劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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何故か散らかる不思議


リーナの部屋

 達也から引き止めてもらえなかったリーナは、アメリカへ戻る準備を進めている途中で、ふと一つの考えに思い当たる。

 

「ミアを連れていけって事は、私の監視はミアだって事よね?」

 

 

 四葉の中枢に近づいた自分を達也が――もっと言えば四葉家が野放しにするはずもない。ミア以外にも自分の監視としてアメリカに来る人間はいるのかもしれない。

 

「というか、達也も私がアメリカに喜んで戻りたいなんて思って無いでしょうし、いろいろと具合が悪いって分かってるのよね?」

 

 

 このままアメリカに戻ったとしても、元いた自分の場所は残っていないだろう。むしろ、アメリカを裏切ったと言われ拘束される可能性すらある。

 

「ベンもいるし、大丈夫よね? いきなり捕まる事はないわよね?」

 

 

 自分の立場が危ういものだと自覚し、リーナはアメリカに帰りたくないという気持ちが強くなる。このまま帰らなくても問題はないのだが、参謀本部からどうしてもと頼まれたのだ。

 

「私に頭を下げるなんて、絶対にありえなかった事だから、思わず引き受けちゃったけど、何の用事かは電話では言えないってどういう事なのかしら……」

 

 

 それほど重要な事なのだろうが、アメリカを捨て日本に帰化した自分を呼びつける程の事がいったい何なのか、リーナには皆目見当もつかなかったのだ。

 

「とりあえず、すぐに日本に戻れるように、ベンに連絡は取っておいた方が良いわね。飛行機の中でも大丈夫だし、今急いでしなければいけない事は、この部屋を片付けなきゃ」

 

 

 まだそれほど長い時間過ごしたわけではないのだが、リーナの部屋は何故か散らかっている。彼女は摩利や花音同様に、片付けようとすればするほど散らかしてしまうタイプの少女だったのだ。

 

「何でこんなに散らかるのかしら……他の人はどうやって片付けてるのか、気になるわね……」

 

 

 自分がおかしいという事に気付かずに、散らかる方がおかしいと結論付けて、リーナは片づけを諦め、必要な荷物をカバンに詰め込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也から事情を聞かされた後、真由美は達也の部屋に呼ばれていた。深夜とも言える時間に、一人で来るようにと念を押された事で、真由美の脳内は若干色ボケ状態になっていた。

 

「達也くん、来たわよ」

 

 

 身だしなみを何度も確認し、おかしなところはないかと姿見の前で数十分念入りに確認したが、部屋に充満していた空気は、そんな勘違いを一瞬で正した。

 

「えっと、何か真剣なお話し?」

 

「そうですね。先輩にしか頼めない事だと思います」

 

「何かしら?」

 

 

 ついさっきまで考えていた事などおくびに出さずに、真由美は真面目な表情で達也の正面に腰を下ろした。

 

「何処で知ったのか知らないが、NSAにトーラス・シルバーの正体を知られたみたいなのです」

 

「さっき言ってたわね。でも、達也くんには屁理屈があるんでしょ?」

 

「それで大人しくなるとは思えませんし、百山校長個人だけではなく、魔法協会にも遅かれ早かれ同じような文書が届けられるでしょう」

 

「でしょうね。達也くんをあの計画に参加させるためには、外堀から埋めていくのが一番でしょうし」

 

「どれだけ外堀を埋められようと、参加してやる義理は無いのですが、世論はそうは考えないでしょうしね」

 

「ディオーネー計画の真の目的なんて、最初から疑ってる人間にしか分からないと思うしね」

 

 

 かく言う真由美も、達也に説明されるまでディオーネー計画の事を素晴らしい計画だと思っていた。

 

「リンちゃんは疑ってたみたいだけど」

 

「鈴音さんなら、真の目的を読み取れて当然でしょうしね」

 

「それで、私に何をさせるつもり? 言っておくけど、師族会議の動きを逐一達也くんに報告するなんて不可能だからね」

 

「そうでしょうね。魔法協会としても、十師族としても、トーラス・シルバーには自発的に参加を表明してもらいたいのでしょう。そして、母上は俺がシルバーだと認めないでしょう」

 

「そうでしょうね」

 

「そうなると、一条家や七草家が何とか説得しようと動き出すでしょう」

 

「私たちはあのクソオヤジに協力なんてしないわよ」

 

「分かってます」

 

 

 七草弘一と真由美たちの間に、深い溝が出来ている事は達也も把握している。出会った時からそんな感じはしていたし、ここ数年でその溝が更に深まったと真由美から聞かされた事もある。

 

「恐らく、俺の説得に動くのは十文字家でしょう」

 

「十文字くんが?」

 

「俺と面識があり、十文字家の魔法なら俺を屈服させられるとでも考えるのではないかと」

 

「でも、達也くんの本当の魔法なら、十文字くん相手だろうと問題ないんじゃないの? 例の秘術だって、達也くんなら自由に使えるわけだし」

 

 

 真由美も、いきなり二人が戦うとは思っていないので、克人の隙を見てゲート・キーパーを仕掛けるのは容易いのではないかと考えていた。だが達也には、ゲート・キーパーを使うつもりなど無かった。

 

「あれはまだ世間に知られるわけにはいきませんので、別の手でいきます。そちらの方が『覗き趣味』の集団にも衝撃的でしょうし」

 

「覗き趣味? 達也くん、いったいどれだけの相手と対峙してるのよ……」

 

「今の所は、二つです」

 

 

 これからさらに増えるだろうと達也は考えているので、真由美の問いかけにため息交じりに答えた。その答えを聞いて、真由美は苦笑いを通り越した苦い笑いを浮かべたのだった。




敵が多い達也であった……

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