劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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そもそも間違った噂ですし


付き合いのある人は

 魔工科クラスに遊びに来ていたエリカは、九校戦が中止になるかもしれないという噂をクラスで聞いたと達也に報告していた。

 

「――まぁ、一科と違って二科で達也くんの事を悪く言う人はいないけどね」

 

「そもそも達也さんの所為じゃないんですよね?」

 

「俺一人で九校戦を中止に出来ると思ってるのか? 悪いがそこまで影響力を持った覚えはないぞ」

 

 

 美月の問いかけに、達也は苦笑いを浮かべながら答える。そもそも四葉家次期当主とはいえ、十師族の一員として過ごしてきた日数はそう多くないので、影響力だけで言えば深雪や愛梨たちの方が強いのである。

 

「でもさ、達也くんの実績を妬んで根も葉もないことを鵜呑みにして達也くんの悪口を言ってる連中はいるのよね、これが……あたしの耳にも入ってきてるし、恐らく深雪の耳にも入ってると思うわよ」

 

「司波さんの前で達也さんの悪口を言うなんて、そんな命知らずがいるの?」

 

「千秋さん、おはようございます」

 

「うん、おはよう」

 

 

 寝坊して達也たちと一緒に来られなかった千秋が教室にやってきて、すぐさま会話に加わってくる。美月はしっかりと挨拶を交わしたが、エリカは呆れた様子で千秋を眺めていた。

 

「なに?」

 

「いや、千秋がそれを言うのかって思っただけよ。一年の時、深雪の前だろうが何だろうが達也くんに当たり散らしてたじゃないのよ」

 

「あれは関係ないでしょ! というか、今回は私一人の時とは違うじゃない」

 

「一科生の連中は特に酷い様子だしね。まだ決まったわけでもないのに。そもそも達也くんの所為じゃないのに」

 

「分かり易い犯人を作り上げて苛立ちを解消してるんだろ。放っておけばいい」

 

「達也くんはそれでいいかもしれないけど、深雪はそうはいかないと思うな。既にブリザードが吹き荒れてるんじゃないかしら」

 

「そんな事は無いと思うけど」

 

 

 エリカの冗談とも本気とも取れる言葉に、美月が自信なさげで否定の言葉を重ねた。

 

「何の話だい?」

 

「十三束君も噂くらいは聞いてるんじゃない?」

 

「あぁ、九校戦のこと?」

 

「そっ。一科生の連中が寄ってたかって達也くんが原因だって噂を流してるらしいのよね。その所為で深雪の機嫌がよくないのよ」

 

「司波君が? それって他校の生徒が司波君の実績を恨んで流した、根も葉もない噂なんだよね?」

 

「ほら、達也くんの為人をそれなりに知ってる人なら、根も葉もないって分かるのに」

 

「えっと?」

 

「一科生で達也くんと繋がりがない連中は、その噂を信じ込んで目の敵にしてるらしいのよ」

 

「そんな事があるんだ……」

 

 

 十三束としては、達也一人の所為で九校戦が中止になるかもしれない状況になるなんて信じられないと感じているので、あの噂を聞いたところでありえないと一蹴したのだが、最後の九校戦という事もあってか、達也と付き合いのない一科生男子の間では、あの噂は真実だという事になっているのだった。

 

「深雪や愛梨の前でそんな話をしたら、あっという間に女子全員を敵に回すって分からないのかしらね」

 

「全員は大げさだと思うけど、大半は敵に回るでしょうね。去年までの実績を考えれば、達也さんの実力は本物だって知ってるわけだし」

 

「そもそも自分の実力が足りないのに、達也くんの事を悪く言うなんてありえないわよ。素直に負けを認めて実力を磨けばいいものを」

 

「そう簡単に割り切れないのが人間だろ」

 

「司波君がそういう事言うと、なんだか説得力が違うね」

 

「達也くんだしね~」

 

 

 十三束は本気でそう思って言ったのだが、エリカは冷やかし半分な態度で十三束の意見に賛同している様子だ。それは達也だけではなく美月にも理解出来たので、エリカを見てため息を吐いたのだった。

 

「エリカちゃん、本気でそう思ってないでしょ?」

 

「思ってるわよ? 達也くんはあたしたちとは比べ物にならないくらいの経験を積んでるわけだし、説得力が増してるのは事実だしさ」

 

「でも、エリカちゃんは半分くらいは冷やかしてるでしょ?」

 

「あっ、分かった?」

 

「もうエリカちゃんとも結構な付き合いになってきたからね」

 

 

 入学式からの付き合いだから、既に二年以上の付き合いがあるので、美月もある程度ならエリカの考えが分かるようになってきているのだ。もちろん圧倒的に付き合いの長い幹比古や、人の心の裡を覗けるのではないかと思われる達也と比べればそうでもないのだが、それ以外なら美月が一番エリカの考えを見抜けるだろう。

 

「とにかく、司波君が原因で中止になるわけじゃないのに、一科生の男子たちは司波君の所為にしているという事だよね? 吉田君と話して風紀委員会と部活連合同で注意しよう」

 

「そこまで大げさにする事じゃないだろ。所詮噂なんだから、放っておけばいい」

 

「達也くんは動じないから良いけど、あたしたちは気分のいいもんじゃないしね。最悪、手が出ちゃうかもしれないし」

 

「近接戦なら学年最強の噂が立ってるエリカが、手を出したら怪我だけじゃすまないかもしれないだろうが」

 

「いや、あたしより達也くんの方が圧倒的に強いでしょうが……どう頑張っても達也くんから一本取れる自信なんてないわよ、あたしは」

 

「私から見れば、どっちも強いと思うけど」

 

 

 戦闘力皆無と言ってもいい美月から見ればそうなのだが、十三束や千秋は達也の方が強いだろうなと思っていたのだった。




まだまだ荒れそうだな……

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