劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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真由美のお願いなら聞くかも知れないな……


会長就任への打診

 噂というものは非常に厄介なもので、直接聞いてくれれば否定出来るのだが、誰もそうしようとはしないのだ。二十五人の少数クラスだ。嫌でも噂してる声が聞こえてきてしまう。

 そしてタイミング悪く、現生徒会長である真由美と、会計の鈴音が達也を訪ねて来たものだから、噂に拍車が掛かっても仕方ないのかもしれない。

 

「達也君、ちょっと良いかな? 生徒会の用事って事にしておけば減点はされないはずだから」

 

「……構いませんよ」

 

 

 答えるまでに少し間があったのは、真由美の手が懇願するように組まれているのに気付いたからだ。もし断れば手を組む位置が下がり、『懇願』から『乙女の祈り』に変化するかもしれないと思ったので早めに引き受けたに過ぎない。本音を言えば断りたいのだろうが、真由美の人気は二科生でも変わらない。もし真由美の『乙女の祈り』を断ればバッシングを受けるのは達也だろう。

 

「それじゃあちょっとゴメンね」

 

 

 そういって真由美は達也の席に座ったのだが、特に何かをする訳でも無く動かなくなってしまった。

 

「会長?」

 

「……は! ゴメンゴメン」

 

「?」

 

 

 達也には真由美が動かなくなった理由に心当たりは無かったのだが、鈴音は何か思い当たったようで不機嫌な雰囲気を醸し出していた。

 

「市原先輩も……一体何なんです?」

 

「何でもありません。会長、早く処理してください」

 

「分かってるわよ。でも、もうちょっと駄目?」

 

「駄目です!」

 

「?」

 

 

 今度は完全に『乙女の祈り』だったが、同性の鈴音にそれは効果なかった。それどころか鈴音の機嫌が更に悪くなったように達也には感じられた。

 

「それじゃあ行きましょ?」

 

「分かりました」

 

 

 教室に来た時より真由美の肌の艶が良くなってるようにクラスメイトには感じられたのだが、達也にはそういった事を機敏に察知出来る感情が無い為に気がつかなかった。

 達也たちが教室から出て行った後、主に女子たちが騒ぎ出した。

 

「やっぱり会長も司波君の事が……」

 

「競争率高過ぎでしょ……」

 

「一科生の子たちも司波君の事噂してるしね」

 

「それって会長選の噂? それとも別の?」

 

 

 ざわめく教室の中で、レオと幹比古はそのざわめきに加わってないエリカに話しかけた。

 

「なぁ、達也ってモテるんだな?」

 

「……何でアタシに聞くのよ」

 

「え? だってエリカも……ッ! ゴメン何でもない」

 

「フン!」

 

「え? 何だよ。気になるだろ!」

 

 

 幹比古が言いかけた事が理解できず、レオは本気で気にしている。何故幹比古が言い淀んだのかと言うと、エリカの機嫌が急激に悪くなったのに気がついたからだ。地雷を踏みがちな彼も、さすがに学習したのか寸でのところ思いとどまったのだ。

 

「エリカちゃん、それって隠せてないよ?」

 

「五月蝿い! そういう美月はミキの事如何思ってるのよ!」

 

「「!?」」

 

 

 幹比古が回避したところで、このクラスにはもう一人の地雷踏みが存在してるのだ。盛大に地雷を踏んだ美月は、強烈なカウンターを喰らったのだった。

 

「何なんだ?」

 

 

 色恋に疎いレオは、一人首を傾げながら達也が居なくなった方角に視線を向けていたのだった。恐らく達也も同じ反応をしただろうと、レオは勝手に達也を同類だと思いこんでいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室でそんなやり取りが行われてるなどと露知らず、達也は生徒会室で腰を下ろしていた。

 

「あのね……えっと……」

 

 

