劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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自分もだいたい先に着く


待ち合わせ時刻

 ショッピングモール前で待ち合わせをして、まず最初にやってきたのは深雪と水波の二人。普段から時間前行動が当たり前な生活をしているので、待ち合わせの二十分前に到着した。

 

「少し早かったかしら?」

 

「遅れるよりはいいかと。それに、敵の心配をしなくて良いお出かけは久しぶりですから、深雪様も私も少し浮かれているのかもしれませんし」

 

「それもそうね……ここしばらく、何時何処で狙われるか分からないような生活だったから」

 

 

 事情を知らない人が聞けば、かなり物騒な話を平然としているが、実際に外出する際に周囲を警戒しなければいけなかったのだから、少しくらい周りの耳を気にしなくても仕方がないのだ。

 

「今日も私以外の護衛はいるでしょうが、以前より数は減っています」

 

「達也様がいてくだされば、そのような人員を割く必要は無いのでしょうが、まだ完全に収まったわけでは無いものね」

 

「もう少しの辛抱です、深雪様」

 

 

 達也を取り巻く状況も改善され、東京で生活出来る時間が増えたが、それでもまだずっと東京にいられるわけではない。巳焼島での作業もまだ残っているし、抑止力として出動を命じられる事もあるだろう。それでも今までよりかは圧倒的に平和な状況にはなっているので、近い内に達也が自分たちの側にずっといてくれるだろうと水波は思っている。もちろん、二人占めしようとは思っていないし、抜け駆けをしたいとも思っていない。

 

「お待たせ」

 

「はい、エリカ。ほのかに雫も」

 

「なんだか久しぶり?」

 

「お見舞いにはいってたけど、こうやって会うのは久しぶりだよね」

 

「この度はご心配を――」

 

「あぁ、そーゆーの良いから。水波が達也くんと深雪を守った結果だって知ってるし、その後の問題は水波の所為じゃないでしょ? 暴走した光宣が水波を攫おうとしてただけで」

 

「その元をたどれば、レイが達也さんに喧嘩を売った所為」

 

「そのレイって人、雫に気があったんだよね?」

 

「達也様に勝てると本気で思って雫の家で説得しようとして、達也様に返り討ちにされた憐れな男ね」

 

「そもそも何で達也くんに喧嘩を売ったわけ?」

 

「レイの父親はディオーネー計画の発案者のエドワード・クラーク。レイは達也さんが戦略級魔法師だと知っていて、自分たちの計画で宇宙に追いやれると本気で思っていたらしい」

 

 

 雫の淡々とした口調から、言いようのない苛立ちを感じ取り、さすがのエリカも軽口は叩けなかった。それくらい雫はレイモンドに対して怒りを覚えており、もし可能なら自分で始末したかったとすら思っている様子だ。

 

「それで、そのレイモンドってやつがパラサイトを呼び出して、それに光宣が便乗したと?」

 

「便乗したかは分からないけども、他のパラサイトたちを光宣君が従えていたのは間違いないわ。病院襲撃の際の陽動を仕掛けていたのはUSNAから来たパラサイトたちだもの。まぁそれも達也様にあっさりと斃され、挙句に時間稼ぎにもならない程度だったために光宣君もそこでおしまいだったのだけど」

 

「深雪がパラサイドールを斃しちゃったからでしょ? 対パラサイトに関してだけ言えば、達也くんより深雪の方が相性がいいんだし」

 

「そういえば、エリカは観たことがあったわね」

 

 

 横浜事変の際、深雪は侵略兵に対してコキュートスを使っており、エリカはその場に居合わせたのだ。そして魔法の説明も聞いているから、パラサイトとの相性の事も知っていたのだろうと深雪は納得した。

 

「パラサイトで思い出したけども、ピクシーはそのままでいいの? あれも一応はパラサイトなんだし」

 

「ピクシーはほのかの想いが元に生み出された個体で、達也様に敵対する事などありえないもの。万が一そんな事になったとしても、達也様か私がいれば問題ないわ」

 

「うわっ、凄い余裕」

 

 

 これが深雪以外の口から出たものなら、エリカも軽口では済ませなかっただろう。だが二人がいれば――もっと言えば深雪がいれば万が一パラサイトが暴走したとしても停める事が出来るのだ。心配するだけ無駄だという事は、エリカにも理解出来た。

 

「あっ、そう言えばこれ、達也さんから」

 

「達也様から? ほのかたちは今朝、達也様にお会いしたの?」

 

「達也くん、今は部屋で資料のまとめをしてると思うわよ。昨日は達也くんの帰宅を祝ってパーティーをしてたんだけど、ただあたしたちが騒いでただけみたいなものだったけどね」

 

「達也様、騒がしいのはあまりお好きではないから」

 

「まぁ、七草先輩が企画して、あたしたちがのっかっただけなんだけど」

 

 

 エリカと談笑していると、背後から駆け寄ってくる足音が深雪の耳に届く。達也のように足音だけで相手の特徴が分かるわけではないが、この二つの足音だけに関していえば、深雪にも誰が近づいてきているのか分かった。

 

「お待たせしました!」

 

「泉美、そんなに急がなくても良かったんじゃ……まだ時間前だし」

 

「先輩方をお待たせするなんて失礼ですわよ! 本来なら私たちが一番最初に来ていなければいけないのに!」

 

「そうかな……というか、会長たちが早すぎなだけじゃないの? ボクたちだって十分前なんだし」

 

 

 香澄が指差した時計を見て、泉美以外のメンバーが苦笑いを浮かべる。確かに香澄の言う通り、自分たちが早すぎたと思ったのかもしれない。




みんな行動が早いなぁ……

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