劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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愚痴りたくなるのも仕方がないか……


無意識の攻防

 北アメリカ大陸合衆国ニューメキシコ州ロズウェル郊外。ここにスターズの本部基地がある。スターズは十二の部隊に分かれていて、各部隊が独自に命令を受け出動する事も多い。総隊長であったリーナは各部隊が携わっている任務をすべて把握している必要があったのだが、実際にはリーナに内容が伝えられない任務も多かった。

 先代のシリウスはスターズを完全に掌握していたが、リーナはそのレベルに至らなかった。否、全くと言っていい程近づく事すら出来なかった。彼女はお飾りの総隊長と陰口を叩かれていたが、あながち根拠のない事では無かった。

 

「今日は全部隊いたらしいけど、先週末はいきなり、第三隊と第六隊がどっか行ってたらしいし、知らないのはベンもだったから、まだ救いはあったけど……」

 

 

 リーナは、滞在用に宛がわれた部屋でシャワーを浴び、ベッドの上で独り言ちた。土曜日の朝に第三隊のアークトゥルスと第六隊のリゲルの姿が見当たらなかったようで、カノープスに何か知らないかと尋ねられた。カノープスはリーナよりも各隊の動向をよく把握しているので、リーナが現役の時ですら彼の方が総隊長に相応しいとすら言われていたのだが、そのカノープスが知らない事をリーナが知っているはずもなく、彼女はミアにその事を探らせたが、結局分からなかった。

 第三隊と第六隊の事はスターズの中でも知らない人間が多かったので、リーナは自分だけが蚊帳の外に置かれていたわけではないと自分を慰めたが、表向きまだ総隊長である自分の地位が蔑ろにされている事実に変わりはないと改めて落ち込んだ。

 現役の頃から心の片隅に押し込めていたストレス源だが、今夜は何故か頭蓋骨の裏側に貼り付いて離れない。考えまいとする程、頭の中で自動再生される。

 

「(いったい、第三隊と第六隊は何処へ、何をしに行ったのかしら。何故表向きはまだスターズの総隊長の地位にある私に出動理由が教えられていないのかしら……私は兎も角、ベンも知らないなんておかしいわ)」

 

 

 気にしては駄目だと自分に言い聞かせる程、苛立ちが募る。

 

「(そりゃ元々、戦略級魔法が使えるだけの、力が強いだけのお飾り総隊長なんだろうけどさ)」

 

 

 その結論を心の中で出してしまったがために、リーナは独り言を自分の中で留める事が出来なくなってしまった。

 

「そりゃ私は、まだ十七歳の小娘だし。飛び級するような頭は無いし。そもそもそんなに成績は良くなかったし。部隊指揮の教育なんてまともに受けてないし。背は高くないし。童顔だし。でも、出動理由くらいちゃんと伝えておきなさいよね。留守にするならあらかじめ報告するのが普通でしょ。予定が変わったしわ寄せは『総隊長』のところに来るんだから。私が総隊長で不満なら、何時でも外しなさいよね! もう殆ど抜けてるんだし、さっさと変えなさいよ! 頼りない総隊長で悪かったわね! でも、私が自分から志願したわけでも無いんだから!」

 

 

 リーナはブランケットを捲って中に潜り込み、そのまま眠りに落ちた。誰も聞いてくれなくても、散々愚痴を言ってスッキリしたのか、それとも自虐の沼でもがくのに疲れたのかは分からないが、リーナの眠りは何時も以上に深かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、リーナは懐かしい夢を見た。潜入先の第一高校、その裏山で、パラサイトを次々と殺していった記憶。パラサイトが襲いかかってきては、魔法で撃ち倒す。いつの間にかループしていた夢の中で、リーナは首を捻った。

 

「(達也と深雪は、何時登場するんだろう?)」

 

 

 登場人物でありながら観客でもある、あの夢に独特の多重視点の中で、観客側の意識が訝しさを覚えた。達也も深雪も、自分の事を「小娘」扱いしなかった。自分を「十三使徒」だからといって特別扱いしなかった。同年代なのだから「小娘」扱いしないのは当然だし、達也はヘヴィ・メタル・バーストを超える戦略級魔法の使い手だったから、特別扱いする理由は無かったのだろうが、そうだとしても対等に扱ってもらえたのが嬉しかった。

 隣に深雪も達也もいない。その事に一抹の寂しさを覚えながら、その寂しさを紛らわすように、リーナはひたすらパラサイトを撃退し続けた。

 一方でリーナに侵入できないパラサイトたちは、だんだんとざわめきだした。

 

「(総隊長の精神に侵入出来ない)」

 

「(総隊長には精神系の魔法適性が無いのではなかったのか?)」

 

「(総隊長にルーナ・マジックの適性は無いはずだ)」

 

「(では何故、侵入できない?)」

 

「(押し返される。退けられる。撃退される)」

 

 

 夜の闇の中、蜂の巣から聞こえてくる羽音のようなざわめきが満ちる。肉体の耳では聞き取れない音、精神体の間で交換され、共有される会話だ。パラサイトの相談の声。自問自答の声。

 

「(総隊長の同化は困難だ)」

 

「(総隊長の同化は不可能だ)」

 

「(総隊長は危険だ)」

 

「(彼女は、危険だ)」

 

「(彼女は、我々の敵になるだろう)」

 

「(彼女は、排除すべきだ)」

 

「(彼女を、排除しよう)」

 

 

 ざわめきはやがて、一つの声になった。




リーナも溜まってたんだな……

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