劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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事情を知らない人間ばかり


クラスメイトの視線

 3年E組にやってきた達也を出迎える視線は、主に三種類に分かれていた。一つ目は十三束に同情的なグループが向けてくる、敵愾心むき出しの視線。二つ目は美月に賛同する達也に友好的な視線。そして三つ目は、普通にクラスメイトに向ける視線だ。

 達也は特にどの視線にも付き合う事はせず、自分の席に腰を下ろすと、すかさず美月が話しかけてきた。

 

「達也さん、エリカちゃん、おはようございます」

 

「あぁ、おはよう」

 

「おはよー」

 

「もうツッコむのもあれだけど、エリカちゃんのクラスは隣だからね?」

 

「分かってるって。でもこっちに来てた方が楽しいし」

 

「楽しいって……学校は遊びに来る場所じゃないんだよ?」

 

 

 美月の言葉に、エリカはケラケラと笑いながら片手を振って「分かってる」アピールをするが、美月はそれでもエリカに何か言いたげだった。

 

「ところで達也くん、さっきから睨んできてる奴らがいるけど、何かしたの?」

 

 

 達也は気にしなかったが、エリカは自分まで睨まれている気になり思わず尋ねる。昨日の事はエリカも知っているが、ここまで睨まれるような事ではないと思っているので、その出来事と視線を結び付ける事が出来なかったのだろう。

 

「心情的に十三束の味方をした奴らが、十三束に対してまともに取り合わなかったと思って睨んできてるんだろ。放っておいても問題はない」

 

「あぁ、昨日の……というか、殆ど関係ない奴らなんじゃないの? 文句があるなら直接言いにくればいいのに」

 

 

 睨んできてる連中を逆に睨み返し、エリカは「そんな度胸も無いくせに」と言外に避難すると、達也を睨んでいたグループは揃って視線を逸らした。

 達也はこの程度の視線で何かしてくるとは思っていなかったので、容赦のない視線を浴びせる事が出来たが、エリカなら何かしてくるかもしれないと怯えたのだ。

 

「だいたい達也くんはもう、自分が何をするかはっきりと明言したのよ。それをとやかく言える権利なんて、個人にも国にもありゃしないのに」

 

「そうやって簡単に割り切れる人間ばかりじゃないって事でしょ」

 

「あら千秋。朝から見かけなかったけど、何処にいたの?」

 

「お姉ちゃんの手伝いで朝早くから魔法大学に。というか、達也さんには言っておいたし、他のメンバーもだいたいが知ってるみたいだったんだけど?」

 

「そうなんだ。あたしは聞いてないかな」

 

 

 エリカの言葉に返事をしながら教室に入ってきた千秋にも十三束に同情的なグループから容赦のない視線を向けられたが、エリカが一睨みしただけでその視線はすぐになくなる。

 

「どれだけ凶暴だと思われてるの?」

 

「さぁね? 魔法無しなら達也くんの次に危険、とでも思われてるのかしらね」

 

「深雪は魔法在りきだもんね」

 

「それ、言えてるわね」

 

「ち、千秋さん……エリカちゃんまで」

 

 

 深雪の耳に入ったら大変な事になると心配して、美月は二人を黙らせようと努力するが、二人はまるで相手にせず笑いながら話し続ける。

 

「そもそも深雪に喧嘩を売るようなヤツがまだこの学校にいたとはね~」

 

「あっ、それ私も聞いた。頭に血が上ってたらしいけど、どんな状況でも深雪に喧嘩を売るなんて、一高の生徒ではあり得ないと思ってた」

 

「挙句に後輩女子に図星を突かれて、その子のおへそが見えただけで照れちゃってあっさりやられたらしいけどね」

 

 

 あえてクラス中に聞こえるように話しているのか、千秋とエリカの会話は十三束の耳にもしっかりと届いていた。

 十三束が達也と対立した事は知っているが、そんな事になっていたとは知らなかったクラスメイトたちは、一斉に十三束に視線を向け、中には侮蔑の視線も混じっていた。

 

「図星を突かれたって、何を言われたの?」

 

「自分の都合だけでこの決闘を仕掛けたって。お母さんの事は確かに可愛そうだけども、それは達也くんの所為じゃないしね」

 

「国の所為だし、それを受け流せなかった本人の所為でもあるわね。達也さんに怒りをぶつけるのは、逆恨みですらないわ。ただの擦り付けね」

 

「ふ、二人とも……」

 

 

 十三束がいつ逆上するか不安な美月が、二人を何とか止めようとしたが、その抑止の声に力は無く、二人は気にした様子も無く話を続けようとしたが、思いがけない人物から美月への援護射撃が放たれた。

 

「エリカも千秋もそれくらいにしておけ」

 

「えっー。これくらい言わなきゃ分からないヤツだっているんだし、達也くんが批難されるいわれは無いんだしいいじゃん」

 

「これ以上は美月にも十三束にも負担が大きすぎる。俺は別に何とも思っていないし、やるつもりなら容赦はしないしな」

 

「達也さんが容赦しないって……確か、十文字先輩に勝ったんですよね?」

 

「そうよ。それも十文字先輩が得意な条件で、真正面からね」

 

「何故エリカが答えるんだ?」

 

 

 エリカの答えを聞いたクラスメイト達や十三束は、自分たちの感情を一瞬忘れ呆然と達也を見詰めた。克人の強さは現三年生なら誰でも知っているので、その克人に正面から挑んで勝つという事がどれ程の事か分かっているから受けた衝撃が大きすぎて感情をコントロール出来なくなってしまったのだ。

 

「おっと、そろそろあたしは行くわね」

 

「エリカちゃん……」

 

 

 クラス中の空気を破壊しておいて逃げ出したエリカに、美月は恨みがましい視線を送るのだった。




爆弾落としていって逃げた……

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