劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也至上主義ですから


ほのかの基準

 あっさりとリーナを倒して道場から移動した達也は、後ろについて来ている二人の少女に声をかけた。

 

「雫、ほのか」

 

「っ!」

 

「だから言ったんだよ。達也さんを尾行するのは無理だって」

 

 

 声をかけられた事に驚いた雫に、ほのかが文句を言いながら二人は姿を現した。

 

「わざわざ追いかけてこなくても、俺は何処にもいかないが」

 

「そうじゃなくて、達也さん」

 

「何だ?」

 

「どうして本気でリーナと戦わなかったの? 確かに美月がいたから得意魔法は使えなかっただろうけど、十三束君と戦った時の想子弾もあったのに」

 

「あれは通常の魔法が通用しない相手用の魔法だからな。パレードを展開していないリーナに使う必要はなかった」

 

「それ以外にも奥の手があると深雪から聞いたことがありますが、それも通常の魔法がが通用しない相手用なのですか?」

 

「そうだ。あれもおいそれと人前で使える魔法ではないからな」

 

 

 ほのかがバリオン・ランスの事を知っていた事に達也は多少驚いたが、その内容までは知らないようだと達也は深雪が最後の最後で自重した事を理解した。

 

「リーナの方は結構本気で達也さんに攻撃してたのに、達也さんの方は手加減してるのが気になったんだよね」

 

「うん……婚約者なのに、何でリーナはあれほどまで本気になれたのかが気になった」

 

「二人は吸血鬼事件の顛末を知っているよな?」

 

 

 二人は達也に問われ、顔を見合わせてから小さく頷いた。ほのかは実際にその場にいて、雫はその話をほのかから聞いている。

 

「アンジー・シリウスと対峙した事があるからな、俺は。それでその時の事を思い出してついつい本気になったのだろう。もちろん、あの時使った魔法を使わなかっただけの分別はあったようだが」

 

「パレード以外にも、達也さんを困らせた魔法があるの?」

 

「特別な理論を使って組み上げられたCADを使う魔法だから、それが無いと使えなかったんだろうな」

 

「そんな魔法があるんですか?」

 

「自己修復してなかったら、右腕が焼け落ちたままだったな」

 

 

 その光景を思い浮かべたのか、ほのかは右手で口を押えて視線を逸らし、雫は黙って下を向いた。

 

「そんな顔するな。こうして腕は残ってるんだから」

 

 

 二人に余計な心配をかけてしまったと、達也は右手でほのかと雫の頭を順番に撫でる。それで何とか納得出来たのか、二人は再び達也に視線を向けた。

 

「当時のリーナと今のリーナ、達也さん的にはどっちが強かったんですか?」

 

「制限がかけられていた時の俺と制限無しのリーナ、制限が解かれた俺と制限有りのリーナ、比べるのは難しいだろうが、あえて言うなら昔のリーナだな。今回はいろいろと思うところがあるのか知らないが、動きが単調過ぎた」

 

「そうなの?」

 

「私に聞かれても分からないよ」

 

 

 二人の目には、リーナの動きが単調だったとは映らなかったようで、二人はあの試合が自分たちとはだいぶレベルが違うものだったと改めて思い知らされた様子だった。

 

「得意魔法を使えない状況だったから仕方ないのかもしれないが、リーナの攻撃には法則性があったからな。そのパターンを分析すれば、簡単に勝てることが出来る」

 

「あの展開で相手の行動パターンを分析できる人は、そうそういないと思う」

 

「達也さんだから出来たんですよね」

 

「エリカ辺りには出来そうだがな。まぁ、ノータッチルールだから、エリカは絶対にやらないだろうが」

 

「エリカは相手を触って倒すからね」

 

 

 実際は斬り捨てたり殴り倒したりするのだが、そこにツッコミは入らなかった。

 

「でも、達也さんが怪我をするかもしれないってハラハラしていたので、達也さんが勝ってくれて嬉しかったです」

 

「私は最初っから達也さんが勝つと思ってた。でも、実際に勝ったのを見て嬉しいと思ったのは同じ」

 

 

 二人とも自分がが勝つ事と微塵も疑っていなかったようだと、達也は少しリーナに同情したのだった。

 

「普通に考えれば、リーナの方が有利だったんだが、それでも俺が勝つと思ってたのか?」

 

「当然。達也さんはイレギュラーだし」

 

「どんな相手だろうが、達也さんが負けるはずがないって信じてますから」

 

「参ったな……」

 

 

 一年時の九校戦、新人戦モノリス・コード決勝の前に深雪に言われた事と同じ事をほのかと雫も思っているようだと、達也は割かし本気で困っているように見せた。

 

「だって、達也さんを本当の意味で傷つける事が出来る相手なんて、この世には存在しないんでしょ?」

 

「達也さんなら、どんな相手にも必ず勝てると知ってますから」

 

「さすがに即死したら無理なんだがな……まぁ、だいたいの事なら何とか出来るとは思うが」

 

「それで十分。私たちにとって、達也さんは絶対的な強者なんだから」

 

「エリカや吉田君のように敵の血を見なきゃいけない戦い方とは違い、達也さんのは衝撃的ですけど気分が悪くなるものではありませんから」

 

「それもどうかと思うが……」

 

 

 確かに血が吹き飛び、死体が残っている方が気分が悪くなるのかもしれないが、達也の場合は人を完全に消し去るので、どちらが衝撃的かと問われれば、間違いなく自分の方だろうと達也は考えている。だがそこは愛がなせる業なのか、ほのかは達也の戦い方は平気だと言ってきたのだ。

 

「今度、また達也さんに稽古をつけてもらいたいんだけど、いいかな?」

 

「別にいいが、雫やほのかは肉弾戦をするわけじゃないだろ?」

 

「少しでも自分の身を守れるようになりたいんです!」

 

「そうか」

 

 

 ほのかの熱意が伝わったのか、達也はそう答えて柔らかい笑みを浮かべたのだった。




雫とほのかは戦闘魔法師じゃないですからね

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