劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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タイトルこれですが、実際は最後の方だけです


老師の愚痴

 深雪たちが祝勝会で盛り上がってる時刻、達也は部屋で寝ていたのでは無く地下駐車場に来ていた。

 

「例の件、もう調べ終わったんですね。さすがミズ・ファントムですね」

 

「知ってたのね……まぁ司波君なら知っててもおかしく無いか」

 

「実は師匠が漏らした情報から探り当てました」

 

「なるほどね」

 

 

 遥の車に乗り込んでの会話、事情を中途半端に知ってる人が見れば教師と生徒の逢引、全く知らない人が見ればなかなかお似合いのカップルだと勘違いするだろうが、実際はそんな色っぽいものでは無い。

 

「頼まれたから調べたけど、この情報はやっぱり高校生の君には……」

 

「足りませんか?」

 

 

 遥のディスプレイに送られてきた、達也が提示してきた報酬額は普通の高校生が払うには破格過ぎる値段だった。

 

「十分だけど、大丈夫なの? こんなに貰ったら君の生活とか……」

 

「ご心配なく。不満ならもう少しは足しますが」

 

「今言ったけどこれで十分よ。でも如何やったら一介の高校生がこれだけの額を……」

 

「それ以上は不干渉でお願いします。俺も先生を消したくないので」

 

「……冗談でしょ?」

 

「ええ冗談です」

 

 

 達也の名誉の為に言っておくが、これはもちろん黒いお金では無い。彼が「シルバー」として得た正当な報酬の内の一部に過ぎないのだ。

 

「保険……なのよね?」

 

「そうとってもらって構いませんよ。なるほど、構成員だけでは無く潜伏先までとは……追加報酬を払いましょうか?」

 

「あれでかなり貰ってるわよ。そもそもあんなに貰えるなんて思って無かったから」

 

「そうですか、では」

 

「無茶だけはしないでよね」

 

 

 遥の車から降り、駐車場から出て行くのを確認してから、達也は別の車に乗り込む。その際にカモフラージュでつけていたガーゼを耳から外して跡形も無く消し去った。

 

「今の人は?」

 

「公安のオペレーターです。本人はカウンセラーが本業だと言い張ってますが」

 

「パートタイムオペレーターって訳ね」

 

「仕事が出来るなら素人だろうがセミプロだろうが変わりませんしね。プロに頼むのは金も掛かりますし何より守秘義務をマニュアル通りに守ってくれますからね。内職をする時点で職業倫理に反してるのですが、そこは地獄の沙汰もと言うやつで」

 

「相変わらず考え方が高校生離れしてるわね。もしかして私と歳近いんじゃない?」

 

「年齢では無く経験かと。何分普段から普通では無い経験を積んでますから」

 

 

 達也の言葉に響子が視線を逸らした。

 

「別に少尉や少佐に対する嫌味じゃないですから気にしなくて良いですよ」

 

「それで、いくら払ったの?」

 

「何故それを気にするのです?」

 

「え? 経費で落とすでしょ?」

 

「ウチの部隊にそれだけの金があるとも思えませんが……それにこれは独立魔装大隊で買ったのではなく、俺個人が買い取った情報ですから」

 

「それじゃあ、私も「藤林少尉」では無く「藤林響子」としてお金を払うわよ」

 

「お気になさらずに」

 

 

 達也はケーブルを引っ張ってカーナビに地図データを送る。

 

「私も臨時収入を強請ろうかしら」

 

「時間外手当を請求するのが普通では?」

 

「労働基準法外なのよ、ウチの部隊は」

 

「軍隊に労基法も何もないと思いますが……でしたら今度何かご馳走しますよ。今回のお礼として」

 

「ホント!? あっでも、深雪さんも一緒よね……」

 

「アイツを仕事に巻き込む訳にはいきませんよ。俺一人です」

 

「なら頑張っちゃおうかな!」

 

 

