劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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投稿場所ミスりました……


街中での喧嘩

 パスタハウスでの昼食を済ませた達也と響子は、再び腕を組みながら街を歩いた。だが店を出て数歩で、その足は止まる。

 

「さっきはよくも恥を掻かせてくれたな」

 

「……もう一度言わないと分からないか? お引取り願おうか」

 

 

 店で見せた鋼のような視線、一切の容赦も無く視線で邪魔だと達也は告げている。その視線に耐えられなかったのか、男は連れて来た用心棒の背後に隠れた。

 

「(そこら辺のチンピラ?)」

 

「(でしょうね。会社で雇ってるヤクザじゃないですか)」

 

 

 見た目だけで判断出来るのは、達也と響子がそういった場面を数多く潜り抜けてきたから。そして相手の力を見ただけで把握出来る眼を持っているからだ。

 

「そっちの男、どこかで見たと思ったらあれだろ。九高ナンチャラの中継で見たんだ。魔法師が人間のフリしやがって!」

 

「あら、嘘吐いてまで自分の威厳を守りたいの? 貴方が達也君を見てたのなら、私に声をかけてくるなんて行為は出来なかったはずよ。大方そちらのチンピラに聞いたんでしょ」

 

「響子さん、面倒になるので挑発しないでくださいよ……」

 

「大体魔法師を人間扱いしてない時点で、私があの男に容赦する必要なんて無いわよね?」

 

「ハァ……分かりましたよ」

 

 

 そういって響子を下がらせ、達也はチンピラに視線を向けた。多少鍛えてはいるようだが、独立魔装大隊の准尉にも劣るだろうと、達也は程度の低さに苦笑いを浮かべた。

 

「何笑ってやがる!」

 

「別に……ただ守ってもらうならもう少し腕の立つヤツを選べば良いものをと思っただけだ。それとも、アンタじゃマシなボディーガードを雇う金も無いのか?」

 

 

 達也は社長の男とチンピラの両方を同時に挑発する。響子が自分と同じ思想の持ち主、人間と魔法師との壁を無くしたいと思ってるのを知っている達也は、響子が怒ったのは仕方ないと思っている。自分も感情があれば怒ったのかもしれないとも思っているのだが、達也にもしもの話で頭を悩ませる趣味は無いのだ。

 

「な、何余裕扱いてるんだよ。お前は街中では魔法を使えないんだろ!」

 

「(都市伝説を鵜呑みにしてるパターンか……まぁ俺は『別の理由』で使えないんだが)」

 

 

 魔法師が街中で魔法を使わないのは、いろいろと制約があるからであって、緊急時や自衛の為になら魔法を使っても構わないのだ。だから決して街中で使えない訳では無い。だがあの男はその噂を完全に信じ込んでいる人間だったのだ。

 

「(達也君、さすがにこんな衆人観衆の中で達也君の魔法を使うのは……)」

 

「(大丈夫ですよ。あの程度なら素手でも十分勝てますから)」

 

「(魔装大隊の訓練で?)」

 

「(いえ、師匠相手で慣れてますし、師匠の弟子よりも簡単そうな相手ですからね)」

 

 

 八雲の弟子も十分強いのだが、達也はこの歳でその弟子を纏めて相手しても勝てるくらいの実力をつけている。だからその弟子よりも弱いチンピラを四人纏めて相手したところで、達也が負けるはずも無いのだ。

 

「さて、お引取り願えるならそうしてもらいたいのだが、帰るつもりは無いのか?」

 

 

 達也が一歩前に出ると、男たちは二歩後ろに下がる。チンピラたちは男のように都市伝説は信じて無さそうだが、達也の実力を理解するくらいには知能があるようだった。

 

「や、やれ! 魔法の使えない魔法師など大して怖く無いだろ」

 

 

 男に命令されても、チンピラたちは動かない。ホントに達也が魔法を使ってこないのかを気にしてるようだった。だからあえて達也は数歩前に出て両手を挙げて左右に振ってみせた。降参の意味を持つホールドアップではない。CADを持っていない事を理解させ、お前ら相手に魔法は必要ないと挑発したのだ。

 チンピラたちは、魔法発動に何か機械が必要なのを知っていた。だから達也の行為を完全に挑発だと受け取れたのだ。

 懐に隠し持っていたナイフを取り出し、左右から連携をつけて達也に襲い掛かる。下っ端のチンピラでも今の時代これくらいの連携は取れるようだと、達也は自分が襲われそうになっているのに他人事のように眺めていた。

 

「キャッー!」

 

 

 ナイフを取り出した事によって、若い女性の悲鳴が聞こえてきた。もちろん響子のものでは無い。響子は達也が襲われかかってるのに心配そうな表情では無く、むしろ余裕すら感じる表情で眺めているのだ。

 もちろんその余裕は達也の実力を知っているからで、その実力通りに達也はチンピラたちの急所に一撃、計四発の拳撃を喰らわせて地面に沈ませた。

 

「な、何だ今の動きは……魔法を使ったのか!?」

 

「さっき言っただろ、もう少しまともなボディーガードは雇えなかったのかと。あの程度なら魔法無しでもまったく問題無い」

 

 

 チンピラを沈めた拳を、今度は男に向ける達也。先ほどパスタハウスで見せた視線とは比べ物にならない、純粋な殺意を向けられ男は腰を抜かし震えだす。

 

「貴様に一つ教えておくとだな、魔法師は別に街中で魔法を使えない訳ではない。ただ使うと面倒だから使わないだけで、緊急時には使うんだよ。そして俺の魔法は貴様を跡形も無く消し去る事だって可能なんだ」

 

 

 相手が魔法師だったら言えないような事でも、この男相手ならば言える。魔法の知識が無い男だからこそ、達也の魔法が一般的かどうかも判断出来ないのだから。

 

「ひ、ヒィ!」

 

 

 男が地面を這うように逃げ出そうとした先に、複数人の警察官がやって来た。野次馬が通報したのか、逃げようとした男と、達也が沈めたチンピラを拘束して連れて行く。男が何かを言ってるようだが、警官はそれを聞こうともせずに男を連行していった。

 

「貴方たちにもお話を聞かせてもらう事になりますけど、構いませんか?」

 

「ええ。騒ぎを起こしたのは事実ですから」

 

 

 巻き込まれたとはいえ、達也が街中で騒ぎを起こしたのは事実だ。だから達也はその事を素直に認め事情聴取に応じる事にしたのだ。

 

「それで……ですね」

 

「はい?」

 

 

 女性警官二人が急にモジモジとし始めたので、達也は不思議そうに首を傾げ、響子はその理由に検討が付き若干不機嫌になる。別に付き合ってる訳では無いのだが、今日だけは自分を見てほしいと思ったのだろう。

 

「司波達也君ですよね、第一高校の」

 

「ええ、そうですが」

 

「私たちは一高のOGでね。九校戦を見て君を知ったの」

 

「はぁ……」

 

「良かったらサインしてくれないかな? 後写真も」

 

 

 確かにこの辺りの管轄なら一高出身者が居てもおかしくないのだが、まさかこんなところで会うとはと、達也は内心でため息を吐いていた。

 長時間拘束される事は無かったが、あの後別のOGがやってきてそのまま達也と写真を撮りたがっていたのだ。その間響子は一人つまらなそうな表情で佇んでいたのを、達也はしっかりと確認していたのだった。




寝不足で投稿するのは駄目ですね……

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