劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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何のファンなんだ……


ファン心理

 達也の部屋を満喫して部屋に戻ろうとした深雪だったが、その途中でほのかと雫と鉢合わせしてしまった。別に深雪としては疚しい事があったわけではないので気にする必要は無いのだが、どことなく二人に知られたら面倒な事になりそうだと感じ、何時も以上に冷静さを心掛けて声をかけた。

 

「ほのかに雫じゃない。どうしたのこんな場所で」

 

「達也さんを探してたんだけど……深雪、何処にいるか知らない?」

 

「達也様なら先ほどまで天幕で今日の結果を纏めていたけど、その後はお部屋に戻られたのではないかしら。それよりも、何故達也様の事を探しているの?」

 

「明日の決勝リーグ、一緒に観られないか聞こうと思って。達也さんが忙しいのは分かってるけど、七草先輩たちだって結構本部を抜けて観客席から観戦していたし、何時までも達也さんに任せっきりじゃ来年以降本部が機能しないでしょ?」

 

「雫が言いたい事も分かるし、七草先輩たちが本部を抜け出していたのも知っているけど、達也様が本部から観客席に出るのは避けた方がいいと思うわよ? ただでさえ注目されているのに、余計なファンを増やしたら余計に達也様との時間を作るのが難しくなっちゃうわ。ほぼ確実にモノリス・コードでファンを増やしてしまうのだから」

 

 

 彼女たちの中では、達也が大活躍してモノリス・コードで優勝、そのまま総合優勝も決定させることが既定路線になっているので、それ以上余計なファンを増やさないようにしようという事で話はまとまりそうになる。

 

「でも試合を観に来てるわけだし、少しくらい一緒にいても大丈夫じゃないかな?」

 

「どうかしら。ほのかは新人戦決勝リーグと達也様、どっちに注目すると思う?」

 

「……私個人だったら、多分達也さんの事をずっと見ちゃうだろうな」

 

「でしょ? いくら試合を観に来てるといっても、達也様の魅力はそれを凌駕して余りあるのだから、目立つような場所に行くのは避けるべきよ」

 

「でも一高の応援ブースなら、達也さんも自然にいられると思う。深雪、何か他に気にしてる事があるんじゃないの?」

 

 

 雫の指摘に、深雪は内心慌てたが、彼女の表情はあくまでも冷静さを保っている。

 

「そんな事、あるわけないでしょ。そもそも一高内でも達也様の人気は高いんだし、これを機に達也様に近づこうと考えている一年生がいるかもしれないでしょ?」

 

「確かに、一年生で達也さんと接点があるのって、詩奈くらいだもんね」

 

「侍朗君も接点があると言えばあるけども、それ程頻繁に会話してるわけじゃないしね。それに三年生になってからは、達也さんもあんまり学校に来られてないし……」

 

「USNAが余計な事をした所為で、達也様に多大なるご迷惑をかけてるわけだし、一度本気で叔母様とUSNAという国を世界地図から消滅させようかと話し合ったわ」

 

「深雪が言うと冗談に聞こえないんだけど?」

 

「もちろん冗談よ?」

 

 

 ほのかと雫が若干引いているのを見て、深雪は『四葉家』というイメージがどのようなものかを再認識した。彼女たちは四葉家次期当主の婚約者ではあるが、四葉家の人間ではないのだから仕方ないのかもしれないが、深雪はそんな事が少し寂しく感じてしまったのだった。

 

「とにかく、達也様を観客席にお呼びするのは難しいわね。雫とほのかが天幕で観戦するのは出来るかもしれないけど」

 

「それでも私は構わないんだけど、雫は……」

 

「選手であると同時に一九校戦ファンだものね。モニターで見るより生で観たいのよね」

 

「うん……今年は開催されないと思って諦めてただけに、観られるなら生で観たい」

 

「雫は観戦してると熱くなって、周りの人と感動を分かち合っちゃうからね。何年か前、隣に座ってた男の人と盛り上がったんでしょ?」

 

「うん……」

 

 

 雫はあまり当時の事を思い出したくないので、その相手が誰だったかはよく覚えていない。もしその相手が千葉修次だったと覚えていれば、エリカと出会った時にもう少し自然に仲良くなれていたかもしれない。

 

「だから入学してからは、ほのかがずっと隣にいたのね」

 

「同じ学校のメンバーが側にいるから、私がずっと隣にいる必要は無いんだけど、普段しっかりしてる分こういう時に物凄いミスをしそうだし」

 

「そんな事は無い……と、思う」

 

「雫自身が言い切れないんじゃ、安心出来ないよ。やっぱり私も観客席から応援するから、達也さんの事は諦めようよ」

 

「ほのかがそう言ってくれるのは嬉しいけど、ほのかは達也さんと一緒にいたいんじゃないの? 私は一人でも大丈夫だから、ほのかは達也さんたちと天幕で観戦して良いよ?」

 

「確かに達也さんと一緒にいたいって思うけど、それと同じくらい雫の事も大切に思ってるんだから。別に大会中くらいは達也さんと一緒にいられなくても我慢できるよ。でも雫は、明日の試合生で観なかったら一生後悔するかもしれないでしょ?」

 

「ほのか……ありがとう」

 

「それじゃあ、私も一緒に観戦させてもらえるかしら?」

 

「深雪、良いの?」

 

「あら、私だって雫の事は大事に思ってるのよ?」

 

 

 ここで自分だけ達也と観戦するなんて言い出せば、大会後達也と一緒にいられる時間が減るのではないかという考えなどおくびに出さず、深雪は雫たちと一緒に観戦する事を約束したのだった。




目立つ面子だし、仕方ないのかもしれないが達也がそこまで目立つかなぁ……

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