雪と水波の関係は主と従者。従者である水波が強く出る事が出来ないのも無理はない。

 

「そういえば達也様、FLTにはどのようなご用事で?」

 

「水波の治療に関係する研究でな。理論上だが、魔法演算領域に負った傷を治療する目途は立った。後は実験を重ね成功率を上げていく必要はあるが、一ヶ月もすれば水波に施術する事は可能だろう」

 

「そうなれば水波ちゃんも、以前のように魔法を使う事が出来るのですね?」

 

「以前のように、とはいかないかもしれないが、さほど気にする程度ではないだろうな。もちろん、水波が以前のように魔法を行使する事に拘りがあると言うなら、施術はもう少し後になるだろうが」

 

「私としましては、深雪様をお守りする事が出来る程度に魔法が使えるのであれば、それで十分です。成績上位者に関しては、それほど興味はありませんので」

 

 

 水波の学年には、七宝と七草の双子がいる為あまり目立たないが、水波の魔法技能は学年内でも上位クラス。彼女に負けて悔しがっていた男子生徒は少なくないと、深雪は泉美から報告を受けている。

 だが水波にとって成績は二の次であり、あくまでも深雪の身を守る事に魔法を使う事にしか興味はないのだ。

 

「一日に何十発も魔法を放つ状況にならない限り、問題は無いだろうな。威力の方も、遜色ないくらいには出せるだろうし。もちろん、トゥマーン・ボンバをもう一度受け止める事は出来ないから、こちらとしても注意を怠るつもりは無いが」

 

「ベゾブラゾフは達也様に居場所を掴まれているのですから、トゥマーン・ボンバを発動しようとした段階で達也様に消し去られる運命なのではありませんか?」

 

「さすがの俺も、他国の戦略級魔法師をもう一度消し去るのは考えるさ」

 

 

 横浜事変の際に知らなかったとはいえ大亜連合の戦略級魔法師を消し去った経験があるので、達也は表面上は気にしている様子を見せる。だが必要とあらば消す事に躊躇いなど無い事を、深雪も水波も知っている。

 

「達也様は戦略級魔法など無くても敵を無力化する事が可能ですから、ベゾブラゾフもおいそれと攻撃を仕掛けてくることはしないでしょう」

 

「そういえば達也さま、国防軍との関係を清算したとお聞きしたのですが、本当でしょうか?」

 

「巳焼島の研究とFLTでの研究の時間を確保する為には、何時までも国防軍に呼び出される心配をしていなければならないのは問題だったからな。母上や東道閣下からも、そろそろ関係を清算しておいた方が良いと言われていたから、丁度良いタイミングだったのかもしれない」

 

 

 抑止力としての責任は残っているが、国防軍の都合で呼び出され、理不尽に時間を奪われる心配がなくなった事で、達也の研究時間は大幅に増えている。そのお陰で水波の治療に必要な研究も、当初の予定以上に進んでいるのだ。

 

「藤林さんも国防軍を離れる目途が立ったようですし、これで達也様と国防軍との繋がりは完全に断ち切れるというわけですね」

 

「軍からの情報が得られないというのは些か面倒ではあるが、外に新しい情報網が出来たからな。それを考えれば、決してマイナスという事は無いだろう」

 

「これで本当に、達也様にも平穏な日常が戻ってくるのですね」

 

「そもそも平穏とは無縁だったと思うがな」

 

 

 高校に入学する前から、達也の生活は平穏とは無縁だったが、一高入学以降の生活は、更に波乱万丈だったと深雪も感じている。ほとんどは達也が背負う必要のない問題だったのだが、自分が巻き込まれる可能性があったので、達也はその問題を排除していたのだ。

 

「入学当初は、図書室に保管されているデータを閲覧するのが目的だったが、それもろくに出来ないくらい忙しかったしな」

 

「達也様が優秀だと周りに知らしめることが出来たのは私的には嬉しかったですが、その所為で余計な負担を負っていたのも確かですからね」

 

「達也さまの能力を知れば、頼りたくなるのは仕方ない事だと思います。下手をすれば、教師よりも魔法理論に詳しいのですから」

 

「達也様は既に技術者として働いていらしたのだから、理論に詳しいのは当然だものね」

 

 

 その所為でテストで手を抜いたのではないかと疑われたり、転校を勧められたりしたのだが、それも深雪にとっては自慢話の一つとなっている。達也は当時の事を思いだして苦笑いを浮かべながら、深雪と水波の後ろを歩くのだった。




達也の日常は平穏とは程遠い……

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