劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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実に白々しいインタビューだ


ベゾブラゾフのインタビュー

 ニュースはモスクワからの中継録画。画面に映っていたのは新ソ連アカデミーの幹部と、国家公認戦略級魔法師『十三使徒』の一人である、イーゴリ・アンドレビッチ・ベゾブラゾフその人だった。ニュースはベゾブラゾフに対するインタビュー画面に移っていた。

 

『ベゾブラゾフ博士、アメリカの「ディオーネー計画」に対する参加をご決断された動機をお聞かせください』

 

『先程長官からもお伝えしました通り、金星のテラフォーミングには国家間の対立を超えた意義があると信じたからです。私たち人類は一世紀以上前から、世界総人口の限界に怯えてきました。それは遠くない未来、人類同士の破壊的な対立、人類社会の活力の低下を招き寄せます。生存圏の拡大は、人類の未来に待ち受ける破局を回避する唯一の解決策でしょう』

 

『だから博士は、その為の計画に、積極的に関わっていこうと?』

 

『魔法という技術は、人類同士の闘争に用いられるより、人類の未来を切り拓く為に用いられるべきものですからね』

 

『計画が実際に進められる段階になれば、博士が我が国を離れアメリカに活動拠点を移さなければならない状況も考えられますが、それについて政府の了解は得られているのでしょうか。戦略級魔法師でもある博士が長期間、国を離れるという事になれば、国防上の懸念も予想されますが』

 

『平和を愛する私たちの政府は、国防力を低下させる事になっても金星開発計画には全面的に協力すると約束してくれました。ただ研究拠点を何処に置くかについてはデリケートな問題であり、現段階では未定だと理解しています』

 

『アメリカではなくこの新ソ連に研究拠点が設けられる可能性もあるということですか』

 

『もちろん、その可能性もあります。ただ個人的には中立国、あるいは如何なる政治的なコントロールも受けていない場所に新拠点が置かれる可能性が高いと考えます』

 

『計画拠点を何処に定めるだけでも、相当な対立が予想されますが』

 

『人類史上かつて無い壮大なプロジェクトです。本拠地の場所だけでなく、様々な問題が待ち受けているでしょう。しかし私たちは、理性の力でそれを解決できると信じています。既に計画参加を表明されているウィリアム・マクロード卿やミスターマクシミリアンだけでなく、ヘル・ローゼンをはじめとする他の方々、そしてトーラス・シルバーを名乗る日本の少年にも是非このプロジェクトに参加していただきたい。そして共に力を合わせ、人類の未来の為、あらゆる困難を克服していきたいと考えております』

 

『ベゾブラゾフ博士、ありがとうございました』

 

 

 ニュースはここで、ディオーネー計画の概要に関するまとめに切り替わった。

 

「……な~にが『平和を愛する私たちの政府』よ。ふざけんなっての」

 

「新ソ連政府の過去の悪行は関係なく、ベゾブラゾフ博士の発言は一定の説得力を持っていると認めざるを得ないよ」

 

 

 エリカの忌々し気なセリフに、幹比古は同意しながら今のインタビューが持つ効果を認めていた。そして今問題になっている事と、過去の事件とは切り離して考えなければならないという点について、エリカに注意を促した。

 

「戦略級魔法師が国を出て非軍事的活動に従事するなんて……随分思い切ったね」

 

「だからこそ、吉田先輩が仰るように説得力があるのですわ。新ソ連は、魔法の平和利用に本気だというポーズに」 

 

 

 香澄の感想を受けて、泉美が軽い毒を吐く。そのセリフを受けてレオが苦笑いを浮かべたが、すぐに笑いを消して眉を顰めた。

 

「ポーズだとは思うけどよ、新ソ連のベゾブラゾフが、アメリカのプロジェクトに参加するのは事実だ。どこまで本気で参加するのかは分からねぇけど、アメリカにとって新ソ連は敵国だ。それが協力するって言ってるんだから、一応同盟国の日本としては断り辛くなっちまったんじゃねぇか?」

 

「……確かに」

 

「魔法協会としては『トーラス・シルバー』に参加を表明してもらいたいだろうね――自発的に」

 

 

 雫が短く、幹比古の推測を交えてレオの指摘に頷く。

 

「でも、達也さんなら何とか出来るんじゃないかな」

 

 

 ほのかが深刻な声音で呟く。

 

「何でトーラス・シルバーと司波先輩が関係してるんだ?」

 

「私に聞かれても分からないよ」

 

 

 達也とトーラス・シルバーが頭の中で結びついていない詩奈と侍朗の一年生カップルは、ほのかの呟きの意味が分からずに頭上に疑問符を浮かべて顔を見合わせる。

 

「とにかく、これでマスコミ連中はさらに勢いづくでしょうね」

 

「トーラス・シルバーの正体を公表しろと、FLTに殺到しそう」

 

「業務妨害になるんじゃないか?」

 

「報道の自由を盾に、自分たちの違法行為も正当化するような連中が、そんな事を気にするわけ無いじゃないのよ」

 

「エリカちゃん……」

 

 

 エリカの毒吐きに、美月が困ったような表情で呟く。彼女もエリカと同じような事を思ったのだが、そこまで酷い言葉で表現しようとは思わなかったのだろう。だからツッコミも名前を弱々しく呟くだけで終わったのだ。

 

「ますます達也さんが学校に来辛くなるのは確か」

 

「いっそのこと達也くんが考えてる、この計画の裏について暴露してやろうかしら」

 

「エリカが言っても説得力がないと思うけど」

 

「雫、それどういう意味?」

 

「別に。一介の高校生が世界的プロジェクトに苦言を呈しても意味はないってだけ。現に校長たちも達也さんを追いやろうとしてるんだし」

 

 

 雫の言葉に、一年生カップル以外がため息を吐き、達也の身を案じたのだった。




個人の自由を無視した名誉など……

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