劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1528 / 2283
報告シーンが無かったのがちょっと不思議


襲撃の報告

 放課後、達也はピクシーに記録させたデータを持って魔法協会関東支部に足を運んだ。本当なら四葉本家に持っていくべきなのだが、今後の事を考えてここで受け渡しをした方が都合がいいと、真夜が言い出しての事である。

 

「お待ちしておりました、達也様」

 

「葉山さん、その呼び方は止めてくださいと何度も言ってるじゃないですか」

 

「その事は後程。今は奥様がお待ちですので」

 

 

 葉山は達也からの訴えを軽く流して、真夜が待つ会議室へと案内する。事情が事情なので、魔法協会の人間に案内させることを避け、葉山がエントランスまで出迎えた次第だ。

 

「それにしても、達也様の準備の良さには感服いたしますな。こうも上手く敵の弱みを握るとは」

 

「自分に降り懸かる火の粉を振り払う為には、これくらいはしなければいけませんから。ましてや、深雪にまで危害を加えるのを厭わない相手に、容赦をする必要は感じませんので」

 

「これはこれは。深雪様のガーディアンとしての習性ですかな? 桜井が負傷してしまった今、達也様が深雪様のガーディアンを務めるしかないわけですし」

 

「水波の件は置いておくにしても、俺に残されている本来の感情が、深雪に対して危害を加えようとする相手に容赦をする事を許さないので」

 

 

 達也に残っている強い感情について知っている葉山は、無言で達也の言葉に頭を下げ、真夜が待っている会議室の扉を開ける。

 

「奥様、達也様をお連れしました」

 

「ご苦労様」

 

 

 葉山を労い、真夜が達也に席を勧める。達也も真夜に軽く頭を下げてから、勧められた席に腰を下ろした。

 

「まずはご苦労様というべきかしらね。達也さんが警戒していてくれたお陰で、日本政府との交渉をスムーズに行う事が出来るようになるでしょうし、スポンサー様にも恩を売る事が出来るわ」

 

「東道青波ですか」

 

 

 達也がスポンサーを呼び捨てた事を、真夜は咎める事はしなかった。スポンサーと言っても、古い付き合いなだけで、真夜としてもあまり会いたい相手ではないのだ。

 

「それで、達也さんの魔法に関してのデータは、本当に記録されていないのね?」

 

「エレクトロン・ソーサリス直伝の技術ですので、問題は無いと思われます」

 

「なるほど、九島閣下のお孫さんの技術なら心配ないわね」

 

 

 真夜が烈を信頼しているとは思えないが、響子の立ち位置から考えて問題ないと思ったのだろうと、達也はそう解釈した。

 

「それで、達也さんは今後どうするつもりなのかしら?」

 

「どう、とは?」

 

「マスコミを操作してディオーネー計画を批難するつもりがあるのか、という意味です」

 

「俺が率先してやらなくても、風向きは変わると思ってます」

 

「そうね。私も必要無いと思ってるわ。スポンサー様を通じて、政府の人間たちが批難の声明を発表するでしょうし、ベゾブラゾフ本人の身柄を差し出せと言うかもしれないわね。そうなれば、ベゾブラゾフが賛同していたディオーネー計画についても見直される事は必至でしょうし、そうなれば達也さんにとっていい風が吹くかもしれないものね。もっとも、達也さんが世間の動向を気にしてるとは思わないけど」

 

 

 最後の言葉に、達也は苦笑いを浮かべるだけで何も答えなかった。実際世間がどう言おうがESCAPES計画を中止するつもりも無ければ、ディオーネー計画に参加するつもりも無いのだから、真夜の言葉は間違ってないのだ。

 

「それじゃあ、このデータファイルは貰っておくわね」

 

「では自分はこれで」

 

「あら、何か急ぎの用事でもあるのかしら?」

 

 

 用件は終わりだと言い、この場を立ち去ろうとする達也に、真夜はそう尋ねる。

 

「ベゾブラゾフの襲撃に関しては、他の十師族の耳にも入っているでしょうし、そうなると真由美さん辺りが騒いでいるのではないかと思いまして」

 

「七草のお嬢さんね。確かにあの子なら騒いでいても不思議ではないでしょう」

 

「奥様、東道青波と連絡が取れました。本日午後八時、何時もの場所でとの事でございます」

 

「分かったわ。本当ならたっくんとディナーでもと思ってたんだけど、お互いに事情が事情ですものね。それじゃあたっくん、今日は本当にお疲れ様でした」

 

「いえ、母上。葉山さんも、わざわざお時間を頂き、ありがとうございました」

 

 

 二人に対して頭を下げ、達也は魔法協会関東支部を後にした。

 

「ふぅ……葉山さん、お茶を貰えるかしら」

 

「はい、奥様」

 

 

 真夜からお茶を頼まれるのを予期していたかのように、葉山は素早く真夜の前にハーブティーを差し出す。

 

「たっくんのあの態度、もう少しどうにかならないのかしら」

 

「達也殿としても、体裁を整える必要があると考えての事ではないかと。奥様も、達也殿の事を普段通りにはお呼びにならなかったではありませぬか」

 

「それはね。何処で聞かれてるか分からないから仕方ないって分かってるけど、やっぱり不満なのよね」

 

 

 不貞腐れる真夜の事を、孫娘でも見るような目で見ていた葉山だったが、急に表情を改めて真夜に尋ねる。

 

「奥様は、そのデータをどのようにお遣いになるおつもりなのでしょうか?」

 

「相手が勝手に自爆してくれたのだから、精々有効活用させていただきましょうか。それに、USNAでも面倒な事が起こってるようだし」

 

「そのようですな」

 

 

 バランス大佐から送られてきたメールを思い出し、葉山は達也の周りでもう一波乱あるようだと達也に同情したのだった。




一難去ってまた一難……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。