劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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負い目を感じてるのは仕方がない


ずっと気にしていたこと

 部屋に引っ込んだ達也を追いかけるように二階に上がった響子は、そのまま達也の部屋を訪れる。真由美と鈴音が加わったので達也との時間が減ったから――ではなく、まだ話さなけれはいけないことがあったからである。

 

「達也くん、ちょっといいかしら?」

 

『どうぞ』

 

 

 達也の許可をもらい部屋に入る響子。その姿をちょうど二階にいた千秋と小春が目撃し、何の用事なのか二人で話し合う。

 

「藤林さん、何の用で達也さんの部屋に入ったのかしら?」

 

「気になるなら後で聞けばいいじゃん。というか、お姉ちゃんだって婚約者の一人なんだから、遠慮しないで入ればいいのに」

 

「そんな簡単に入れたら苦労しないわよ。私は学年も違ったし、七草さんや市原さんのように頻繁に顔を合わせてたわけじゃないんだから」

 

「そんな事言ったら、一色さんたちは学校が違うし、藤林さんなんてお姉ちゃん以上に年が離れてるのに、ああやって達也さんと気軽に話したりできてるじゃん。お姉ちゃんが奥手すぎるだけだって」

 

 

 千秋に指摘され、小春は答えに窮する。確かに自分が奥手なのかもしれないと考えたことはあるし、同学年の真由美や鈴音のように、気楽に達也とお茶をしたり談笑したりしたいと願っていないわけでもない。だがそれが出来ないのは、本来の性格に加え、達也に対する負い目があるからでもある。

 小春が三年の時の九校戦、彼女は自分が調整したCADに細工をされた事に気付けず、学校を辞めようとするまで追い込まれたのを達也に助けられた――と小春は思っている。それに加えて妹の千秋の事も救ってもらったのもあるので、これ以上を望んで良いのかと踏み込めずにいる。その所為で他の婚約者よりも明らかに達也との時間が少なくなっている。

 

「お姉ちゃんは考え過ぎなんだよ。達也さんはあの時の事を気にしたりしてないんだし、そもそも達也さんにお姉ちゃんや私を助けたなんて考えは無いと思うよ? あの時の達也さんは、深雪さんさえ無事なら他の人はどうでもいいって考えだったらしいし、私たち姉妹を貶めようとした相手が、たまたま達也さんの標的になったから斃しただけ。達也さんが気にしてない事をお姉ちゃんが気にして、その所為で達也さんと仲良くなれないのは間違ってる」

 

「千秋……」

 

 

 はっきりと言いきった妹に、小春は泣きそうな思いになった。自分が何時までも気にしていたことをはっきり「無駄」だと言い切ってくれたのと、妹にこんなふうに言わせてしまった自分が不甲斐ないと感じたからである。

 一方の千秋は、目の前で姉が泣きそうになっているのに勘付き、さすがに言い過ぎたのかもしれないと居心地の悪さを感じ、視線を逸らす。そんな千秋の仕草を見た小春は、咄嗟に千秋を抱きしめた。

 

「お姉ちゃん?」

 

「ゴメンね、千秋……私が何時までもぐずぐずしてたせいで、千秋に嫌な思いをさせちゃって」

 

「別に、嫌な思いはしてないけど……そんな事より、何で泣きそうになったの? 私が言い過ぎちゃったからじゃないの?」

 

「ううん、千秋は言い過ぎてなんて無いよ。私が不甲斐ないから、妹にこんなことを言わせてしまったんだって、自分が情けなく思って……それと、千秋に言ってもらうまで気づけなかったのも、情けないなって」

 

「お姉ちゃんは達也さんに救ってもらったって思ってたんだし、客観的に見たら確かに私たち姉妹は達也さんに救われたのかもしれない。お姉ちゃんがそう思ってたのは間違ってたわけじゃないけど、気にし過ぎるのは間違ってたんだと思う。だから私はそれを指摘しただけ。お姉ちゃんが悪いわけじゃないよ」

 

 

 ずっと思っていたことを言えたからか、千秋の表情はスッキリとしている。その表情を見た小春は、漸く泣きそうな思いから解放され、妹につられるように笑みを浮かべる。ただし、小春の表情は千秋ほどスッキリしているとは言えない、何とも歪な笑みだ。

 

「お姉ちゃん、無理に笑ってるでしょ?」

 

「何でそう思うの?」

 

「だって、顔が引きつってるもん。普段のお姉ちゃんの笑顔は、もっと明るいし」

 

「よく私の事を見てるのね」

 

「だって私はお姉ちゃんの事が大好きだから。だから達也さんの事を恨み、その思いを利用されそうになった」

 

「私の為に千秋が危ない事をしてるんじゃないかって思った私の事を、ちゃんと考えて行動して欲しかったわ、あの時は」

 

「だって、あの時はただ、お姉ちゃんの事を陰で嘲笑ってるんだって思いこんでたから……実際達也さんはそんな事思ってなかったけどさ……」

 

 

 それどころか達也は、小春の事を何か思ったりすらしていなかった。だが千秋が勘違いしていたような事など無く、あれは単純に『深雪が身に付けるものに仕掛けをされた』から気づけただけだったと、達也と付き合うようになって千秋も理解した。

 

「詳しい事情を知らない人は、ただのシスコンだって罵るかもしれないけど、あの時の達也さんにとっては『深雪さんの安全』が何よりも重要だったから仕方なかったんだよね」

 

「今は私たちの事を気に掛けてくれてるみたいだけどね」

 

「それでも、一番気にしてるのは深雪さんの事だと思うけど」

 

 

 常に深雪の事を『視』ているのは千秋も小春も知っている。だからではないが、今でも達也が一番気に掛けているのは深雪なのだろうと、この姉妹は思い込んでいるのだった。




洗脳されていた所為とはいえ、迷惑かけてたわけだしな……

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