劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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嫉妬心はあるでしょうが、冷静な人ですから


服部の考察

 もう一つの準決勝、二高VS四高の試合は、先ほどの一高VS三高の試合より白熱していた。次世代を担うであろう光宣と文弥の戦いを、桐原と沢木は実に楽しそうに観戦している。

 

「この黒羽ってやつ、随分と冷静だな。昨日の一条相手の時もそうだが、こいつを簡単に仕留めるのは難しそうだな」

 

「九島君の方も、多彩なテクニックに溺れる事無く、一撃一撃が致命的なダメージを負うだろう威力を保っている。もちろん、ルール内の威力だが、一撃でも喰らえば戦闘続行は難しいだろうな」

 

「他のメンバーの実力に大差はないから、この二人のどちらかが戦闘不能になったらそのまま一気に決まるだろうな」

 

「司波君VS三高の試合を目玉にしていたのに、思わぬ伏兵たちがいたものだな」

 

 

 テレビで見ている限りでも、観客の盛り上がりは先程の試合よりも高い。運営側の目論見とは違う形だが、九校戦が盛り上がっているのを考えれば、これはこれで良かったのだろうと、沢木はしみじみとそんな事を考えていた。

 

「黒羽と言えば、司波の婚約者の一人に黒羽ってやつがいたよな? ミラージ・バットに出場してたのがそうか?」

 

「黒羽文弥君の双子のお姉さん、黒羽亜夜子さんよ。会った事くらいあるでしょ」

 

「そうだったか?」

 

 

 三十野の言葉に首を傾げる桐原を見て、服部が呆れたような表情で桐原を見詰める。

 

「な、なんだよ?」

 

「去年の九校戦にも参加していただろうが。新人戦ミラージ・バットの優勝者だ」

 

「そうだったか? 悪いが新人戦の事はあまり気にしてなかったからな」

 

「自分の事しか考えてないものね、桐原君は」

 

「そんな事ねぇけどな」

 

 

 何となく居心地の悪さを感じたのか、桐原はそっぽを向いて言い放つ。とりあえず桐原のことはスルーする事にして、服部は視線をテレビに戻す。

 

「黒羽君のダイレクト・ペインは肉体的ダメージはない代わりに、精神に直接痛みを感じさせる魔法だからな。肉体を強化したところで防げる魔法ではない」

 

「黒羽君の方は一撃では沈まないだろうが、ボディブローのように蓄積したダメージになるだろう。一撃喰らうごとに動きは鈍くなり、その分隙が生まれやすくなる。実に対人向けの魔法だ」

 

「実戦ではあまり使い勝手がいい魔法とは言えないけど、魔法競技ならこれも有効手だね。もちろん、普段使っているCADの性能によっては、実戦でも十分使える魔法だけども」

 

「でもこんなちまちまやってたら逃げられちゃうんじゃない? もっと一気に吹っ飛ばした方が楽だし、手っ取り早いと思うんだけどな」

 

「花音、そういう短絡的な考え方は止めた方がいいよ?」

 

 

 五十里と花音のやり取りを横目で見ながら、服部はこの試合を分析する。一見するだけなら手数が多く一撃毎に致命的な威力が篭っている光宣が有利だが、服部の目には光宣が焦っているように見えていた。

 

「この二人、何か因縁めいたものがあるのか?」

 

「そんな話は聞いたこと無いけど、何か感じたの?」

 

「いや、九島選手の方が焦っているように見える。司波と戦っていた時とは別の事が気になっているようにも見えるんだが……壬生は何か知らないか?」

 

「知らないわ。達也さんなら何か知っているかもしれないけど、婚約者だからって全て教えてもらえるわけじゃないの。あたしは少なくとも二人の関係なんて達也さんから聞かされてない」

 

「そうなのか……まぁ、余計な事を教えて考え込まれるよりは、関係ないものは教えないというスタンスだったからな、司波は」

 

 

 何となく覚えがあったのか、服部は紗耶香の説明に何度か頷いてから再びテレビに視線を固定し観察を始める。先程とは違い、今度は文弥が攻勢に出たところだった。

 

「やはり攻め急いだ分、九島選手の方が不利になったな……だからといって、まだ一撃もダイレクト・ペインを喰らっていない辺り、九島選手もかなりの実力者だと言える」

 

「だが九島ってやつ、身体が弱くてまともに戦えないって噂があったよな? この試合を観る限りそんな感じはしないんだが」

 

「いや、少しだけども無理をしているように見える。それが体調面なのか精神面なのかは分からないが、万全のコンディションとは言えない状態だろう」

 

「たんに攻め急いだことで冷静さを失っただけじゃねぇの?」

 

「そうじゃないだろうな。思えば最初から何処かおかしい感じはしていたんだが、どうやら服部が考えていた通りだったんだろうな」

 

「つまり、まともに戦えるコンディションじゃなかったって事か?」

 

「棄権するほどではなかったんだろうが、決勝リーグを戦える程ではなかったんだろう。それだけ今年のモノリス・コードはレベルが高いと言えるな」

 

 

 自己完結してうんうんと頷く沢木に説明を求めず、桐原は服部を見る。沢木の状態に呆れながらも、服部は追加の説明をする事にした。

 

「九島選手の実力なら問題ないと判断したのか、それとも他のメンバーが気付いていなかったのかは分からないが、九島選手に何かしらの異変があったと考えるべきだろうな。そうじゃなきゃ、この試合展開にはならなかったはずだ」

 

「まぁ、司波兄とまともにやり合っていた九島が、この程度なわけ無いしな」

 

 

 イマイチ納得出来なかったが、とりあえず光宣に何ならかの異常があったのだということで自分を納得させ、桐原も観戦に戻るのだった。




花音は猪武者……

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