劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼女たちもいろいろと考えているんです


双子の相談

 放課後になり、何時も以上にやる気を出しているほのかを見て、泉美は何かあるのかと首を傾げたが、視界に深雪が入った途端、そんな事は気にならなくなった。

 

「泉美さん、どうかしたんですか?」

 

「なんでもないですわよ。ところで詩奈ちゃん、この書類は風紀委員のものじゃないかしら?」

 

 

 話題を逸らす為では無いが、泉美はちょうど目に入った書類を詩奈に見せ、興味をそちらに移した。

 

「本当ですね。どうやらこっちに混じっていたようですね。私が持っていきましょうか?」

 

「いいえ、見つけたのは私ですから、私が風紀委員会本部に持っていきます。会長、そういうわけですので、少し席を外させていただきますわ」

 

「えぇ、お願い」

 

 

 深雪から許可をもらい、泉美は生徒会室から直通の螺旋階段を降り、風紀委員会本部に顔を出した。

 

「あれ、泉美? どうかしたの?」

 

「香澄ちゃん一人ですか?」

 

「吉田委員長と北山先輩が見回りで、私が本部でお留守番なんだよ。それで、泉美は何の用でここに? 認印が必要なものはないと思うけど」

 

 

 生徒会室から風紀委員会本部に降りてくる理由がそれしか思い浮かばなかった香澄は、もしそうなら出直してくれと言外に告げている。泉美は首を横に振り、混ざっていた書類を香澄に差し出した。

 

「生徒会の書類の中に、風紀委員会宛の書類が混じっていましたので持ってきただけです。ですが、香澄ちゃん一人しかいないなら好都合です」

 

「なに?」

 

 

 泉美が自分に用事があると理解した香澄は、声を潜めて泉美に問いかける。泉美の方も声を顰め、香澄の耳元でささやく。

 

「今日の放課後、水波さんの護衛のお手伝いに行きませんか?」

 

「手伝いって言っても、ボクたちは病院内に入れないんじゃない? 達也先輩にお見舞いの許可を貰ってるわけでもないし、七草家は病院外担当だってお姉ちゃんが言ってたし」

 

「ですから、病院の外で光宣くんを待つんですよ。現れないかもしれませんが、光宣くんも私たち相手なら話を聞いてくださるかもしれませんし」

 

「今の光宣はパラサイトなんだろ? ボクたちが何を言っても光宣の心には響かないんじゃないか?」

 

「やる前から諦めるなんて、香澄ちゃんらしくないですわね。それとも、香澄ちゃんは光宣くんには敵わないと思っているのですか?」

 

「何でそうなるのさ」

 

 

 双子の妹からの言葉に、香澄は聞き捨てならないと言わんばかりに憤慨する。自分より光宣の方が魔法の才能に恵まれているのは香澄も分かっているが、彼女の性格上戦う前から負けるというのが我慢出来ないのだ。

 

「もちろん深雪先輩や司波先輩のお邪魔になるような事はしないつもりですが、光宣くんが私たちの説得に応じて、大人しくなってくれるのなら一番安全かつ、平和的な解決になるじゃないですか」

 

「そうかもしれないけど、アイツがボクたちの説得に素直に応じるなら、達也先輩に撃退された時点で大人しくなってると思うけどな……そもそも、達也先輩には光宣を殺さないようにするという枷があったにも拘わらず光宣は負けたんだから、今度現れる時は何か策を用意してくると思うんだよね。その策がどんなものかは分からないけど、ボクたちが邪魔をしたところで大人しくなるはずは無いと思うな。だから説得するにしても、戦う覚悟はしておいた方が良いと思う」

 

「それは私だって分かっています。ですが、光宣くんは元々心の優しい人ですから、水波さんが望んでいないと分かれば、大人しくなってくれると思うのです」

 

「どうだろう……ボクは前回のパラサイト事件の時のことを詳しく知らないけど、パラサイトって元々の人格すらも侵食するんじゃないの? いくら自我を保っているように見えるとはいえ、光宣はパラサイトだから危険だって、達也先輩がお姉ちゃんに説明してるのを聞いたけど」

 

「もし危険だと判断したら、その時は迎撃すればいいだけの話です。勝てるとは思っていませんが、無様に負けるつもりはありません。それは香澄ちゃんだって同じですよね?」

 

「当然だよ。ボク一人なら分からないけど、泉美と二人でなら光宣相手だってそれなりに戦えるはずさ」

 

 

 自分たち二人なら、ある程度格上の相手だろうが恐れる必要は無い。自分たちに力を過信しているわけではない

が、香澄と泉美はそんな考えを持っていた。

 

「さて、あまり長い時間こっちにいると深雪先輩に不審がられてしまうので、私はそろそろ戻りますね」

 

「分かった。たぶんお姉ちゃんも病院に向かうだろうから、ボクたちもお手伝い程度って感じで病院に行けばいいよね?」

 

「そうですわね。私たちも一応七草家の人間ですから、病院外を警戒する分には文句は言われないでしょうし、お友達が危険に曝されるのを黙って見ているわけにはいきませんもの」

 

「そんな事言って、司波会長に良いところを見せたいだけじゃないの?」

 

「そ、そんな事ありませんわ! 水波さんの事を心配しているのは事実ですし、光宣くんの事を止めたいと思っているのも事実ですわ!」

 

「そんなにムキになる事ないじゃないか」

 

 

 香澄としてはちょっとした冷やかしのつもりだったのだが、思いの外泉美がムキになったので、香澄の方が少し焦ってしまったのだった。




若干邪な想いが……

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