劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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さすがにお疲れの様子


帰りのバス

 後夜祭も無事に終わり、深雪たちは帰りのバスで一高付近まで戻っていた。ちなみに、帰りのバスは自由席で、選手も作戦スタッフも関係なくバスを選べることとなり、深雪は達也を作業用のバスからこちらに引っ張り込み、周りをほのかや雫たち婚約者で固め、近づくなオーラをまき散らしている。

 

「珍しいね、達也さんが寝てるなんて」

 

「なんでもESCAPES計画の方でちょっとした問題が発生したらしく、昨日も夜遅くまで作業していたようですから、寝かせて差し上げる為にもこちらに引っ張り込んだのよ」

 

「向こうのバスの方が静かだったとは思うけど」

 

 

 雫の言うように、こちらのバスよりももう一台のバスの方が明らかに静かだと言える。緊張から解放された選手たちが多く乗っているこちら側のバスでは、大会を通じて仲良くなった相手との談笑があちらこちらで行われているので、静かに休むには適さない。

 だが深雪の言い分としては、自分の側にいる事で達也は安心して休むことが出来る。自分の側こそが達也が休むに相応しい場所らしいのだ。

 詳しい事情は雫やほのかも聞いていないが、達也が特殊な「眼」を持っていて、常に深雪の事を護っているということは何となく気付いている。その対象が側にいるのなら、確かに達也は安心出来るんだろうという事で、深雪の言い分を受け容れたのだ。

 

「ところで、その問題ってもう解決したのかな?」

 

「達也様の意見が聞けなくて起っただけで、達也様からしてみれば問題でもなかったようよ。まぁ、達也様程の技術者がそうそういるとは思えないから仕方が無かったと諦めてるけど」

 

「達也さんレベルの魔工技師を探すのは大変。ましてや国家プロジェクトに相当するプロジェクトなんだから、その中心人物が十日間とはいえ現場にいなくなれば、問題くらい発生すると思う」

 

「その所為で九校戦後の達也さんの予定は、東京と巳焼島を行ったり来たりで忙しくなっちゃってるみたいだけどね」

 

 

 ほのかの零した愚痴に、深雪が食いつく。巳焼島にいる人間を思い浮かべ、嫉妬したのかもしれないと水波は感じたが、それを口にはしなかった。

 

「深雪の方でも達也さんの予定は分からないの?」

 

「たぶん休みはあるとは思うけど、何時呼び出されるか分からないでしょうから何処かにお出かけ、というわけにはいかないでしょうね。せっかくの夏休みだというのに、達也様は年寄りたちの都合で忙しい日々を余儀なくされてしまったのよ……ほんと、達也様の貴重なお時間を何だと思っているのかしら」

 

「大会本部が狙ってた程、一高対三高の試合は盛り上がらなかったしね」

 

「達也さんがあの二人程度で苦戦すると思ってるのかって言いたくなったよね。そりゃ一年生の時は達也さんには色々な枷があったから仕方なかったけど、今はある程度自由に魔法が使えるんだから、一条選手程度じゃ達也さんの相手は務まらないって分かりそうなものだけど」

 

「ですが、そのお陰で九校戦中達也さまとご一緒出来たのですから。元々達也さまはエンジニアとしても参加するかどうか悩んでおられたのです。もし九校戦本部の話が無ければ、達也さまはESCAPES計画の方に集中していたでしょう。そうだったら今以上に達也さまとお話し出来ていなかったわけですので、皆様の精神的コンディションは最低だったと思われます。そうなると今回のこの結果は無かったのではないでしょうか」

 

「そうだったの? てっきり達也さんはエンジニアとして参加するものだと思ってたから」

 

「私もそう思っていたけど、達也様の現状を考えれば仕方がないかもしれないわ。ただでさえUSNAが余計な事を言って来て、新ソ連から余計な魔法が仕掛けられかけたんだから。達也様の崇高な実験を妨害しようと他の国が攻め込んできてもおかしくはないわ。それを避ける為には、一日でも早く達也様が思い描くプラントを完成させ、一日でも早く稼働して実績を残すしかないのよね」

 

 

 達也が掲げた理想に賛同してくれる人は少なくはない。だがそれと同じかそれ以上に反発する人間がいるので、その連中を黙らせるためにも、達也は開発に集中しなければならない。だが集中したくても周りから邪魔され、こうして九校戦に参加しなければいけなくなってしまったのだ。参加しない方向に傾いていて、それも仕方がないと諦めていた深雪にとって、嬉しい事ではあったが達也の邪魔をしたという認識に変わりはないのだ。

 

「とにかく今はゆっくりと休んでいただいて、一日も早く達也様が思い描く魔法師が平和に過ごせる世界を創っていただきたいわ」

 

「達也さんの理想が現実になれば、魔法師にとってより住みやすい世界になるのに、どうしてUSNAは邪魔をしたいのかしら」

 

「自分たちが掲げた理想の方が正しいとか思ってるんじゃないの。前にウチに来たレイもそんな感じだったし」

 

「あぁ、あの勘違い君ね……どう見ても達也様に勝てるわけ無いのに、達也様に喧嘩を売ってきた一族の」

 

 

 再び深雪から不機嫌オーラが溢れ出し、他の生徒たちは騒がしくし過ぎたと勘違いし、ますます深雪たちから距離を取ったのだった。




深雪が怒れば、そりゃ逃げるわな……

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