劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ずっとされているでしょうが


注目される理由

 大会九日目の朝、新人戦も終わり今日から本戦再開というわけではないだろうが、昨日までとは比べ物にならない程の魔法大学関係者が押し寄せてきているように感じられる。彼らの目的はモノリス・コードに出場する達也と、ミラージ・バットに出場する深雪なんだろうと、自分たちが観戦する席を確保しながら真由美はそう思っていた。

 

「深雪さんは兎も角として、達也くんが大学に通う必要は無いと思うんだけどね」

 

「何だ、いきなり」

 

 

 真由美の隣に座っている摩利が、真由美の独り言に反応する。真由美としては応えを期待していたわけではないので、摩利の言葉に反応するのに少し時間を要した。

 

「明らかに魔法大学関係者が増えているでしょ? 深雪さんの戦い方からして、ミラージ・バットよりもアイス・ピラーズ・ブレイクを見に来た方がいいんじゃないかって思ったり、達也くんの事を調べに来たとしても、彼は大学に通う必要は無いんじゃないかって思っただけよ」

 

「まぁアイツは大学に通ったとして、新たな知識が身に付くとは思えんしな……むしろ教授側の方がしっくりくる気すらしてくる」

 

「でしょ?」

 

 

 既に社会的地位も得ているので、今更大学に通って勉強する必要は無い、という事もあるのだが、達也が有している魔法知識は、そこらへんの大学講師より膨大だろうと真由美も摩利も思っているのだ。

 

「確かに達也さんの知識量は豊富ですし、大学に通う必要性が無いのは同感ですが、深雪さんが進学するのなら達也さんも籍を置いておくのではないでしょうか」

 

「そうよね。あの深雪さんが達也くんと一緒にキャンパスライフを望まないはずもないし、光井さんや北山さんたちも進学するだろうから、達也くんも一応大学に通うかもしれないわね」

 

「だが、殆ど出席はしないんじゃないか? 例のプロジェクトも忙しくなっているだろうし、奇異の目で見られるのは確実だろ? まぁ、アイツがその程度で動じるとは思えんが」

 

 

 摩利の考えに真由美も鈴音も同意する。奇異の目を向けられたからといって、達也がそれを気にするとは思えないが、周りの人間が気にする可能性は多分にある。むしろそれを気にして達也が大学に通わなくなる可能性の方が高いくらいだと感じるくらいに。

 

「達也くんの進路は兎も角としても、今日明日の試合は見物だってみんな分かってるんだろうね」

 

「十師族や師補十八家の人間が参加する試合ですから、それだけでも注目されるでしょうが、今年の九校戦の目玉と言われているわけですし、達也さんがトーラス・シルバーの片割れとして参加する初めての試合です。大学関係者だけでなく軍関係者も見に来ているのかもしれません」

 

「軍関係者って言っても、達也くんはもう――」

 

 

 そこまで言って真由美は、その事が秘密だという事を思いだして口を押える。摩利も鈴音も真由美に合わせるように周りを気にしだし、声を潜める。

 

「四葉家の次期当主として内定してるわけだし、何時軍を抜けるかが問題になってるわけでしょ? 軍関係者が見に来る意味があるのかしら?」

 

「アイツが軍属であるのは秘密だからな。軍内部でも知らない連中がいても不思議ではないだろう」

 

「むしろ同じ隊に所属している人でも、達也さんの事を知らない人の方が多いと、以前深雪さんが話しているのを聞いたことがあります」

 

「まぁ、あたしには分からないが、お前たち婚約者たちならその理由も聞いてるんだろ?」

 

「そんな事ないわよ。婚約者と言っても、深雪さんと私たちとでは知っている事と知らない事が違い過ぎるもの」

 

 

 真由美はそれっぽい話で摩利の興味を逸らしたが、実際は気軽に話せない内容なので、鈴音との一瞬のアイコンタクトでその場を凌いだのだ。

 

「ところで摩利、貴女千葉家の人間として認めてもらう為にエリカちゃんのお手伝いとしてここにいるのよね?」

 

「嫌な事を思い出させるな……後夜祭ではまたあのフリフリを着なければいけないと思うと憂鬱になる」

 

「私たちは見られなかったけど、是非見てみたいわね。達也くんか深雪さんにお願いして入れてもらおうかしら」

 

「か、関係者以外は入れないだろうが」

 

「だから、中から招待してもらったという事にしてさ」

 

 

 真由美の人の悪い笑みに対して、摩利は本気で嫌そうな表情で応戦する。普通ならこの二人のやり取りを仲裁するのだが、鈴音はあえて二人のやり取りを無視し、自分の考えに集中した。

 

「(一昨年の一条選手の攻撃、達也さんから真相を聞いた時は本気で一条将輝を殺したいと思いました……ですが、達也さんなら大丈夫だと思う自分もいるんですよね……)」

 

 

 今年も達也の威圧感にビビって将輝がオーバーアタックをしでかすのではないかと不安視している反面、達也ならその程度上手く処理出来るだろうと確信している自分自身に、鈴音は苦笑いを浮かべる。そんな鈴音の表情をどう受け取ったのかは分からないが、真由美と摩利が気まずげな表情を浮かべて鈴音を眺めている。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、そんな表情を浮かべる程五月蠅かったのかと思ってな……」

 

「リンちゃん、ゴメンなさい」

 

「はぁ……反省しているなら別にいいです」

 

 

 本当は違う事を考えていたのだが、二人が大人しくなったのを幸いと感じ、鈴音は二人の勘違いを正す事はしなかった。




達也にはいく理由がないですから

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