一高VS七高の試合は、特に盛り上がるような事は起きずに一高が勝利した。だが達也が見せる術式解体や、幹比古の死角からの奇襲攻撃は、高校生たちではなく軍関係者に大いに興味を持たれる要素の一つとなった。
そのように戦い方を見ていた彼らとは違い、達也の動きを一切見逃さないよう集中していた光宣は、彼の中にいる亡霊に話しかけていた。
「(手抜きが過ぎるとは思うけど、あの程度でも驚かれるものなのか?)」
「(普通の人間には魔法式が破壊される光景は衝撃を与えるものです。僕のように可視化されなくても見える人間とは感じ方が違うのでしょう)」
「(でも、達也さんが術式解体を大会で使うのはこれが初めてではないって聞いたけど。一昨年の九校戦でも、術式解体は使っていたらしいし)」
「(あの時はまだ『普通』に注目されただけでしょうが、今の彼は四葉家次期当主、更には一個人として国家プロジェクト級の立案者ですから)」
「(注目する理由に事欠かないということか)」
「(恐らくは)」
亡霊からの答えに、光宣は小さく頷く。そんな光宣の姿を見て女子生徒たちが小さく息を吐いたのだが、生憎光宣はその事に気付けなかった。
「(達也さんにはまだ隠してる事が多い……僕が持ち得ない知識で水波さんの怪我を治したのもそうだし、トゥマーン・ボンバに対抗した達也さんの魔法……術式解体や術式解散ではないはずだし)」
さすがの光宣も、達也が雲散霧消を使ったとは考えられないのか、彼はこの数ヶ月達也の魔法について様々な考えを巡らせている。
「(響子さんに探りを入れたりしたけど、軍事機密に当たる事は聞きだせなかったし……)」
基本的に光宣に甘い響子ではあるが、その辺りはしっかりとしているので、達也の魔法について光宣に漏らす事はしていない。その所為で光宣は九島に存在する魔法書を全て読み漁る事になってしまったのだ。
「(九島の魔法書でも達也さんの魔法について分からなかった……そうなってくると四葉が独自開発した魔法を使ったという事になるんだろうけども……長遠距離魔法相手に特別なCADも使わずに対抗し得る魔法が存在するのだろうか……そんなものがあるとするのであれば、四葉家は日本魔法師界の頂点どころか、世界中の魔法師の頂点に君臨する事になる……ただでさえ深雪さんというハイレベルな魔法師が血族にいるというのに、達也さんはそれ以上の力を有している……)」
光宣は精霊の瞳を使ってエイドスを遡及し、その情報次元にアクセス出来るなど考えついていない。また周公瑾の持っていた知識の中にも、そのような事は含まれていない。だから達也が精霊の瞳を使ってベゾブラゾフを撃退したなどと思いもつかなかったのだ。
「(達也さんが本気になれば、フィールドの何処にいようが射程内という事なのか……? そんな相手にどうやって戦えば良いんだ……)」
光宣も同じ能力を持っているのだが、彼はそのような使い方を思いついていないので、達也に対する恐怖心が光宣の中に芽生えたのだった。
光宣と同じように、達也の動きだけを見ていた文弥は、相変わらず自分とはレベルが違う再従兄に憧れの目を向けていた。
「文弥は相変わらず達也さんの事が大好きなのね」
「ね、姉さん! そういう言い方は止めろって言ってるだろ」
「別に『異性として』だなんて言ってないわよ? それとも、文弥はそういう目で達也さんの事を見ているのかしら?」
「そんなわけ無いだろ!」
亜夜子が本気でそんな事を思っていないという事は文弥も分かってはいるのだが、ここで否定しておかないと酷い勘違いを持たれたままになってしまうという焦りから、文弥の言葉には必要以上に力が篭っている。
「何もそこまで力いっぱい否定しなくても良いんじゃない? そんな風だと、もしかしたら本当にそう思ってるのかもって感じるわよ?」
「ぐっ……姉さん、楽しんでるだろ」
「えぇ、こんな冗談、文弥相手じゃないと言えないもの」
「姉さんが本気でそんな事を思ってないって分かってるんだけど、否定しておかないと人としてダメな気がするんだよ」
「別に同性愛は悪い事では無いと思うけど? まぁ、双子の弟がそうなら、少し考えを改める事になるかもしれないって思っていたけど、文弥は常識の範囲内で達也さんの事が好きなんだもんね?」
「そうだよ。達也兄さんは僕たちじゃ到達し得ないレベルの魔法師なんだから、憧れるのは当然だ」
「それなら私も安心ね。双子の弟が恋のライバルになるんじゃないかって、一時期は本気で心配してたんだから」
「目が笑ってないよ……」
姉が本気でそう考えていたという事を理解して、文弥はガックリと肩を落とす。亜夜子が幼少期から達也に恋慕の情を懐いていた事を知っているだけに、本気でそんな事を考えていたのかとショックを受けたのだ。
「深雪お姉様がいるから難しいとは思っていたけども、初恋が実って嬉しいのよ、私は」
「父さんは面白く無さげだけどね」
「散々達也さんをバカにしていたんだから、仕方がないのかもしれないけどね」
父親に対して容赦のない感じの姉に、文弥はもう一度肩を落とすのだった。
文弥は怪しいとは思う……