劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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女子の方は兎も角男子はな……


再びの宣戦布告

 本格的な挨拶が始まるまで、懇親会は割と自由に行動できる。もちろん、各校ごとにテーブルは決まっているが、別にそこにずっといなければならないわけではなく、知り合いの生徒に挨拶に行く程度なら誰も咎めないしあまり騒ぎにもならない。

 

「お待ちしておりました、達也様」

 

「愛梨たちか」

 

 

 三高メンバーとして参加する為、一時的に石川に帰っていた愛梨たちだが、三高メンバーと軽く会話を交わしただけで、後は達也の事を待つことに専念していた。彼女たちは基本的に個人で十分戦えるだけの実力があるし、彼女たちに限れば、作戦参謀は吉祥寺ではなくここにいる香蓮だ。綿密な作戦会議も部屋でしやすいのだ。

 

「司波深雪!」

 

「何でしょう?」

 

「今年こそ、貴女に勝って見せますわ! 同時に達也様の不敗記録も止めてみせます!」

 

「何だかフラグにしか聞こえないけど、一高で一緒に授業に参加してたとはいえ、負けたくない気持ちが無いわけじゃないから」

 

「ワシはほのか嬢ともう一度熱い戦いが出来ればそれで十分じゃがな」

 

「わ、私ですかっ!?」

 

 

 沓子にロックオンされ、ほのかは隠れるように達也の背後に移動した。その事で味方であるはずの深雪たちからも鋭い視線を向けられ、ほのかは泣きそうな顔で雫の後ろに移動した。

 

「お主はバトル・ボードに参加するんじゃろ? それならリベンジのチャンスじゃからな」

 

「あの時は偶々勝てただけで、魔法技能だけなら貴女の方が上だと思うけど」

 

「謙遜は止せ。数ヶ月じゃが一緒に実習を受けたワシの目が節穴じゃなければ、お主はかなりの実力者じゃ。達也殿と一緒にいられる事で、お主は更なる力を発揮出来るようじゃしの」

 

「知っているんですか!?」

 

「ほれ、一昨年愛梨たちと一緒に行動していた上級生がおったじゃろ? あの方もほのか嬢と境遇が一緒じゃったからな」

 

「なるほど」

 

 

 沓子が誰の事を言っているのか理解したほのかは、それなら自分の事情が知られていたとしても不思議ではないと納得した。

 愛梨たち三高女子が達也の周りからいなくなったのを確認して、今度は将輝と真紅郎が彼らの周りにやってきた。だが彼女たちと違うのは、あまり友好的な雰囲気ではない事だ。

 

「直接会うのは顧傑捜索以来だな、一条将輝」

 

「老師が何を思って俺とお前を戦わせようとしたかは分からないが、俺は絶対に負けない! それで司波さんを振り向かせてみせる!」

 

「将輝だけじゃないよ。僕だって今年こそ君を超えて見せる」

 

 

 それだけ言って二人は足早に達也の側を離れていった。将輝が離れたのを確認してから、深雪たちは達也の側に戻る。

 

「彼、まだあんな妄想を懐いてるんだね」

 

「一時期ウチのクラスにいたけど、彼の目的は捜査じゃなくて深雪だったみたいだしね」

 

「そもそも達也さん一人で十分だったのに、一条家と七草家が横槍を入れて彼を東京に派遣したって聞いてるけど?」

 

「そうなの、香澄ちゃん? 泉美ちゃん?」

 

 

 雫に問われ、香澄と泉美は揃って気まずそうに視線を逸らせる。確かに達也だけが手柄を上げるのを善と思えない父親が、一条家当主を利用して達也の邪魔をしようとしたとは聞いていたけど、もしここでそんな事を暴露すれば、懇親会会場にブリザードが吹き荒れると恐れたのだ。

 

「お客様方、あまり物騒な会話は周りとの距離を開いてしまいますよー?」

 

「あらエリカ。相変わらずそういう可愛い恰好が似合うわね」

 

「そう? あたしとしては、こんな動きにくい服なんて嫌いなんだけどね。まぁお仕事だし」

 

「エリカも選手として参加すればよかったのに」

 

「去年みたいにシールド・ダウンがあれば達也くんにお願いして参加させてもらったかもしれないけど、今年はあたし向きの競技はないもん。モノリス・コードは男子だけだしね」

 

 

 近接戦闘が得意なエリカにしてみれば、九校戦の競技で唯一活躍出来そうなのはモノリス・コードだが、それは彼女が言ったように男子のみの競技。去年のように軍事色の強い競技なら兎も角、元の競技では彼女が活躍出来る可能性は低いのだ。

 

「おっと、呼ばれたからあたしはもう行くわね」

 

「頑張ってね」

 

「はーい」

 

 

 動きにくいと文句を言っていたが、エリカは人混みの中誰ともぶつかることなくパタパタと駆けて行った。それを見ていた幹比古が、苦笑いを浮かべているのを達也は視線の端で捉えていたが、特に声をかける事はしなかった。

 

「今年もレオと美月は裏方のようだな」

 

「代わりに渡辺先輩が給仕のお仕事をされていますからね」

 

「あの先輩、最初見た時は厳格な感じだったけど、知り合うにつれて徐々にイメージが崩れていったね」

 

「大半は七草先輩の悪ふざけのせいだったけど、渡辺先輩の元の性格が最初思ったのと違ったってのもあったよね。あの時は達也さんが助けてくれたから何とかなったけど、あの雰囲気は新入生には耐え難かったし」

 

「そもそもが勘違いだったからな。あの時渡辺先輩は魔法式など展開してなかったが、状況が状況なだけに他の面子はその事に気付けなかっただろうし」

 

「達也様、そもそも起動式が展開されたかどうか、その起動式がどんな魔法だったかなんて簡単に分かりませんわよ? あの時の渡辺先輩は、本気で攻撃するような雰囲気でしたし」

 

 

 当時の事を思い出し、達也は軽く肩を竦めるだけだったが、攻撃されそうになっていたほのかは、思い出して再び身震いをしたのだった。




勝てると思ってるのが凄いよ……

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