放課後になり、達也は再び風紀委員会本部で風紀委員長の幹比古、部活連会頭の五十嵐と顔を合わせていた。もともと参加予定が無かった達也が強制参加となったので、モノリス・コードのメンバー編成をやり直す為だが、実際は二人とも達也に真意を聞く目的が強かった。
「じゃあ、校内メールにあったように、達也が自分から参加を申し出たわけじゃないんだね?」
「当たり前だろ? そもそも参加する意味がない」
「司波君は一高の優勝に興味が無いって事?」
「いや、俺は裏方で貢献するつもりだったし、モノリス・コードに参加したところで、悪目立ちするだけだからな」
ただでさえ達也がエンジニアとして出場する事に文句を言っている学校があるというのに、それに加えてモノリス・コードにまで参加するとなれば、他校からクレームが殺到するのは目に見えている。それが八つ当たりであると分かっていながらも、文句を言わずにはいられないのだろうと、達也も気持ちは理解出来る――共感できるかと聞かれれば別だが。
そしてそのクレームの処理は、一高の経営陣ではなく達也が処理しなければいけなくなるであろう事も、達也はだいたい勘付いている。彼が進んで面倒事を引き受けるはずもないという事を知っている幹比古は、達也の言葉を受けて納得出来たが、達也とそれ程付き合いが無い五十嵐は、まだ納得出来ていない様子だ。
「確かに司波君はエンジニアとして無類の強さを発揮しているけど、選手としても十分貢献できるでしょ? 九校戦のメンバーに選ばれるのは名誉なんだし、嬉しいとか思わないのかい?」
「そもそも俺は、一高に入学するまで九校戦に興味など無かったから、名誉だとか言われてもピンと来ないんだ。元々が二科生だからってのもあるのかもしれないが、自分には関係ない事だと思っているのかもしれないがな」
「まぁ達也がエンジニアとして参加したのだって、七草先輩や渡辺先輩、十文字先輩が達也の腕を信じたからであって、一科生の先輩たちの大半は反対してたんだっけ?」
「まぁな」
達也の実力を見る為という名目でCADを調整させられたが、達也の技術の高さが理解出来ないメンバーたちは一様に達也の参加に対して反対した。だが当時の生徒会長、風紀委員長、部活連会頭が達也の参加を支持し、あずさと服部といった、次期生徒会長と部活連会頭が支持したのを受けて、なし崩しに参加を認める方向で話がまとまったのだ。
達也がエンジニアとして参加すると決まってからも、上級生からはあまり担当して欲しくなさそうだったし、同級生の男子からも、達也に担当してもらいたくないとはっきり言われたくらいだ。
その結果、達也は同級生の女子、深雪やほのか、雫といった顔見知りの担当だけをする予定だったのだが、九校戦の練習が始まってからというもの、達也に担当して欲しいという女子が急増したのだった。
「僕はこういった競技には向かないからあまり貢献できないけど、貢献できるだけの力があるなら、それを母校の為に発揮するべきじゃないかい? ましてや五連覇がかかってるんだし」
「悪目立ちして、学校に迷惑を掛けるのは避けるべきだと思うんだが」
「悪目立ちだろうと、目立てるならそれで良いじゃないか。それに、九校戦が終われば不満が称賛に変わってると思うよ」
「僕もそう思う。達也は自分の事を悪く思い過ぎだと思う。そりゃいろいろと言えない事があるのかもしれないけど、言える範囲だけだとしても達也の実力は一科生の中でも相当上位だと思う。それなら裏方だけじゃなくて選手としても参加するべきだよ」
「……まぁ、俺が何を言ったところで、今更不参加とはいかないからな。決まってしまった以上、他のメンバーを早急に決めて作戦を練った方が良いと思ってる」
「吉田君は決まりじゃないか? 君の実力なら司波君が参加するしない関係なくモノリス・コードのメンバーに決まってただろうし」
五十嵐の言葉に、幹比古が否定をしようとするより早く達也が賛同した。達也としても実力を十分に把握しているメンバーがいてくれた方が、隠れ蓑にし易いと考えていたのと同時に、幹比古なら問題なくやれるという評価をしていたからである。
「そうなると、後は二年から一人だな」
「達也、誰か目ぼしい人がいるんだね?」
達也の口調から、既に決まっていたんだろうという視線を向けながら幹比古が尋ねると、五十嵐も興味深そうに達也に視線を向けた。
「司波君の御眼鏡に適ったなんて、その生徒は光栄に思うだろうね」
「どうだろうな。あまり嬉しくないんじゃないか? 俺が元二科生であることは二年生の大半は知っている事だろうし、二年生の中では一科と二科との確執は三年のとは比べ物にならないと聞いているが」
「まぁ、君のようなイレギュラーがそうそういるとは思って無いけど、そこまで酷いのか? 僕はそんな報告を受けてないけど」
「僕も知らない……まぁ、エリート意識が強い子が多いとは聞いてるけどね」
「それで達也、最後の一人は誰にするんだい?」
「七宝だ」
達也がはっきりと断言すると、幹比古も五十嵐も納得したように頷き、彼なら達也に評価されてもあまり喜ばないだろうなとそっちも納得したのだった。
家柄だけなら優勝だな……