劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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数の不利はどうにでもなる


文弥VS将輝・真紅郎

 早々に一人脱落させたとはいえ、相手はクリムゾン・プリンスとカーディナル・ジョージだ。文弥は姿を隠しながら自身に移動魔法を掛けダイレクト・ペインで牽制している。

 

「(普段は姉さんの疑似瞬間移動を使ってるから仕方ないけども、この二人を相手に僕一人では厳しい)」

 

 

 他の二人にはモノリスを攻め込む隙を見つけ次第特攻してもらう事になっているので、前衛は文弥一人なのだ。それでもまだ相手の攻撃を受けていないのは、それだけ文弥に実力がある証拠だ。

 

「(本物の戦場ではないからかもしれないけど、クリムゾン・プリンスの殺気は達也兄さんのソレと比べるまでもないし、カーディナル・ジョージのインビジブル・ブリットは、相手の視界に入らなければ効果は無い)」

 

 

 将輝の攻撃は兎も角として、真紅郎の攻撃は受けるつもりが無い文弥は、物陰から物陰に移動しながら二人の隙を伺う。

 

「(正直言って、この二人を同時に相手にしなければいけないのは不運としか言いようがないよな……それでも、本気の達也兄さんを相手にするよりかは全然マシだけど)」

 

 

 文弥は達也の本気を見た事は無い。だが達也が戦っている場面を遠巻きでなら見た事がある。あの時の殺気に比べれば、将輝や真紅郎のそれは恐れる程ではなかったのだ。

 

「(だけど、何時までも隠れ続ける事は無理だろうし、僕の魔法ではクリムゾン・プリンスを倒すまでにはいかないかもしれない……だけど、カーディナル・ジョージを倒し、クリムゾン・プリンスの注意を惹き付けるくらいなら出来るかもしれない)」

 

 

 文弥の中でも、将輝よりかは真紅郎の方が倒すのに苦労しないという評価なので、文弥は狙いを二人から真紅郎一人に絞る事にした。

 

「(姿を隠せるステージだったからよかったけど、草原ステージとかだったら僕はなすすべなくやられていたかもしれないな……)」

 

 

 亜夜子の疑似瞬間移動と、達也に調整してもらったナックルダスターが無いだけでここまで苦戦する事になるとはと、文弥は己の実力を再認識して声に出さず笑った。

 

「(この程度の実力しかない僕が、夕歌さんや勝成さん、そして深雪さんと並んで次期当主候補だったなんて)」

 

 

 文弥は最初から次期当主の座に就きたいと思った事は無い。だが父は自分が当主になるのを望んでいたように文弥には思えていた。

 

「(己の未熟さを恥じるのは後だ。今は少しでも早く、カーディナル・ジョージを倒す事だけを考えろ)」

 

 

 己を鼓舞し、文弥は物陰から物陰へ移動する間に、真紅郎にダイレクト・ペインを浴びせ戦闘不能に追い込もうとしたが、彼の目の前に圧縮空気弾が迫ってきていた。

 

「(タイミングを計られた!?)」

 

 

 自分の移動に規則性は無いと思っていた文弥だったが、カーディナル・ジョージの頭脳を以てすれば規則性があるらしいと思い知らされた。

 

「(これは、避けられない……)」

 

 

 オーバーアタックではないにしろ、この規模の圧縮空気弾を喰らえば戦闘続行は不可能だろう。文弥は迫りくる空気弾を前に瞼を閉じた。諦めかけていた文弥だったが、観客席から、聞き覚えがある声が飛んできた。

 

『文弥、しっかりしなさい!』

 

「ね、姉さん……?」

 

 

 普段冷静な双子の姉があそこまで声を荒げるとは思っていなかった文弥は、その声に驚き、そしてその思いに応えなければと思った。

 

「(僕はまだ、負けられない!)」

 

 

 文弥は自分に移動魔法を重ね掛けし、一瞬だけ移動速度を上げて将輝の圧縮空気弾を躱す。もちろん魔法を重ね掛けした事により、その効果時間は短くなり、完璧に姿を隠す事は出来なかったので、真紅郎のインビジブル・ブリットが文弥目掛けて飛んでくる。

 

「この程度なら!」

 

 

 魔法を使わずに真紅郎のインビジブル・ブリットを躱し、お返しとばかりに真紅郎目掛けてダイレクト・ペインを放つ。

 

「グッ!?」

 

「ジョージ!」

 

 

 将輝の意識が一瞬だけ自分から真紅郎に逸れたのを見て、文弥は素早く移動魔法を発動し別の物陰に潜んだ。

 

「(あの程度でカーディナル・ジョージが戦闘不能になったとは思えない。だけど、ダイレクト・ペインは精神に作用する魔法だ。痛みを誤魔化そうにも並大抵の精神力じゃ抗えない)」

 

 

 敵の攻撃が止んでいる隙に、文弥はもう一撃真紅郎目掛けてダイレクト・ペインを放つ。立て続けに喰らわせることが出来れば、この戦闘中の復帰は難しくなるので、文弥はたとえ自分の場所が相手に知られたとしても、この機を逃すつもりは無かった。

 

「この!」

 

 

 文弥が姿を現わし、真紅郎目掛けてダイレクト・ペインを放ったのと同時に、真紅郎も文弥目掛けてインビジブル・ブリットを放った。

 

「コイツ、ちょこまかと!」

 

 

 文弥と真紅郎の攻撃が互いを捉え、動きが止まったところに将輝の圧縮空気弾が文弥を襲う。インビジブル・ブリットは一撃の威力は低いとはいえ、喰らってすぐ動けるような衝撃でもなかった。

 

「(あーあ、僕は負けちゃったか……)」

 

 

 将輝の圧縮空気弾が文弥を捉えたのと同時に、試合終了のサイレンが鳴り響く。文弥は二人を引きつけているのと同時に、チームメイトにのみ分かる合図を送り、その隙に三高のモノリスを攻略したのだ。

 

「なっ、何時の間に」

 

 

 将輝たちは他のメンバーをちゃんと視界に捉えているつもりだったのだが、結果としてモノリスを攻略されてしまったのだった。




相手を下に見てるからやられるって気づかないのだろうか……

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