劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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色々と複雑そうで単純……


確執の原因

 しばらくは何も起こらずに平和に過ごしていた一同だったが、今日は屋敷内に妙な緊張感が漂っている。理由は明らかで、朝からエリカが不機嫌オーラを撒き散らしているからだ。

 

「え、エリカ? 今日はどうしたの?」

 

「別に、出かける予定でも立てておけばよかったって思ってるだけよ」

 

「いい加減気持ちの整理をつけたら?」

 

「だから気にしてないって言ってるでしょ? そもそもあの女事なんて、あたしは何とも思ってないんだから」

 

「私は別に、渡辺先輩の事だって言って無い」

 

 

 雫の指摘にエリカは一瞬目を伏せたが、すぐに雫をキッと睨みつける。だが雫に八つ当たりしても仕方ないと思ったのか、すぐに何時も通りの視線に戻る。

 

「まぁあたしとあの女の仲があんまりよくないのは、ここで生活してる人たちは知ってるし、今更誤魔化しても仕方無いか」

 

「エリカの家庭事情を考えれば、ある程度は仕方ないのかもしれないけど、今はもう達也さんもいるんだし、そろそろ兄離れをしたら?」

 

「頭では分かってるつもりなんだけどね……あーあ、あたしってこんなにメンドクサイ性格だったなんて」

 

 

 修次が選んだ相手なのだから素直に祝福してあげるのが妹としての義務だと、エリカも頭では分かっているのだが、まだ頼る相手がいなかった時に修次を盗られたような気持ちがまだ残っているのだ。その所為で素直に修次と摩利の事を祝福する事が出来ずにいる。

 

「やっぱり今からでもどっかに出かけようかしら」

 

「でもそろそろ渡辺先輩がいらっしゃる時間だし、今外に出て玄関でばったり、なんて事になるかもしれないよ?」

 

「というか、何時までも逃げてたら駄目だって、この間エリカ自身が言ってたんじゃなかったっけ?」

 

「それは……でも今日決着をつけなくてもいい事だし……」

 

 

 側に達也でもいてくれれば状況は違ったかもしれないが、残念ながら達也は朝から巳焼島に出かけており、戻ってくるのは早くても夜、最悪日付を跨ぐかもしれないと聞かされている。エリカにとって頼もしい援護は、今日に限っては期待できないのだ。

 

「仕方ないから部屋に篭ってるわ。悪いけど、あの女が来て、帰ったらその都度連絡してくれるかしら」

 

「それは良いけど」

 

「じゃ、あたしは部屋に戻るわ」

 

 

 何時ものようにシャキシャキとした足取りではなく、何処か憂鬱そうな雰囲気が漂う後姿を見送り、ほのかと雫はこの問題が長期化してるのは、エリカの勇気不足だと結論付ける。

 

「私は弟しかいないから分からないけど、深雪ならエリカの気持ちが理解出来るのかな?」

 

「どうだろう? もし達也さんと深雪の間に確執が生まれたら、周辺の人が危ない目に遭うだけだと思うし、そもそも深雪が自分以外の女性と付き合う事を認めるとは……」

 

「婚約者と彼女は違うから良いのかな……」

 

 

 今更になって自分たちの立場は深雪にとって面白くない物ではないかと思い、急に気温が下がったような錯覚に陥ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偶の休みだが、恋人は休みではなかったので友人と談笑でもしようと思い家を訪ねるだけのはずだったのだが、摩利は何処か緊張した面持ちをしている。理由はその友人たちが生活している場所に、自分の天敵とも言える相手も生活しているからだ。

 

「いらっしゃい、摩利」

 

「あ、あぁ」

 

「何緊張してるのか知らないけど、エリカちゃんならさっき部屋に篭るって話してたわよ」

 

「あ、あたしがエリカに対して緊張してるとでもいうのか? 真由美、お前の観察眼は相変わらず――」

 

「あっ千葉さん」

 

「っ!」

 

 

 鈴音の言葉に過剰反応し、それが鈴音の悪戯だと分かり摩利は気まずそうに二人から視線を逸らす。一方の真由美は、摩利の反応を見て笑いを堪えられずにいた。

 

「やっぱり気にしてるんじゃない。そろそろ覚悟を決めたら? 摩利はエリカちゃんの義姉になるわけだし、何時までも義妹に怯えてたら精神がもたないわよ?」

 

「間にシュウか達也くんでもいてくれれば別なんだが、一対一でエリカと話すのはな……学年や魔法技能だけならあたしの方が上だが、剣術の腕はエリカの方がはるかに上だから、どうしても身構えてしまうんだ」

 

「摩利、貴女……」

 

「な、なんだ?」

 

 

 真由美が明らかに呆れているのは摩利にも感じ取れているが、何を言われるのか見当がつかないので少し顔を引きつらせている。その表情を見て真由美は大げさにため息を吐いてから口を開く。

 

「エリカちゃんとの問題が片付かないのは、その臆病さが原因じゃないの? そりゃ剣士としての腕はエリカちゃんの方が上なのかもしれないけど、立場的には貴女が上になるのだから、いい加減腹をくくって正面から話をすれば良いじゃない。今のエリカちゃんは、修次さん以外にも頼れる相手がいるんだから」

 

「真由美さんにしては考えているようですが、摩利さんの性格を考えると、そのような事が出来るのなら既にやっていると思います。一人の女性としてではなく剣士としての摩利さんが、本能的にエリカさんと真正面からぶつかる事を避けたいと思っているのでしょう」

 

「市原の言う通りかもしれないな……あたしは、エリカの事を義妹としてではなく腕の立つ剣士としてしか見ていなかったのかもしれない……その所為で正面からぶつかる事を避けていたのかもな……」

 

 

 一度婚約者と相談してから今後エリカとどう対応するか考えようと、摩利は今日決着をつける事は避ける事を決めたのだった。




摩利が怯えすぎなだけ

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