九校戦が終わり、普通の魔法科高校三年生は受験に向けて勉強したり、高校生活最後の夏休みを満喫したりするのだが、達也はそのどちらにも当てはまらない。元々時間が無く九校戦に参加するつもりなど無かったのだから、そのしわ寄せはかなりのものになる。
九校戦会場から新居に戻ってきてすぐ、達也は巳焼島へ向かう準備をしていた。九校戦前までは朝に巳焼島に向かい夕方に新居か四葉ビルに戻ってきていたのだが、九校戦の所為で遅れてしまっているプラント開発に集中するために暫くは巳焼島で生活する事にしたのだ。
せっかく九校戦も終わり、暫くは達也とゆっくり出来ると思っていた婚約者たちも少なくはないが、達也の立場と世界情勢を考えれば、ゆっくりとしていられるはずもないと諦めるしかないと受け入れている。だが何処にでも諦めの悪い人間というのはいるもので、どうにかして達也と過ごせないかと画策する人物も存在している。
「私たちも巳焼島に向かうって言うのはどうかしら」
「私たちが向かったところで、何のお手伝いも出来ないと思いますが。並みいる技術者が志願してもほとんどが断られ、選りすぐりの技術者チームとさえ言われている中に学生の私たちが参加出来ると思っているのですか?」
「別に研究のお手伝いをしようだなんて思ってないわよ。身の回りの世話だとか、その他にも何か手伝えることがあるかもしれないじゃない」
「そんな事が許されるのなら、ほとんどの婚約者が巳焼島になだれ込むでしょう。そうなれば達也さんの研究は著しく遅れる事になるでしょうね。ただでさえ九校戦の所為で遅れているのに、そのような事態になればUSNAが付け入る隙が出来てしまうかもしれません」
「それは……」
どうしても諦められない真由美を、鈴音が諦めさせようと諭す。真由美にも鈴音が言っている事は理解出来ているので、何か別な理由を見つけようと頭を使う。
「それじゃあ、私たちがUSNA対策として巳焼島に行くっていうのはどう? 私ならあの島全体を見張れるし」
「真由美さんがいかなくても、達也さんなら島全体を見張っているでしょうし、あの島にはリーナさんやミアさんという元軍人の方が控えています。その中に混じっても遜色ない戦闘力が真由美さんにはあるかもしれません。ですがその方法ですと真っ先に巳焼島に行けるのは深雪さん、という事になるでしょう」
「……確かに私でも深雪さんには勝てないわね」
圧倒的な魔法力を持つ深雪がその理由で巳焼島に乗り込んできたら、あっという間に自分はお払い箱になってしまうと理解し、真由美はさらに別の理由を探す。
「それじゃあ――」
「いい加減諦めてくれませんか? そりゃ私だって達也さんとの時間を確保したいという真由美さんの気持ちが理解出来ないわけではありません。ですが達也さんの事を思えばこそ、ここは大人しく留守番をしておくべきなのではないでしょうか」
「それは…そうかもしれないけど……」
鈴音の言い分が理解出来ない程、真由美も子供ではない。ある程度の研究成果が出れば達也がUSNAから狙われる事も無くなり、平和に過ごせるようになると真由美も頭では理解している。だがどうしても「達也と一緒にいたい」という気持ちが抑えられないのだ。
「九校戦期間中だってあまりお話し出来なかったし、後れを取り戻す為には二,三日で帰ってくるわけじゃないでしょ? だから少しでも達也くんと一緒にいたいって思っちゃうのはいけない事なのかな?」
「お気持ちは理解出来ますが、そう思っているのは真由美さんだけではありません。真由美さんがいいなら私もと言い出す方がいないとも言い切れませんし、そうなれば達也さんの邪魔をする結果に繋がる可能性が高いのです。達也さんが日本で平和に暮らせるようにするには、我慢も必要だと分かっているのでしょう?」
「達也くんがディオーネー計画に参加しないって言った時点で、USNAは達也くんの事を諦めるべきだったのよ。それを必要以上に達也くんに固執して、挙句に暗殺や破壊工作まで企てて達也くんの邪魔をしようとするなんて」
どちらの計画も達也が未然に防いだので、決定的なダメージは負っていない。だが開発の遅れにはつながっている。その事が真由美は気に喰わず、USNA批判に繋がっているのだ。
「耳障りの良い理屈で達也くんを迎え入れ、宇宙空間に放り出そうとしてるって何で分からないのかな」
「あまり魔法に詳しくない方たちには、USNAのプロジェクトの方が有意義だと思えるのかもしれません。宇宙空間に生活拠点を確保出来れば、土地不足は解消されるわけですから」
「それが本当の目的ならね。どうせ達也くんや他の都合の悪い魔法師を宇宙空間に投げ出したら、すぐにプロジェクトの中止を発表しそうじゃない。魔法師が確保出来なかったとか嘯いて」
「そして達也さんがいない間にUSNAが侵攻をはじめ、自分たちの思い通りにこの世界を開発するといった感じですかね」
「リンちゃんも分かってるなら、少しくらい私に協力してよ」
「真由美さんに協力しても、達也さんの邪魔にしかなりませんから」
自分の考えを理解しつつ、達也の邪魔をしないようにと務める鈴音を、真由美は尊敬と呆れの混じった表情で見つめため息を吐いた。
また出番減るしね……