懇親会も無事に終わり、ほのかと雫は部屋に戻り明日の競技の事を話し合っていた。雫はスピード・シューティング、ほのかはバトル・ボードに参加するので、あまり夜更かしはしないようにと達也から注意を受けているので、明日参加しないメンバーや応援の為にエリカのコネを使ってホテルに泊まっているエイミィたちと一緒に地下の温泉に向かったのだが、二人は辞退し部屋に戻ってきたのだ。
「いよいよ明日だね」
「今年はいろいろあって練習時間は余りなかったけど、雫なら大丈夫だよ。あの魔法は雫が一番うまく使えるはずだから」
「うん……達也さんが最初から戦術級魔法として造ったわけじゃないって、明日証明する」
雫は達也に直訴して、アクティブ・エアー・マインを使わせてもらう事になっており、大会本部にも了承を得ている。本部の人間はあまり良い顔はしなかったが、レギュレーションに違反しているわけではないので反対する根拠が無かったというのが偽らざぬ本音なのだが、選手本人の意思なので禁止する事はしなかった。
「ほのかの方も、一昨年の作戦のままじゃないんでしょ?」
「私だって成長してるから、サングラスが無くても水面の明暗を区別し辛く出来るようになったし、基礎体力も一年の時と比べればだいぶついてるから、普通に戦っても四十九院さん以外なら負けないと思う」
「私も十七夜さんに負けたくないし、達也さんの不敗神話をここで終わらせるわけにはいかない」
「そうだね! そもそも雫たちから始まった記録だし、最後まで継続したいもんね」
そもそも雫もほのかも、達也が担当しなくても十分勝ち抜ける実力があるのだが、二人はあくまでも達也のお陰で勝ち進んだと思い込んでいるし、周りの人間の大半も達也の力が大きいと認めている。
「そういえば、男子のスピード・シューティングだけど、森崎君たちは大丈夫なのかな? 三高には吉祥寺君がいるし、相変わらず達也さんに調整して欲しくないって言ってるみたいだし」
二年生としてエントリーしている琢磨を担当するのは達也ではなく賢人で、森崎を担当するのは達也ではない三年生エンジニアだ。彼は未だに達也の実力を正当に評価できない、数少ない人間なのだ。
「まぁ森崎君が勝とうが負けようが関係ないけど、予選敗退だけは避けてもらいたい」
「来年の出場枠の関係もあるけど、一応点数計算の内に入ってるんだし、無様に敗退だけはしないと思うけど」
「まぁ彼も実力だけは確かだし、新人生の時も吉祥寺君には負けたけど二位だったし、順当に行けば決勝には進めると思う」
幾ら森崎の事が気に入らないとはいえ、雫とほのかはそんな事で正確な実力が図れなくなるような人間ではない。達也も森崎の実力は認めているので、点数計算の上でかなり重要視しているのだろうと二人は考えていた。
それは二人の間違いではなく、達也も森崎なら決勝進出は間違いないだろうと考え、それなりの計算をしているのだ。
「本戦より問題は新人戦だと思う。今年は何処の学校も実力差が無いって評判だし、下手をすれば優勝に向けての計算を大幅修正しなければならなくなるかもしれない」
「達也さんならそのくらい考えてるとは思うけど、何が起こるか分からないもんね」
「まぁ、一昨年のような事故は起こらないと思うし、達也さんが一年生三人を徹底的に指導してたから問題無いとは思う」
同じくモノリス・コードに参加しなければならなくなった達也は、新人生モノリス・コードに参加する三人にフィールドごとの戦い方や、それぞれの特性を生かした戦い方を指導していた。特に今回唯一の二科生でもある侍朗には、彼の魔法特性を生かせるよう徹底指導しており、放課後暫くは、侍朗が詩奈を迎えに来られない程だったのだ。
「詩奈ちゃんの為にも、侍朗君は頑張ると思うよ? なんて言っても、彼女の前だもんね」
「彼女の前と言えば、吉田君も付き合って初めての美月の前で見せる戦いになるね」
「あの二人は、去年の時点で付き合ってたと言っても過言じゃないくらいの雰囲気だったけどね」
今年参加するメンバーで唯一、三年連続モノリス・コードにエントリーしている幹比古の去年の戦いを思い出し、二人は顔を見合わせて笑った。
「あれで付き合ってないって言われてどれだけの人間が信じるか分からない雰囲気だったもんね」
「ある意味達也さんと深雪以上の雰囲気だったし」
「あの二人はね……まだあの時は兄妹だったし」
「周りの人間も諦めてたからね」
達也は兎も角として、深雪に意見できる人間などいなかったのもあるが、余計な事を言って深雪のモチベーションを下げたら全体の士気にかかわると恐れ、服部とあずさが深雪と達也の事を黙認する方向で話し合っていたので、他の人間が口を挿めなかったのだ。
「今年は達也さんの忙しさを考えれば、深雪も大人しくするとは思うけど」
「深雪以外にも、我慢出来なさそうな人はいる。もちろん私も」
「そりゃ私も達也さんと一緒の時間が欲しいけど、あんまり迷惑を掛けると達也さんが大変な思いをするだろうから、出来るだけ我慢しようよ」
「分かってる……けど、寂しいのは仕方がないって、ほのかだって分かるよね?」
「う、うん……」
二人は達也が作業をしているであろう作業車が停まっている方へ視線を向け、もの悲しさを誤魔化し布団に入ったのだった。
大会期間中くらいは我慢しなさい……