劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1192 / 2283
一番しっかりしてるし、ちゃっかり良い思いをしてる気が……


ちゃっかり泉美

 真由美と香澄の買い物が済んだので、泉美は達也に贈る――その実、深雪のポイント稼ぎのための花束を購入し個型電車に乗り込んだ。

 

「配送にしてもらえば良かったんじゃない?」

 

「大した時間でもありませんし、こういうのは手渡しの方が良いと思いますが」

 

「そんなものなの?」

 

 

 香澄に問われた真由美は、少し考えて泉美の思惑に気付いた。

 

「達也くんに花束を渡して、深雪さんに喜んでもらおうと思ってるでしょ」

 

「そんなことありませんわよ。純粋に、司波先輩のお誕生日を祝っての花束ですので、深雪先輩に渡すわけではありませんわ」

 

「達也くんに渡したとしても、泉美ちゃんの狙いは深雪さんでしょ? 達也くんが花束を貰って喜ぶとは思えないし、恐らく深雪さんに渡すと思うし。そうなれば泉美ちゃんが間接的に深雪さんに花束を渡せるものね」

 

「お姉さまの中では、司波先輩は後輩から貰った花束をその場で深雪先輩に渡すような人だと思われているのですね」

 

「そ、そうじゃないけど……でも、達也くんが花を愛でる趣味があると思えないし、深雪さんの方が絵になるのも確かでしょ?」

 

「まぁ、達也先輩が花の世話をしてる光景は想像出来ないね」

 

 

 真由美の苦し紛れの言い訳に、香澄が頷いて同意をする。受け取りはするだろうが、その後世話をするかどうかは想像出来ないのだ。

 

「それだったら深雪さんに預けて、深雪さんと水波さんに世話を任せた方が確実でしょ? だからそう思っただけで、別に達也くんが薄情とか、そんな風に思ってるわけじゃないわよ」

 

「そうでしたか。それは失礼しました」

 

「……なんかはぐらかされた気がするんだけど」

 

 

 真由美を慌てさせて論点をずらす事で、自分の目的を隠し通した泉美は、二人に見えない角度でほくそ笑んだ。

 

「(これで深雪先輩に喜んでいただける。深雪先輩とお話しするきっかけになる)」

 

 

 普通に話しかければいいのだが、達也が側にいるとどうしても深雪の興味は達也に向いてしまう。少しでも自分に注目してもらおうと努力する泉美なのだが、やはり達也がいる時はなかなか機会が得られないのだ。だからというわけではないが、今回の誕生パーティーにかこつけて達也に花束を渡し、深雪の興味を自分に向けさせようと計画しているのだった。

 

「そういえば、今は深雪先輩だけではなく水波さんもそちらにいらっしゃるんですよね?」

 

「うん、昨日から。本当は今日来るはずだったんだけど、司波会長が我慢出来なかったんだってさ」

 

「深雪先輩らしいですね……羨ましい」

 

「何か言った?」

 

「いいえ、何も言っていませんわよ」

 

 

 小声で呟いたので、幸いな事に香澄の耳には届かなかったようだと、泉美は内心ホッとしていた。

 

「今日は泉美も泊まっていくの?」

 

「そうですわね。明日の昼頃に帰れば十分月曜の朝の支度は間に合いますし、部屋が余っているのでしたら泊めていただきたいですわね」

 

「余ってると思うわよ? 深雪さんと水波さん、柴田さんに吉田君、西城君が客室を使ってるけど、五人で満室ってことはないでしょうし」

 

「満室でしたら、深雪先輩のお部屋にお邪魔するから別に構いませんが」

 

「泉美、その顔を司波会長に見られたら、話してもらえなくなるんじゃないかな……」

 

 

 香澄が手鏡を取り出して泉美に向ける。鏡に映った自分の表情を見て、泉美は慌てて表情を改め、何事もなかったかのように振る舞う。

 

「いや、さすがに無理だって……」

 

「そうね。私も誤魔化せないと思うわよ……」

 

 

 二人の姉にツッコまれて、泉美は意味もなく咳ばらいをして話題を変える為に口を開いた。

 

「この間深雪先輩から伺ったのですが、あのお屋敷に入る際には関係者パスが必要なようですが、私の分はお姉さまか香澄ちゃんが持っているのですか?」

 

「あぁ、そうだったそうだった。はいこれ」

 

 

 すっかり忘れていたようで、香澄は泉美に指摘されて思い出したというような感じでパスを差し出した。

 

「しっかりしてくださいよ。これが無かったら私、不審者として捕らえられてしまうんですから」

 

「厳重なシステムらしいから、達也先輩が時間を取らないと書き換えられないらしいからね。ボクたちじゃどうしようもないし」

 

「そもそも、達也くん以上のエンジニアでもなければあのシステムは弄れないわよ」

 

「お姉ちゃん、システムの内容を見たの?」

 

「達也くんが確認してるのをリンちゃんと一緒に見学させてもらっただけだからね! 香澄ちゃん、変な事はないからその目は止めてもらえる?」

 

 

 姉を疑うような目を向けていた香澄は、真由美の言っている事を鵜呑みにしていいものかと考えたが、もし盗み見していたとしても、達也ならその事に気付いてただろうし、そうなれば何らかの処分が下されているかと考え、とりあえず疑いを解いた。

 

「お姉さま、なんだか香澄ちゃんに疑われているようですが、何かしでかしたんですか?」

 

「何でもないわよ。ちょっとした誤解があっただけで、もう解決してるから」

 

「そうですか」

 

 

 どことなく慌てているような雰囲気の真由美に、泉美も少し疑いを向けたが、情報もないのに疑っても真由美が可哀想だと考えたのか、すぐにその思考を頭から追いやった。

 

「到着。ここからは徒歩だからね」

 

「分かってますわよ」

 

 

 最寄り駅に到着し、香澄が少し楽しそうな雰囲気になったなと、泉美も何だか楽しい気分になったのだった。




邪な考えも一番な気もする……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。