劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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暇つぶしで済む内容ではないかな……


ちょっとした暇つぶし

 とりあえず真由美を新居に送り届けてから、達也は一高に顔を出した。授業は既に終わっているし、生徒会の仕事も免除されている達也が何故こんな時間に顔を出したのか、彼とさほど親しくない人間にはよくわからなかったが、一年の頃から彼の友人をやっているレオは、すぐに達也が顔を出した理由に思い当たり、声をかけた。

 

「深雪さんたちのお迎えか?」

 

「そんなところだ。レオの方は、山岳部はもう終わったのか?」

 

「後片付けを一年たちがやってるが、俺たちはもう終わりだな。だからどうやって時間を潰そうか悩んでたんだが、達也の姿が見えたから声をかけたんだ」

 

「レオが一番というのも珍しい。普段は美月かエリカが一番なんだろ?」

 

 

 いつものメンバーで達也は最後の方に合流する事が多いので、普段は誰が一番早く集合場所に顔を出しているかは知らない。だがレオが一番というのはあんまり聞かなかったような気がすると、達也はレオに確認したのだ。

 

「まぁ、そろそろ俺たちも引退だから、何時までも部活の最後まで顔を出してるのも考え物だしな。特に山岳部は、何かの大会があるわけでもないし」

 

「そんなものか」

 

「次期部長には桜井を考えてたんだが、復帰出来るかどうか分からないんだろ?」

 

「日常生活には問題ないくらいまでは回復するが、山岳部に顔を出せるまで回復するかは微妙だ」

 

 

 山岳部は非魔法競技クラブなので、演算領域に不安を抱えたままでも参加は出来るが、出来る限り不安を取り除くためには、復帰は難しいだろう。

 

「まぁ、俺は見舞いにとかいけないけど、順調に回復はしてるんだろ?」

 

「今のところ、悪化している事は無い。回復しているかは別にしても、話すだけなら問題はないくらいの状態だ」

 

「ロシアからの長遠距離魔法攻撃を一人で防ぎ切ったんだろ? 普通なら死んでるぜ?」

 

「水波は魔法防御に特化した魔法師だから、普通ではないだろ」

 

「いや、そうじゃなくて……十文字先輩クラスの魔法防壁を使える魔法師なら兎も角、桜井はそこまでの強度は無いんだろ? 良く無事だったなと思っただけだ」

 

 

 レオは何時ものメンバーの中では成績下位だが、別にバカではない。だから、水波の魔法特性もちゃんと把握しているのだ。

 

「水波の執念とも言える技だった、としか言えないな。水波がいなかったら、俺も深雪も無事では無かっただろう」

 

「達也の魔法なら――おっと、これは禁句だったな」

 

 

 周囲の耳を気にして、レオはそれ以上何も言わなかった。達也の得意魔法である内の一つである再成は、おいそれと他人に話せる内容ではないのだ。

 

「おーい、達也くん。ついでにレオ」

 

「俺はついでなのか!」

 

「当たり前でしょ? あたしは達也くんの婚約者なんだから。アンタなんて達也くんのおまけよ」

 

「ついでより酷くなってるじゃねぇかよ」

 

 

 待ち合わせ場所に現れたエリカとレオは、これまた何時も通りのやり取りを始める。

 

「だいたい何でレオがもういるわけ?」

 

「今日は早めに終わらせたんだよ」

 

「うわぁ、職権乱用。部長がやる気ないからって早めに終わらせたのね」

 

「チゲェっての! 他の連中が桜井の事を気にして身が入ってなかったから、怪我しねぇ内に終わらせたんだよ」

 

「水波の事を?」

 

 

 二人の言い争いを黙って聞いていた達也だったが、レオの口から水波の名前が出てきて、思わず口を挿んだ。

 

「達也は身内だから気付いてねぇのかもしれねぇけど、桜井は結構人気あるんだぜ? 誰に対しても丁寧だし、お淑やかだけどその裏には隠し切れない闘志がみなぎってるってな」

 

「男子ばっかりの部活に水波のような可愛い女の子がいれば、そりゃ注目されるわよね」

 

「そうだな。オメェと違って口も悪くねぇし、手も足も出してこねぇしな」

 

「何ですってっ!」

 

「いてっ!? だからそれを止めろって言ってんだよ!」

 

「今のはレオくんが悪いよ」

 

「美月……俺の何処が悪いっていうんだよ?」

 

「それが分からないから、あんたはモテないのよ」

 

 

 美月の言葉に不満を示したレオだったが、それが更にエリカから罵られる原因となった。納得のいかないレオは、達也に視線で問いかけたが、達也は肩を竦めただけで何も言わない。

 

「達也さん、いらしてたんですね」

 

「さっきな」

 

「今日も例のプロジェクトの件でお休みだったんですか?」

 

「いや、今日は緊急師族会議のオブザーバーとして、魔法協会関東支部に顔を出していた」

 

「達也くんも忙しいわね。十師族の次期当主であり、エネルギープラント計画の主任でもあるんだから」

 

 

 さすがに友人たちに「光宣がパラサイトになった」とはまだ伝えていない。いずれ伝えなければならない時は来るだろうが、内々に片づけられるなら、それに越した事は無いのだ。

 

「そろそろ生徒会の業務も終わるだろうから、俺は生徒会室に行くよ」

 

「じゃああたしたちはここで待ってるわね」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

 

 エリカと美月が達也を見送る言葉をかけ、レオが片手をあげているのを見て、達也も右手をあげてレオに応える。そのやり取りをした後、エリカはもう一度レオの顔を見て深いため息を吐くのだった。




少し動くだけで濃い内容の出来事が……

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