 呼び出しておいて真由美はなかなか本題を切り出せずに居た。鈴音が助け舟を出そうとしてるのだが、その都度真由美は視線で鈴音を制し、そして再び言いよどむのだった。

 

「深雪には早いと思いますよ」

 

「えっ! まだ何も言ってないのに何で分かるの!?」

 

「もしその話題で無いのなら授業中に俺を呼び出す必要はありませんから。深雪の居ない時に話したかったんですよね?」

 

 

 簡単な推理だといわんばかりに、達也は淡々と説明する。もちろん自分の推理力を誇示する事は無いのだが。

 

「でも、深雪さんなら十分にその職務を全うしてくれると思うのだけど」

 

「そうでしょうか? アイツはまだ子供です」

 

「中学では生徒会長にはならなかったのですか?」

 

「俺が止めました。俺が世話を焼きすぎるのも原因なんでしょうが、とりあえずアイツはまず魔法を制御出来るようにならなくてはいけませんので」

 

 

 達也も自分で認めてるように、真由美も鈴音も達也は世話を焼きすぎだと思っている。だが同時に達也が否定の理由に使った魔法の制御面での問題も彼女たちには分かっていたのだ。

 

「でも、立場が人を育てるって言葉もあるんだし……それに一科縛りが撤廃されれば達也君も生徒会役員になれるしね」

 

「……渡辺委員長の跡を千代田先輩が継ぐのならば、あの人が俺を手放すとは思えないのですが……片付けとか苦手そうですし」

 

「「………」」

 

 

 摩利が整理整頓を苦手にしている事を知っている二人は、その跡を花音が継いだ光景を想像したのだろう。そして摩利に負けず劣らずの酷い光景が二人の頭には広がっていた。

 

「それに、深雪に拘らなくても中条先輩が立候補すれば良いだけなのでは? 順番的にも実力的にも中条先輩が妥当だと俺は思うのですが」

 

「でもね……あーちゃんはあんな性格だし……このままじゃ統制の取れない選挙になっちゃうし……」

 

「その問題は知ってますが、今年はそれほど酷い事にはならない気もするのですがね。会長をはじめ会頭や委員長が居るんですから」

 

「ですが、なるべくなら統制の取れた選挙をしたいのですよ」

 

 

 達也の言わんとしてる事を理解し、それでも統制の取れた選挙をしたいと鈴音が懇願してくる。彼女も意外と真由美と似た部分があるのだなと、達也は内心苦笑いを浮かべていた。

 

「だったら俺が中条先輩を説得しましょうか?」

 

「ほえ? ……ホントに達也君があーちゃんを説得してくれるの?」

 

「ええ。中条先輩の下で一年勉強した深雪なら問題は無くなると俺も思いますし、中条先輩なら立派に会長の跡を継げると思いますしね」

 

「じゃあお願い! やっぱり達也君は頼りになるわね!」

 

 

 飛びつかんばかりに立ち上がり達也の手を掴み上下にブンブンと振る真由美。その動作につられるよに真由美の胸も上下に揺れるのだが、達也の目には一切の興奮の色は見受けられなかった。

 

「私たちもお手伝いしましょうか?」

 

「いえ、市原先輩や会長が居たら逆に説得は難しくなるでしょう。ここは俺に任せてもらえませんか? 満足の行く結果を出せると思いますので」

 

「リンちゃん、ここは達也君に任せましょ? 私たちじゃ説得出来なかったんだから」

 

「そう……ですね。では司波君、お願いします」

 

「分かりました。放課後に深雪を連れて中条先輩の説得をしてきます」

 

「深雪さん?」

 

 

 真由美の疑問には答えず、達也は生徒会室を去り教室に戻る。いくら生徒会の用事といえども、課題を未提出ではさすがに問題があるのだ。

 教室に戻り、クラスメイトが苦戦していた課題を、達也は十分で終わらせ残った時間であずさ説得の構想を練るのだった。




次回あーちゃん脅迫回?

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