達也の会見は、魔法科高校全てで話題になっていた。その中でも特に、三高では異常なくらいに話題に上がっていた。いい意味ではなく、悪い意味で。
「おい将輝、例の会見、見たか?」
「あぁ。さっき録画したのを見たが、それがどうかしたのか?」
三高の一条将輝は、昼休みに吉祥寺真紅と一緒にトーラス・シルバーの記者会見を見ていた。彼らも達也がトーラス・シルバーだと信じて疑っていなかったので、あの展開には衝撃を受けていたが、友人たちの反応はそう言った類の物ではないと直感的に理解した。
「九校戦が中止になった原因だけじゃなく、世界的な技術者だったなんて、一高は反則で昨年と一昨年の優勝を返上すべきじゃないか? 高校生の大会に既に世界で活躍してる技術者が参加するなんて、おかしいだろ」
「その理屈だと、既に実戦経験済みの俺や、世界的な地位を確立してるジョージがいる俺たち三高も反則になるんじゃないか?」
「将輝や吉祥寺は良いんだよ。あくまでも『実名』での活躍だから。だが司波達也は違うだろ? 実名を公表することなく、裏で俺たちの事を嘲笑って参加してたんだから」
「会見でも言っていたが、未成年だから実名を非公開にしていたんだ。それは別に珍しい事ではなく、むしろ俺やジョージの方が珍しいんだが」
将輝は十師族の一員として、生まれた時から次期当主としての宿命を背負わされていたし、真紅郎は実名を公表したからと言って、他所の国から身柄を狙われるような危険は無かった。だが達也の場合は、その技術力を欲して誘拐を企てたり、日本の技術力低下を目論んで彼の暗殺が計画されるといった恐れが多少ながら存在するような実績なのだ。名前を伏せていた事が悪いとは、将輝や真紅郎は思っていなかった。
「そもそも司波達也は一高の生徒であって、九校戦に参加しても別にルール違反をしているわけじゃないだろ。確かに世界で活躍してる技術者が参加してるのは反則臭いが、ルールに反していない以上、文句を言える問題ではないだろ」
「だけどよ……最初からトーラス・シルバーが参加してると分かってれば諦めもついたが、無名の男に負けたんだぜ? 先輩たちはさぞ残念な気持ちを味わっただろうし、そう考えると、やっぱり司波達也は俺たちの事を嘲笑っていたんだと思っちまうんだよな……」
「一年の時の論文コンペだって、吉祥寺が負けたのは市原鈴音の発表が素晴らしかっただけじゃなく、トーラス・シルバーが参加してたからだし」
「さっきの会見で言ってたように、トーラス・シルバーは個人名じゃないよ。彼はあくまでも『トーラス・シルバー』を成す一人であって、彼=トーラス・シルバーではないんだから」
「あんなのは屁理屈だろ? ディオーネー計画に参加したくないからでっちあげた嘘なんじゃないか?」
「そんなことすれば、ますます彼の立場が危うくなるだけだと思うけど……」
真紅郎は、ディオーネー計画の真の目的に薄々勘付いているし、将輝も何となく真紅郎が疑っている事に気付いている。だが同じ十師族の一員として、日本の魔法師全体を世界から孤立させる事になり得る達也の不参加を、みすみす認めるわけにはいかなかったのだ。
「今回発表された司波の計画は、ある意味ディオーネー計画に負けないくらい、魔法師の未来を明るくするものだと俺は感じた。無理にUSNA主催の計画に参加しなくても、日本の魔法師の立場は悪くならないと思う」
「僕もそう感じた。それに、あれだけの計画を、ディオーネー計画が発表されてから考えるなんて無理だろうし、参加要請があった前から準備してたというのは、あながち嘘では無いと感じた。口惜しいけど、僕じゃあそこまでの計画は立てられないし、僕たちと同い年であそこまで堂々と発言出来る人は、それほど多くないと思うよ」
「将輝と吉祥寺がそう言うなら、そうなのかもしれないけどよ……何か釈然としないんだよな」
「分かる。なんというか、イライラが収まらないというか……この感情を何処にぶつければ良いのか分からないんだよな」
その気持ちは、将輝や真紅郎の中にも確かにある。将輝は真正面から戦って達也に負けた過去があるし、真紅郎は同じ参謀として戦い、悉く達也に敗れた過去がある。その相手が一介の高校生ではなく、同じ十師族の跡取り、世界的に評価されている技術者だと知り、複雑な思いを懐いたのだから。
「兎に角、あんまり司波の事を悪く言うと、今度は俺たちがマスコミの餌食になるかもしれないから気を付けるんだな。特に魔法産業に詳しいメディアは、今回の発表を受けて司波へのディオーネー計画への参加要請を引っ込めて、今回の計画を大々的に報じているし、その内他国からも手伝いたいという要請があるかもしれないから、日本が世界から孤立する事も無くなるだろうしな。司波を責める理由が、マスコミには無くなる」
「それどころか、彼は魔法師の地位を完全に確立させるかもしれないからね。あの計画が成功すれば、彼は間違いなく英雄になるだろう」
「そこまでかよ……」
「何だか敵視するのも馬鹿らしくなるくらいの事だったんだな……」
将輝と真紅郎の説明を受けて、三高の生徒たちは漸く、達也の計画の凄さが理解出来たのだった。
滑稽すぎてツッコむ気にもなれないな……