劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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致し方ない部分が大きいですが


密談

 達也が隣に座っているだけで、深雪の心臓は忙しなく鼓動を打っていた。前の家で一緒に生活している時ですら、こんな展開は滅多になかったというのに、兄妹ではなく婚約者としてこのような形になっているのだから、緊張しない方がおかしいと深雪は自分に言い聞かせていた。

 

「達也様、なんだか恥ずかしいです」

 

「なら俺は自分の部屋に戻っていようか?」

 

「それはダメです! 達也様が一緒にいてくださると仰ってくださったから、深雪はこうして大人しく自分に宛がわれた部屋で寝ることを受け入れたんですから」

 

 

 深雪としては達也と一緒に寝たいという気持ちから部屋を訪れたわけでは無かったのだが、達也が自分の事を大事に思ってくれているという事を再確認した結果、一緒に寝たいという気持ちが大きくなってしまったのだ。

 もちろん、達也が言ったようにあの部屋で自分が寝た場合の問題点は深雪も理解していた。だから断られると思っていたのだが、こうして達也が自分が寝るまで手を握ってくれると申し出てくれた事は、深雪にとって嬉しい誤算なのだ。

 

「なら早くお休み。生徒会業務は明日もあるんだろ?」

 

「細々としたものがあるだけで、達也様が心配するような程ではありません。ですので達也様は、思う存分FLTでその才能を揮ってくださいくださいませ。USNAやロシア、北欧諸国が何を企もうと、達也様に敵うはずがないのですから」

 

「俺一人でどうにか出来る案件ではないが、深雪が信じてくれるなら俺も出来る限りの力で対抗しよう」

 

「達也様が本気をお出しになれば、FLT第三課以外の開発部門など必要なくなると思いますが」

 

「それは言い過ぎだ。俺にだって出来ない事はあるんだ」

 

「達也様に出来ない事など、他の人類皆出来ませんわ。深雪はそう信じております」

 

 

 深雪が自分に向ける信頼を「重い」と感じる事はないが、大げさではないかと感じる事は達也でもある。だがそれを深雪に覚らせないように表情を繕う事など、達也には造作もないことであり、深雪は達也がそんなことを感じているなどと微塵も思っていないのだった。

 

「こうして達也様がいてくださるだけで、深雪は緊張するのと同時に安心します」

 

 

 矛盾しているようでしていない言葉に、達也も小さく頷いて深雪の髪を撫でる。その行為にますます安心したのか、深雪から規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

「深雪?」

 

 

 小声で名前を呼ぶが深雪から返事はない。完全に寝たのを確認した達也は、もう一度髪を撫でてから立ち上がり部屋を出ていく。

 

「達也さま」

 

「水波、後は任せる」

 

「はい、お任せください」

 

 

 達也が部屋を出てすぐ水波に声をかけられたが、彼は驚くことも無く護衛の引継ぎを済ませ部屋に戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遅くまで騒いでいたメンバーも寝静まった頃、達也の部屋に来客があった。もちろん夜這いを仕掛けようとかそういった不純な動機での来訪ではなく、あらかじめこの時間に訪れる事を決めていたので、達也も素直に彼女を招き入れた。

 

「こんな時間にゴメンなさいね。でも、他の子の前で出来る話でもないし」

 

「構いませんよ。それで、中佐はなんと?」

 

「私たちが独立魔装大隊を抜けるのは仕方がない事だと仰ってくれたけど、内心は抜けてほしくないようよ」

 

「まぁ、響子さんが抜けたらあの部隊の報告書などは溜まる一方でしょうからね」

 

「私は事務員じゃないんだけどな……というか、どちらかといえば抜けてほしくないのは達也くんの方でしょ。絶対的な戦力を手放したいなんて、誰も思わないと思うけどな」

 

「俺は元々四葉家に戻る予定だったんですから、当主云々を無視したとしても軍に残るわけ無いと分かっていたはずですが」

 

「理屈じゃないと思うのよね。出世コースから外れた中佐が、達也くんという絶対的な戦力を有する部隊の隊長として他の部隊と対等以上でいられるというのは、本人は思ってなくても他の人から見れば愉悦に浸ってるように見えるのよ」

 

「中佐はそういう事には無関心でしたからね。だから何時までも独立魔装大隊の隊員の階級が上がらなかったんですから」

 

 

 風間が昇進を受け入れなかったから他のメンバーの昇進も滞っているというのは、独立魔装大隊以外の部隊でも噂されていた事で、実際風間が昇進したから他のメンバーの階級も上がったのだ。

 

「まぁ、お給料が変わるわけでもなかったから、昇進してもあんまり意味は無かったけどね」

 

「上がらないんですか?」

 

「表には出ない部隊だから……階級じゃなくて貢献度でお給料が決まってるのよ。というかそもそも、私は他のところで階級が上がってるから、独立魔装大隊の階級はあんまり意味がないのよね」

 

「これも人がいるところでは出来ない話ですね」

 

「昔も言ったけど、あの部隊は労働基準法の適応外だからね。残業代も出ないし、昇進しても査定にはさほど関係ないのよ」

 

 

 響子の愚痴を聞きながら、達也は自分たちが抜けた後の独立魔装大隊の事を少し考えていた。

 

「(戦力的には柳少佐がいるから問題ないだろうが、さすがに傷を負って無事で済む事は無くなるからな……駒の補充は急務だろう。開発の方も、真田少佐がいるから問題ないが、やはり問題は事務的作業だろうな……響子さんが一手に背負っていたから、優秀な秘書を失うのと同義だろう)」

 

「ん? 何か顔についてる?」

 

「いえ、相変わらずお綺麗ですよ」

 

「達也くんに言われると嬉しいわね」

 

 

 大人の余裕で躱したが、響子の顔が真っ赤になっているのは、夜目が利く達也にはバッチリ見られていたのだった。




ちゃんと給料は払ってやろうぜ、ブラック国防軍……

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