 達也の提示した報酬に、響子は俄然やる気を出した。とは言っても、響子の仕事は基本的には運転手なのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それとほぼ同時刻、独立魔装大隊隊長風間玄信の許に一人の来客があった。

 

「ご無沙汰しております九島閣下。藤林は今使いに出しておりませんが」

 

「孫に会うのに上官の君を通す必要は無いだろ」

 

「では、どの様なご用件で」

 

「十師族嫌いは相変わらずのようだな」

 

「ですからそれは誤解だと何度も……」

 

 

 風間を訪ねて来たのは魔法協会のトップ、九島烈だった。

 

「それで、どの様なご用件で私などを訪ねてこられたのでしょうか」

 

「彼の事でちょっとな」

 

「彼……ですか?」

 

「君が四葉から引き取った深夜の息子だよ。確か、司波達也君とか言ったかな」

 

「………」

 

「私が知っていてもおかしくは無いだろ。一時とは言え深夜と真夜は私の弟子だったんだから」

 

「ならご存知かと思いますが、四葉は達也の所有権を放棄してません」

 

 

 風間の答えに、烈は笑みを浮かべた。

 

「惜しいとは思わないか」

 

「惜しいとは?」

 

「彼は一介のボディーガードで終わらせるような魔法師ではない。司波達也君は将来一条将輝と並んでこの国を守れる存在になるだろう」

 

「閣下は四葉の弱体を狙ってるのですか?」

 

「そういう訳では無いが、ただでさえ頭一つ抜けている四葉に、彼のような戦力が居て、四葉真夜が存命のまま「司波深雪」が「四葉深雪」になったら、それこそ四葉の独裁が始まるかもしれないからね」

 

「四葉殿はそのような事を考えるようなお方では無いように感じられましたが」

 

「人間、内に秘めた思いってものがあるものさ」

 

 

 烈の言葉を聞いて、風間は少し瞼を閉じて、その瞼を開いたのと同時に口を開く。

 

「閣下のお考えは良く分かりました。それをふまえて一つ進言と訂正を申したいのですが」

 

「構わんよ」

 

「ハッ、ではまず、達也はそのような同情をされるのを嫌います。あいつは閣下がお考えのような感情を持ち合わしていませんので」

 

「なるほど、それが進言かね。では訂正を聞こうか」

 

「将来では無く、既に達也は我が部隊の最高戦力です。こう言っては身内贔屓に聞こえるかもしれませんが、一条将輝は拠点防衛において単体で機甲連隊に匹敵する戦力ならば、達也は単身で戦略誘導ミサイルに匹敵します。彼の魔法は幾重にもセーフティロックが掛けられていて当然の戦略兵器だ。その管理責任を彼一人に背負わせる方がよほど酷と言うものでしょう」

 

 

 風間の言葉を面白そうに聞いていた烈だったが、風間が口を閉ざすとその表情は消え去った。

 

「なるほどな。彼本来の魔法というのが、どんなものかは知らないが、四葉が所有権を完全に放棄してないとなると面倒だな」

 

「しかし当主である四葉真夜殿は達也を気にいってる様子でしたが」

 

「真夜が? なるほど、彼も面白い存在になりそうだな。ところで響子に頼んだ使いと言うのは、私が聞いても良いのかな?」

 

「それくらいでしたら。藤林には香港系シンジゲート殲滅の為に動いている魔法師の運転手を任せました」

 

「なるほど。確かに「使い」だな……仕事とは呼べん内容だ」

 

「本人が申し出たものですので、私どもには何とも……」

 

「響子ももう30手前だからな……誰かいい人でも居ないものかと思ってるのだが……軍属だとなかなか如何して……」

 

 

 孫の愚痴を言い出した烈を追い返す訳にもいかず、風間はそのまま烈の愚痴に付き合うのだった……




響子って確か27ですよね? それくらいなら独身でもおかしく無いような気も……

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