劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こんな事するのはただ一人


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 月曜日、普通に登校して普通に過ごしていた達也ではあったが、課題を終わらせて時間を持て余していたところに一通のメールが届いた。

 

「(学園から? 何だか前にも似たような事があったような気もするが……)」

 

 

 至急と指定されているので、達也はジェニファー・スミスに断りを入れてからメールを開いた。

 

「(やはりか……)」

 

 

 メールの内容は、至急カウンセリング室に来るようにとの事だった。達也はもう一度ジェニファー・スミスに断りを入れて、課題を提出して教室から出ていこうとする。途中美月と千秋が不思議そうにこちらを見ていたので、アイコンタクトで「心配する必要はない」と伝えたのだが、果たして彼女たちに正確に伝わったのかは微妙だった。

 憂鬱な気分でカウンセリング室へ向かう達也だが、今回も何故呼び出されたのかさっぱり分からない。一年の時も何で呼び出されたのか分からなかったが、今回は遥の事情を知っていて尚分からないのだ。

 

「三年E組、司波達也です」

 

『入ってちょうだい』

 

 

 扉越しに声をかけると、中から不機嫌そうな遥の声が返ってきた。達也は苦笑いを浮かべながら扉を開け、黙って遥の正面に腰を下ろした。

 

「授業中に呼び出しておいてその態度はどうなのでしょうか? 仮にも教師である小野先生が、生徒会役員の俺にサボれとメールを送ってきた事は問題だと思うのですが」

 

「君ならとっくに課題を片付けて手持無沙汰になってるだろうと思ったのだけど、違ったのかしら?」

 

「まぁその通りですが。でも、授業中に生徒を呼び出すなんて、非常識だと思わないんでしょうか?」

 

「君相手に常識なんて通用しないもの。それで、幾つか聞きたい事があるんだけど」

 

 

 そういいながら、遥はお茶を用意して達也の前に置く。聞かれてはマズいことなのだろうと察知した達也は、漸く使えるようになった遮音フィールドを展開して、盗聴の心配を取り除く。

 

「悪いわね。私には出来ないから」

 

「先生の得意分野は隠形ですもんね。それで、聞きたい事とは何でしょうか?」

 

「まず一つ目。この間君の誕生パーティーが開かれたというのは本当なの?」

 

「はぁ、まぁありましたが」

 

 

 それが真っ先に聞きたい事なのかと、達也は内心呆れながら答えたのだが、達也の答えに遥は立ち上がり詰め寄る。

 

「どうして私と安宿先生が呼ばれていないのよ!? そりゃ確かに私たちは愛人枠だけど、だからって呼ばれない謂われは無いんだけど」

 

「別にそんな理由で呼ばなかったわけではなく、連絡が付かなかったんですよ」

 

「そう……まぁそういう事にしておいてあげるわよ」

 

 

 遥としては、自分は兎も角怜美になら連絡が付いたんじゃないかと疑っているようだが、達也相手に心理戦など勝てるはずもないとすぐに諦めて腰を下ろす。

 

「まぁこれは確認のようなものだったから気にしないでちょうだい」

 

「はぁ……それで、本題は公安絡みですか?」

 

「っ!?」

 

「遮音フィールドまで張らせておいて、今更この程度で驚くんですか?」

 

 

 達也としては、このくらいバレているのは織り込み済みで話が進んでいるのだとばかり思っていたが、どうやら違ったようだ。遥は誰にも聞かれていないと分かっているのにもかかわらず、必死に人の気配を探っている。

 

「誰もいませんよ」

 

「そうみたいね……とりあえず、どうして公安絡みだと分かったのかしら?」

 

「それ以外で呼ばれる理由がありませんし」

 

「君に会いたい一心という考えはないのかしら?」

 

「そんな理由で呼び出せばどうなるか、小野先生も重々理解していると思いますので」

 

「まぁね……怖い怖い第一夫人候補が乗り込んでくるでしょうし」

 

 

 今は授業中という事もあり、遥は幾分か気楽に深雪の事を話している。達也が深雪に言いつける心配はしていないようで、人の悪い考えが頭をよぎったが、達也は無駄話はせずに先に勧める事を選んだ。

 

「それで、俺に聞きたい事とは何でしょうか? 生憎公安のお手伝いが出来るような情報は持ち合わせていないのですが」

 

「よく言うわよ……この前USNAの軍人が違法活動をしていた事は知っているわよね?」

 

「えぇ」

 

「……その拠点が襲われたのも知ってるわよね」

 

「はい」

 

 

 即答する達也に、遥は若干顔を顰めた。知っているとは思っていたのだろうが、まさかここまで即答されるとは思っていなかったのだろう。

 

「捕らえられたUSNA兵が違法薬物によって自我を奪われ、とある組織に捨て駒に使われて事も?」

 

「そもそも、襲われたのは俺と深雪たちですから」

 

 

 特に隠す事でもなかったので、達也はあっさりとその事を告げたのだが、遥は驚いた表情を浮かべた。

 

「それじゃあ、襲われたマナー教室に深雪さんも通っていたのね」

 

「というか、隠す必要はありませんよ。USNA兵を違法薬物で傀儡にしたのは、国防軍情報部です」

 

「……本当に、何処から情報を得ているのか気になるくらい君は何でも知ってるわよね」

 

「何でも知っているわけではありません。今回は当事者だから情報を仕入れただけで、情報部が普段何をしているのかなど、俺は興味もありません」

 

「随分とあっさり言ってくれるじゃない。それで、その首謀者と思われる魔法師の事、何か知らない?」

 

「国防軍情報部所属、遠山つかさ曹長」

 

「遠山……つまり『十山家』が関係していると?」

 

「どうでしょうね。個人で動いているのか、それとも家ぐるみなのかは俺にも分かりません」

 

 

 あっさりと答えた達也に、遥は何度目か分からない驚きの表情を浮かべたのと同時に、思ってた以上に厄介な相手だという事で、疲れた表情も浮かべたのだった。




あっさりばらすなよ

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