劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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最早恒例行事……


恒例の展開

 達也を除く七人は、ショッピングを楽しむために別荘から南盾島にやってきていた。

 

「わぁ……」

 

 

 ショッピングモールの入口で、ほのかが思わず声を上げた。それを大袈裟に思う友人はいなかった。プロヴァンス風とアンダルシア風が、良く言えば融合した、悪く言えばつぎはぎになった店舗の並びは映画のセットのようだ。建築の専門家が見れば顔を顰めたかもしれないが、素人目にはカラフルでお洒落感満載に感じられる。

 

「写真で見るより素敵な所ね」

 

「そうだね」

 

 

 ほのかの言葉に雫が相槌を打つ。異なる感想を持つものはいないようだ。ほのかと雫がモールに足を踏み入れ、その背中に深雪、エリカ、美月、幹比古、レオの五人が続いた。

 

「雫さんも初めてなんですか?」

 

「うん」

 

 

 美月が問い、雫が頷く。その横では、エリカが人の悪い笑顔で深雪に話しかけていた。

 

「深雪、達也くんが一緒じゃなくて残念だったね」

 

「そうね。でも、仕方がないわ」

 

 

 深雪にこんなことが言えるのはエリカくらいだろう。また、それをあっさりいないしたのも、深雪だからこそと言うべきか。

 

「でも、お兄様もご一緒出来なくて申し訳ないと言ってくださって、ここでのお買い物の分のお金は支払うと言って、マネーカードをお預かりしてるの。もちろん、ほのかや雫、エリカや美月の分も支払ってくれるそうよ」

 

「えっ、悪いよそんなの……」

 

「せっかくの達也くんの好意なんだから、素直に受け取った方が良いって。それとも、美月は誰か別に支払ってもらいたい相手でもいるのかしら~?」

 

「エリカちゃんっ!」

 

「西城君と吉田君の食事代も支払ってくれるそうだから、個別に贈り物をしたい場合はそっちに使っても大丈夫ですよ?」

 

「深雪さんまで!」

 

 

 エリカと深雪が誰を指してからかっているのかは、ここにいる全員が理解している。

 

「深雪、達也さんにお支払いを任せて大丈夫なの? ここって、結構値段が高い店が多いけど」

 

「大丈夫よ。お兄様なら、それくらいで破産したりしないわ」

 

「で、でも……」

 

「ほのか、達也さんの好意に甘えよう」

 

「雫っ!?」

 

 

 特に何かを買うと決めていたわけではないので、とりあえずはウインドウショッピングをすることにした。ショッピングモールは縦縞の模様で溢れていた。『南盾島』だから、縞模様をシンボルにしているらしい。シマウマを図案化したペナントや、シマウマ、ホワイトタイガーのぬいぐるみなどがあちこちの店頭を賑わしているのも同じ語呂合わせなのだろう。

 七人はウインドウショッピングを楽しみながら、モールを端まで通り抜けた。途中、帽子を試着した深雪に他の観光客が思わず足を止め、店先に人集りを作ってしまったというハプニングもあったが、友人たちは「またか」と思っただけで、深雪は迷惑をかけたからと、その店で帽子を買って今は目深にそれを被っている。

 モールを抜けた先は広場になっていて、人工地盤の端には高いフェンスが立っている。人工地盤に切れ目を挟んで、向こう側に海軍基地の倉庫が壁を作っているのが見えた。

 

「あっちが海軍基地の本丸か。うちにいた若い二人、去年の夏から配属になってるはずなんだけど……分かるわけないか」

 

 

 エリカが、これも縦縞にペイントされた倉庫の壁を見ながら、独り言のように言う。

 

「倉庫が並んでいて中が見えないものね。千葉のお弟子さん?」

 

「そう。うちから海軍に行くのって珍しいから印象に残ってるんだよね」

 

 

 もっとも同行者の事を意識していなかったわけではなく、深雪に尋ねられるとエリカは間を置かずに頷いた。レオと幹比古は、女性陣から少し距離を取ってフェンス際から海軍基地を見ていた。

 

「基地とモールが陸続き、ってえか、人工地盤続きってわけじゃねぇんだな」

 

 

 レオのセリフに、幹比古は思わず笑ってしまった。

 

「ハハッ、そりゃそうだよ。こっちも一応軍の施設とはいえ、補給基地の余剰生産力を使った民間向け施設と本当の意味での基地じゃ一緒には出来ないからね」

 

 

 レオが顔を顰めて鼻を鳴らす。笑われた事を気にしてではない。もっと深刻な表情だ。それに気づいた幹比古が、少し不安げな表情で改めて基地へ目を向けた。

 

「レオ、どうしたの? 変な臭いでもする?」

 

「いや、そういうんじゃないんだが……何か、妙に背筋がムズムズする感じで落ち着かねぇんだよ」

 

 

 レオが胡散臭そうな目で基地を眺める。幹比古の背筋に寒気が走った。その予感の正体を見極めようと、彼はレオが見ている方へ目を凝らした。だが、見えるのは倉庫の壁ばかりだ。

 

「吉田くん、レオくん、お昼にしませんか」

 

「おお、漸くか。待ちくたびれたぜ」

 

 

 そこへ美月から声が掛かり、レオはあっさりフェンスから離れた。

 

「あっ、レオ、待ってよ!」

 

 

 裏切られた、という些か筋違いな感情を懐きながら、幹比古はレオを追いかけた。

 

「せっかく達也が奢ってくれるっていうんだから、遠慮なく食おうぜ」

 

「僕はレオが言ってたことが気になって、食欲どころじゃないんだけど」

 

「あっ? 別に俺たちに直接関係するわけじゃねぇんだし、気にし過ぎるのはよくないぜ」

 

「君の切り替えの早さ、羨ましいよ……」

 

 

 不安で胃がキリキリしてきた幹比古は、能天気に笑うレオを羨まし気に眺める。その視線を受けて、レオはもう一度笑ったのだった。




幹比古が胃の痛い思いをするのも、恒例ですね……

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