放課後になり、深雪たちは生徒会室へと足を運んだ。さすがに生徒会室まで押しかけて質問をしてくるような輩はいなかったので、彼女たちは漸く一息吐けたのだった。
「お疲れさまです、深雪様。北山様に光井様も」
「水波ちゃんもご苦労様。貴女も達也様の件で質問を受けたのでしょ?」
「それだけ達也さまの発案したプロジェクトが素晴らしいと認めてくださっているのでしょう」
「そうだと良いんだけど」
「雫、何か知ってるの?」
風紀委員でありながら生徒会室に入り浸っている雫に対してのツッコミは無く、ほのかは雫が意味深に呟いた言葉に興味を向けていた。
「お父さんから聞いたんだけど、財界は兎も政界は達也さんのプロジェクトを快く思って無いみたい」
「どうして? 達也さんのプロジェクトだって、魔法師にとっては職の幅を広げるものだと思うし、実用段階になれば、国際的なプロジェクトになると思うんだけど」
「政界にいる人間の殆どは、魔法師じゃないから。成功するかまだ分からないプロジェクトより、同盟国から参加要請されたプロジェクトに参加させたいみたい」
「何それ! 参加するかしないかを決めるのは達也さんであって、政界の人間じゃないのに!」
ほのかは怒りを露わにしたが、深雪が黙っているのが水波には不気味に思えていた。また、水波の隣で深雪に見惚れていた泉美も、どことなく恐怖心を懐いていた。
「司波先輩がディオーネー計画に参加しないと、何がいけないんですかね?」
唯一この中で達也にも深雪にも特別な感情を懐いていない詩奈が、今更ながらの質問を投げかける。その質問に全員の視線が詩奈に向けられ、詩奈は何事かと身構える。
「な、何でしょうか?」
「いえ……詩奈ちゃんはお父様やお兄様たちから何も聞いていないのかしら?」
「私は十師族の一員とは言え、泉美さんや香澄さんたちと同じく跡を継ぐわけではありませんので。詳しい話は滅多に聞けません」
「なら仕方ないのかもしれませんわね。私もお父様からではなくお姉様から聞いたのですが」
詩奈の立場に一番近い泉美が、詩奈が知らないのも仕方ないという表情で頷き、そう前置きをしてから説明を始めた。
「ディオーネー計画の表向きの目的は、金星の開発で間違いありません。これは人口増大に対する一つの解決策とも言える計画です。魔法師だけではなく、魔法師でない人間にも関係する問題ですので、これに参加する事が名誉だというのも納得が出来ます」
泉美はそこで話を切って、詩奈の反応を見た。詩奈は、そこまでは分かっているといった感じで頷いて泉美に先を促した。
「ですが、ディオーネー計画には裏の目的があると言われているのです」
「裏の目的、ですか?」
そんな事知らないといった表情で、詩奈が泉美に問い返す。詩奈以外のメンバーが驚いていないのを見て、彼女は少し調べればすぐにわかる事なのかと理解したのだった。
「自分たちに都合の悪い魔法師を、宇宙空間に放り出し、地球上に居場所をの無くすのがディオーネー計画に隠された裏の目的だと、お姉様は言っておいででした」
「ですけど、そんな事を人権団体が許すわけが無いじゃないですか」
「マスコミの方々は、耳障りのよい表向きの目的しか聞かされておりません。わざわざ裏を探ろうとすることも無いでしょうから、世論は司波先輩をUSNAに差し出せと騒いでいるのです」
「そんな事が許されるのでしょうか……」
詩奈が呟いた言葉に対する答えは無かった。詩奈は誰も何も答えない事が答えなのだろうと受け取り、沈鬱な表情でうつむく。
「じゃあ未だに司波先輩が学業に復帰されないのは、授業免除があるからだけではないのですね?」
「達也さまは、自分を取り巻く問題が解決するまで、周りに迷惑を掛けないようにするのが一番だろうと仰られていました。下手に人が大勢いる場所に身を置いて、自分以外の人間に被害を及ぼすのを避けたいとも」
「それなのに達也様は、魔法師の事を考えていないとか、日本の立場を悪くするつもりだとか言われているのですよ? 私たちがマスコミに嫌気がさしている理由が、これで分かったかしら?」
「はい……司波会長や光井先輩たちが、司波先輩にディオーネー計画に参加しろと言っている先輩たちに苛立っていた理由も」
詩奈は元々、ディオーネー計画に参加した方が良いとは思っていなかったが、あそこまで言われるのに何でなにも言い返さないのだろうかとは思っていた。だが裏事情を知れば、達也があえて反論しなかった理由にも納得がいったのだった。
「司波先輩の方が、魔法師や人類の未来を本当に考えているのに、ただ大々的に発表されたからという理由だけで縛り付けようとするなんて、そんなのおかしいです! お父さんたちにもそう言います!」
「それでお父様たちの立場を悪くしないのなら、そうしてくれるとありがたいわね。どうやら十師族を掻きまわして達也様の立場を悪くしようと動いてる連中がいるみたいだから」
「分かりました。三矢家は――私個人は司波先輩のプロジェクトを支持します!」
詩奈の力強い返事に、深雪は柔らかい笑みを浮かべ、生徒会業にに取り掛かるように指示するのだった。
詩奈なら聞いてても不思議ではないんですけど、跡取りじゃないですから知らない態で