劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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入学式終了 二科生視点

 入学式を終えて、達也たちはIDカードを受け取る為に窓口へと向かった。受け取ると言っても、予め個人別のカードが作成されている訳では無く、個人認証を行ってその場で学内用カードにデータを書き込む仕組みなので、何処の窓口でも作る事が可能なのだが、やはり此処でも一科生と二科生とで綺麗に分かれている。

 また深雪は主席として予めカードを受け取っているだろうから、今頃は人垣に囲まれているのだろうなと、達也は何となくそんな事を考えていた。

 

「ねえねえ、司波君は何組?」

 

 

 期待してるのを隠しきれてない表情で、エリカが達也にそう尋ねた。何を期待してるのか、達也には分からなかったが、エリカ本人と周りの3人にははっきりと分かっていた。

 

「E組だ」

 

 

 期待に応えるほど、達也はサービス精神に富んでいる訳では無い。エリカがどんな答えを期待してるかなんてお構いなしに、達也は簡潔に事実を告げる。

 

「やった! あたしもE組なんだ~」

 

 

 達也の答えに飛び跳ねて喜びを表現するエリカ。ちょっとオーバーリアクションだなと思った達也だったが、隣で同じ事をしそうな雰囲気の美月を見て、これが普通なのか? と思ったのだった。

 

「私も同じです! 良かった、クラスで1人ぼっちになる事は無さそうです」

 

 

 入学早々ネガティブな事を……達也としては1人になる事が少なかった中学時代を思い出して、少しくらい1人になれる方が良いのではないかと思っていたのだ。

 

「私はG組だ」

 

「あたしはF組~」

 

 

 残る2人は別のクラスのようだが、彼女たちは別にガッカリしてる様子は無い。一学年八クラス、一クラスの人数は25人。この辺りは平等だ。

 彼女たちはまだ見ぬクラスメイトに思いを馳せているのかも知れないなと、達也は他人事のようにそんな事を思っていた。まぁ実際他人事なのだが……

 友達探しに行ったのか如何かは分からないが、彼女たちはホームルームへ向かうと言ってこの場から移動していった。

 

「ねえねえ、それじゃあ私たちもホームルームを覗いてみない?」

 

「良いですね」

 

 

 盛り上がってるエリカと美月には悪いが、達也にはその気は無かった。

 

「悪い、妹と約束してるんだ」

 

「妹?」

 

 

 達也の発言に気を悪くするでもなく、むしろ面白そうだと言わんばかりの表情を浮かべるエリカ。彼女は何事にも楽しみを見つける子なんだなと達也は思った。

 

「司波君の妹かぁ~さぞかし可愛らしいんだろな~。なんて言ったってお兄ちゃんがこれだけカッコいいんだから」

 

「千葉さん、別にお世辞はいいんだが」

 

「お世辞じゃないよ! 司波君は十分カッコいいって!」

 

「そうですね、司波君はカッコいいですよ」

 

「そうか、ありがとう」

 

 

 此処で並の男子生徒なら照れるのだろうが、生憎達也はそのような感情を持ち合わせてはいなかった。かと言ってぶっきら棒に答えるのも感じが悪いと言う事で、達也は辺り障りの少ない返答をした。

 

「う~ん、クールね」

 

「大人って感じですね~」

 

「大人って……同じ15歳だろうが」

 

 

 美月がボソッと言った感想を耳聡く拾い、ツッコミを入れる達也。普段から年齢の事で弄られる事があるので、それだけはしっかりと覚えていてもらいたい事だったのかもしれない。

 

「そ、それもそうですね……ところで妹さんって新入生総代の司波深雪さんですか?」

 

 

 達也のツッコミに慌てた美月が、咄嗟に話題を変えようとそう言った。別に達也には美月を困らせて楽しむような気持ちは無かったので、その質問に頷いて返事をした。

 

「えっ、そうなの!? じゃあもしかして双子?」

 

 

 エリカのこの反応から見るに、彼女は達也と深雪が兄妹だとは思って無かったのだろう。それかもしくは、似てないと思っているのかもしれないが。

 

「良く言われるんだが、双子では無い。俺が4月生まれで妹が3月生まれなんだ。だから俺が1ヶ月早く生まれてたか、妹が1ヶ月遅く生まれていたら学年は違っていた。これは本当に偶然なんだ」

 

「そうなんだ。でもさ、それって複雑なんじゃない?」

 

 

 エリカはそう言った後で、『しまった!』と言う表情をしたが、達也は別に気にしてなかった。

 エリカの発言には……

 

『優等生の妹と同じ学年って嫌な思いをするんじゃない?』

 

 

 と言う心配とも侮辱とも取れる意味合いが含まれていたのだ。もちろん達也にもその意図は伝わっていたが、エリカも悪気があって言った事では無いと分かっているのでスルーした。

 

「それにしても柴田さん、良く分かったね。司波なんてそう珍しい苗字じゃないのに」

 

「いやいや、十分珍しいって!」

 

 

 達也の気遣いが伝わったのか、エリカも必要以上に気まずい雰囲気にならずに済んだと思っていた。だからこうやってツッコミを入れる事が出来たのだろう。

 

「面差しが似てますから」

 

「似てるかな?」

 

 

 達也は身内贔屓を抜きにしても、深雪は美少女だと思っている。その深雪と自分が似ているとは、一切思っていなかった。

 だから美月の評価に疑問を覚えたのだ。

 

「そう言われれば……司波君も十分カッコいいし、そっくりの兄妹だよ!」

 

「いや、笑いながら言われても嬉しく無いんだが」

 

「顔もそうですが、お2人はオーラの面差しが似ています。凛とした雰囲気がそっくりです」

 

「そうそう、オーラよオーラ!」

 

「……千葉さん、君って意外とお調子者なんだな」

 

「そんな事無いよー!」

 

 

 お決まりの抗議は聞き流し、達也は美月に向き直った。

 

「それにしてもオーラの面差しが分かるなんて、“本当に目が良い”んだね」

 

 

 達也のこの発言に、美月の顔が青ざめ、エリカの顔は疑問で染まった。

 

「目が良いって、美月は眼鏡を掛けてるよ?」

 

「そう言う意味じゃ無いよ」

 

「?」

 

 

 エリカの疑問には答えずに、達也は心の中で決意した。美月の前ではなるべく力を使わないようにしようと。




次回一科と二科が交わります。

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