劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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冗談が物騒過ぎるんだよな……


亜夜子の冗談

 午後の授業を終えても、達也の胸騒ぎは収まらず、深雪たちの作業が終わるまでカフェで難しい顔をしていた。

 

「珍しいですね、達也さんがそのような表情を人前で見せるなんて」

 

「亜夜子か……いや、そこまで珍しい事なのか?」

 

 

 昼食時にも指摘された事だが、達也はさほど珍しいとは思っていない。自分が人前で考え込むなどしょっちゅうあっただろうと思っているのだが、見ている側からすればそんな事は無い。確かに達也が考え込む事は多くあったかもしれないが、表情に出してまで考え込む事は、四葉縁者である亜夜子でも滅多に見た覚えがない程に。

 

「何か心配事があるのでしたら、文弥に調べさせましょうか?」

 

「いや、具体的に何が気になっているのかが分からないから困っているんだ。文弥に余計な心配をかける事になるだけだ」

 

「達也さんでも分からない事があるんですね」

 

「亜夜子は俺を何だと思っているんだ?」

 

「そうですわね……私たちの大切なお方、ですかね」

 

「そうか」

 

「……素面で撃退されると、言った私が恥ずかしくなってきてしまうのですが」

 

 

 亜夜子は達也を少し動揺させようと放ったのだが、達也は無表情のままそれを受け止めた。達也の感情が乏しいのは亜夜子も知っているはずだが、さすがに無表情で撃退されるとは思っていなかったのだろう。

 

「USNAの動きは、何か入ってきてないか?」

 

「USNAの動き…ですか……? 達也さんはUSNAに戻られているリーナさんに何か起こっているとお思いなのでしょうか?」

 

「リーナには精神干渉系魔法に対する耐性が無いから、万が一パラサイトが発生してリーナの身体を乗っ取ろうとしたら、そのままパラサイトに侵される可能性もあるからな」

 

「あら、USNAに旅立たれる前に、達也さんがリーナさんに何かしていたようでしたが、あれは洗脳対策では無かったのですか?」

 

「知っていたのか」

 

「何かをしていたのは知っていましたが、本当に洗脳対策だったとは思ってませんでしたわ。というか、達也さんの精神干渉魔法のレベルが上がっていたとは知りませんでした」

 

「あまり大っぴらに練習出来る魔法ではないからな」

 

 

 あくまで保険のつもりだったのだが、達也はリーナがスターズの魔法師から洗脳されるのではないかと懸念し、修行中の精神干渉魔法をリーナに施した。もちろん、それ程強い魔法ではないので、リーナが拒絶すればすぐに解除されてしまうが、今のところ解除された様子は無い。

 

「もしかしたら、達也さんが施した精神干渉魔法に対して、何らかの攻撃が仕掛けられていて、それで胸騒ぎがしているのではありませんか?」

 

「俺が施したのは、それ程強い魔法じゃない。攻撃を受けたら、すぐにやられてしまうだろう」

 

「またまた、ご謙遜を。司波深夜と同等かそれ以上精神干渉魔法を使えると噂されている程じゃないですか。経験不足はあるでしょうが、並大抵の攻撃に敗れるとは思えませんわ」

 

「随分な過大評価だな」

 

「達也さんご自身が過小評価し過ぎなのですわ」

 

 

 亜夜子の言葉に、達也は首を傾げる。元々四葉家内では下の方に位置していたので、自分の実力が四葉家内でどれくらいなのか把握していないのは達也も自覚しているが、練習の機会もろくに無いのにそこまで評価されるのだろうかと疑っているのだ。

 

「兎も角、USNAの動きは調べてみますが、達也さんの杞憂に終わると思いますわよ。幾らUSNA軍が達也さんを亡き者にしたいからといって、再びあの実験をするなどという愚策を犯すとは思えませんもの。裏で誰かが動いていたとしても、達也さんの敵ではないと思っていますわ」

 

「しかし、USNA軍の中には、前回の調査結果に納得いっていない者がいると聞いた。その人間を上手く唆して、マイクロブラックホールの生成・蒸発実験を行う可能性はあるだろう」

 

「まぁ、怪しい動きが見られると報告は入っていますが、さすがに踏みとどまるとは思いたいですわね……再びパラサイトが日本に襲来した場合、達也さんの計画が妨害されてしまいますから」

 

「そっちの対処は国防軍に任せればいいだろうが、余計なパラサイトが増えるのは面倒だ。封印の方法はある程度出来上がっているとはいえ、大量のパラサイトが押し寄せてきた場合、思わず殺してしまいそうだしな」

 

「達也さんでしたら、殺しても証拠は残らないのでは? 死体はおろか、血痕すら残さず消し去れるのですから」

 

「あまり人が多いところで言わないでもらいたいがな」

 

 

 周りの耳を気にしているわけではないが、達也は亜夜子に鋭い視線を向ける。亜夜子も注意を払っているので、他人の耳にこの会話が入っている事は無いのだが、達也に目で謝罪した。

 

「兎に角、達也さんの胸騒ぎが解消されるかもしれないので、いろいろと調べておくように言っておきますわね」

 

「あぁ、悪いな」

 

「いえ、いずれは達也さんの妻になるとはいえ、今の私はあくまでも分家の人間。本家の御方の役に立てるのでしたら、どのような事でも致しますわ」

 

 

 芝居がかった口調で冗談を言う亜夜子のお陰で、達也の表情は少し和らいだのだった。




それが冗談で済めばいいんだが……

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