劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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真夜さんが言いたい事も分かる


四葉家の動向

 情報部の秘密会議の内容と、佐伯と風間の会話の内容を聞いた真夜は、本気で面白くないと言いたげな表情で葉山に視線を向けた。

 

「これ、たっくんには伝えたのかしら?」

 

「いえ、まずは奥様にお伝えすべき事だと判断しましたので」

 

「そう……」

 

 

 葉山の答えを聞いた真夜は、会議内容が録音されている記録媒体を宙に放り投げ、無数の夜によって粉々に破壊した。

 

「達也さんには伝えなくて結構です。また、大本のデータ以外はコピー出来ないようにしておいてください」

 

「既にそのように処理しておりますので、コピーは奥様が破壊したもののみでございます」

 

「さすがは葉山さんね。仕事が早くて助かるわ」

 

「恐縮です」

 

 

 真夜の前にハーブティーを差し出し、葉山は恭しく一礼する。そんな葉山の白々しい態度に、真夜は漸く表情を検めた。

 

「それにしても、たっくんがラスボスなんて、風間中佐も面白い事を言うわね」

 

「ですが、達也様にその素質があるのは事実かと存じ上げておりますが」

 

「違うわよ。たっくんは世界を創りかえる勇者の側なのよ。魔王軍が国防軍連中で、ラスボスはスポンサー様かしらね」

 

「青波入道閣下ですか」

 

「本人が聞いてる訳じゃないんだし、その呼び方じゃなくても良いわよ」

 

「いえいえ、私奴があのお方を別の呼び方で呼べるわけが無いじゃございませんか」

 

 

 わざとらしい言い回しに、真夜は本気で面白がっている風の笑みを浮かべた。

 

「たっくんを国防軍に縛り付けようだなんて、バカな事を考えるわね、情報部っていうのは」

 

「達也様に秘密収容所を襲撃された事が、よっぽど腹に据えかねているのではないかと」

 

「USNA軍の人間を捕らえて、非合法な方法で処分しようとしたのはあちら側なのにね。私はただ、USNA軍の知り合いを助け出す為にたっくんを向かわせただけなのよ? それを襲撃だの、国防軍に対する宣戦布告だの言って、ほんとバカばっかりね」

 

「あの集団は自分こそ正義と思い込んでいる節がありますからな。警察で言うところの公安、といえば分かり易いかと」

 

「表だって動かないところとかもそっくりね。でもまぁ、大人しくやられてあげる義理もないし、たっくんなら独自の情報網で自分が狙われていることくらい気づいていそうだしね」

 

「達也殿の婚約者の中には、一○一旅団に在籍しておられる方もいらっしゃいますので」

 

「あのお嬢さんなら、公式ではない会議の内容も把握出来そうだものね」

 

「そもそも達也殿を洗脳しようなど、四葉家に唾を吐いたことと同意であると何故分からないのでしょうか。達也殿が四葉の次期当主であると公言しているというのに」

 

 

 葉山の零したセリフに、真夜も不思議そうに首をひねった。ただの『司波達也』だった時ならいざ知らず、今は『四葉家の司波達也』として世間に認識されているはずなのに、その事を無視して達也を洗脳しようものなら、大漢の悲劇が今度は日本で起こるかもしれないと考えてしかるべきなのにと。

 

「達也さんの婚約者の中には、それなりの戦力を有した方もいるというのに、国防軍は本気で滅びたいのかしらね? それとも、情報部の暴走として処理するつもりなのかしら?」

 

「どのような言葉を並べ立てようと、我々四葉の情報網を以てすれば真相は必ず詳らかにされるというのにですか?」

 

「それだけ自分たちの秘匿方法に自信があるのか、四葉家の恐ろしさを忘れているのかのどちらかでしょうね。それに、鬱陶しいのは国防軍の方たちだけじゃないようですし」

 

「例の宇宙開発計画ですな」

 

「表向きは立派に聞こえるから困るわよね……あんなの、自分たちに都合の悪い魔法師を宇宙空間に放り出して、一生地球に帰らせないための計画なのに」

 

 

 まだ正式に公表されているわけではないが、真夜も葉山も、その計画の事を正確に把握していた。

 

「達也殿に何か考えがあるようですので、こちらは我々は動いておりませんが」

 

「まぁ、たっくんなら相手にぐうの音も出させない程の秘策があるのでしょうし、こちらとしても次期当主をそんな外国の企画に参加させる義理なんて無いのですからね」

 

 

 いざとなれば国ごと亡ぼせばいいとすら考えている真夜は、既に別の事に興味を向けていた。

 

「葉山さん、劉雲徳のお孫さんとか言う少女の事は分かったのかしら?」

 

「近いうちに大亜連合政府が正式に公表する手筈になっているようですな。祖父の跡を継いだ健気な孫娘として、国のイメージアップに使われる事になるかと」

 

「あっそ。たっくんに盾突いた時点で消されて当然なんだから、健気もへったくれもあったもんじゃないんだけど、それはあちらさんには分からない事なのかしらね」

 

「奥様、多少言葉遣いが古いかと存じますが」

 

「あら葉山さん。私がもうおばあちゃんだとでも言いたいのかしら?」

 

「いえいえ、滅相もございません」

 

 

 真夜の冗談に対して、葉山も慌てた風を装って応える。こんなやり取りが出来る相手は葉山だけなので、真夜も楽しそうな表情で笑っていた。

 

「とにかく、我が四葉家としては、国防軍情報部の動きに細心の注意を払う方向で動きます。もちろん、達也さんの邪魔にならないよう気を付けてください」

 

「承知いたしました。すぐに何人か見繕って監視させます」

 

「お願いね」

 

 

 真夜からの命令に、葉山はすぐにどう動くかを考え、迅速に行動に移したのだった。




マッドサイエンティストな勇者

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