劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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どっちも危険度的には変わらないな


理解出来た気持ち

 達也と話せたからか、それとも達也の異能を聞かされたからかは分からないが、修理が済んでからのリーナは大人しく訓練を進めていた。

 

「リーナ、最初からその加減が出来ていれば、四葉家の方々に迷惑をかける事は無かったのではありませんか?」

 

「分かってるわよ。でも、達也の異能をちゃんと聞かされた所為で、何でイライラしてたのか忘れちゃったのもあるのよ」

 

「リーナは一度に二つの事を考えられませんからね」

 

「そ、そんな事ないわよ!」

 

 

 実際二つの事を同時に考える事を苦手にしているので、リーナは強く否定出来なかった。だが出来ないと決めつけられ、それを素直に受け入れるだけの器の大きさが無かったのだ。

 ミアに指摘された所為で再び加減の度合いがあやふやになり、何度か的以外を破壊しそうになったが、その都度ミアから向けられる視線のお陰で、何とか壁を消し去るという失敗は繰り返さなかった。

 

「今日のところはこれくらいで終わりにしておきましょう」

 

「というか、達也さんと話せたのですから、それ以降訓練を続ける必要は無かったのではありませんか? そもそもが達也さんと話せないというストレスから目をそらすための訓練だったんですから」

 

「その言い方じゃ、私が的に八つ当たりしてたように聞こえるんだけど?」

 

「違ったんですか?」

 

 

 ミアに問われ、リーナは反論しようとして言葉を探すが、改めて考えて確かに八つ当たりだったと自覚し、何も言わずに訓練施設を後にする事にした。

 リーナが何か言い返してくると思っていたミアは、何も言わずに施設を後にするリーナをポカンという表情で見つめ、慌てて自分も訓練施設を後にする事にした。

 

「いきなりどうしたんですか」

 

「別に。疲れたから早く部屋に戻ってシャワーでも浴びようと思っただけよ」

 

「そりゃあれだけの高威力の魔法をぶっ放していれば疲れもしますよ。そうではなく、何か反論しようとしていたのにいきなり何も言わずに行ってしまうなんて」

 

「別に。改めて考えたらミアの言う通りだなって思っただけよ」

 

「八つ当たりしてたって事ですか?」

 

 

 ミアの問いかけに、リーナは笑みを浮かべて頷く。一度自覚してしまえば、あの訓練は八つ当たり以外の何でもないとリーナも認めたのだと、ミアも軽く笑みを浮かべた。

 

「今なら深雪も気持ちも理解出来るわね」

 

「深雪さんの気持ち、ですか?」

 

 

 ミアはそれ程深雪と親交があるわけではないので、何故この場面でリーナが彼女の名前を出したのかが理解出来ない。だが深雪の事を少しでも知っているのであれば、彼女がどういう基準で動いているかが分かっただろう。

 

「深雪は達也さえいれば後は何もいらないって感じの子だから、達也が他の女の子と話してると嫉妬してたのよ。しかもまだ普通の兄妹だって思ってた時からだから、相当なブラコンだったのよ」

 

「そういう事でしたか」

 

 

 深雪がブラコンだったという情報はミアも持っていた。だがそこまで重症だったとは知らなかったので、少し驚いた表情で頷く。

 

「とにかく、あの時の深雪は周りに八つ当たりしてるような感じが凄かったのよね。雫から聞いた話だけど、達也とほのかがボートに乗ってるところをレオが『いい感じだ』って言っただけで、生のフルーツをシャーベットにしちゃったらしいし」

 

「普通の人には真似出来ない八つ当たりですね……」

 

「私も実際に見たわけじゃないから分からないけど、あずさが言ってたのは部屋の室温が一気に下がるくらいの冷気を振りまいてたらしいし」

 

「あずさというのは、リーナが交換留学生という名目で第一高校に通っていた際の生徒会長であった、中条あずささんの事ですか?」

 

「そうよ? 小動物みたいな感じの人だったわね」

 

「年上の方を捕まえて小動物とは……」

 

「だ、だっていつもビクビクしてるような印象だったし……」

 

 

 確かにあずさは深雪が何時爆発するかビクビクしていたし、達也に対してもビクビクしていた節が見られたが、リーナの前でそこまでビクビクしていたわけではない。だがリーナも独自の情報網を構築しており、女子はそういった話題が好きなので情報を集めるのに苦労はしなかったのだ。

 

「リーナが独自の情報網を構築していた事には驚きですが、当時の目的は達也さんが本当に戦略級魔法師なのかどうかを探る事だったと思いますが」

 

「だ、だって達也ってば全然尻尾を出さなかったんだもん……むしろ私がアンジー・シリウスだってバレちゃったし……」

 

「それはリーナの自爆だって報告書で読みましたが」

 

「じ、自爆じゃないもん! 達也の誘導尋問に引っ掛かっただけで……」

 

 

 それは自爆ではないのかと思ったが、ミアはその事を口にはしなかった。話術でリーナが達也に敵うはずがないと分かるだけの付き合いがあるのと同時に、達也ならそれくらい出来て当然だと思わせるだけの雰囲気が彼にあるからだ。

 

「とにかく、深雪の気持ちが理解出来たから、今度から少しは深雪に優しくしてあげようかしら」

 

「私たちが深雪さんと会う機会がそうそうあるとは思えませんが」

 

「まぁね……とりあえず達也の研究が完成するまでは難しいでしょうし」

 

 

 それが何時になるのか、リーナにもミアにも分からない。だからではないが、彼女たちは互いに顔を見合わせて盛大にため息を吐いたのだった。




嫉妬で攻撃されたらたまったものじゃないでしょうがね……

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