劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ネタばらししますが、真由美を敵対させるつもりは今のところありません


三高女子の疑問

 今日も駅で深雪の熱烈歓迎を間近で見ていた愛梨は、ため息を堪えながら教室へと向かう。A組の端末を借りているので、教室まで深雪と一緒なのだが、二人の間に会話は無かった。

 

「どうしたのじゃ、愛梨? 何だか疲れているようじゃが」

 

「おはよう、沓子……いえ、ちょっと連日過激な行為を目の当たりにして、少し疲れているのかもしれないわ」

 

「過激な行為というのは、昨日噂になっておった、司波深雪嬢が達也殿に甘えまくっておったという事かの? 今日もじゃったのか?」

 

「えぇそうよ……駅に着くなり司波深雪が達也様の腕に飛びつき、私たちには近づかせないオーラをまき散らしていたのよ」

 

「今まで一人占めしておったから、その反動で達也殿の周りにいる女子に対して寛容になれないのじゃろう。その内落ち着くのではないかの」

 

「どうかしらね……あの態度が時間と共に軟化するとは思えないのだけど……栞や香蓮はどう思うかしら?」

 

 

 先ほどから黙って話しを聞いていた栞と香蓮にも愛梨は意見を求める。恐らくは自分と同じ考えだと思ってはいるが、何事も決めつけは良くないのだ。

 

「愛梨の見立て通りだと思うけど……達也さんがそのまま放置するとは思えない」

 

「私も栞さんの意見と同じです。司波深雪の方から甘える事を止める事はないでしょうが、達也様が何らかの注意をする可能性はあると思います」

 

「達也様は司波深雪に特別甘いですから、注意したとしてもあまり強くはしないでしょう。それで反省するとは思えないのですが」

 

「今までずっと一緒じゃったんじゃから、多少なりとも大目に見てやるのも手じゃと思うんじゃが」

 

「目に余るから困っているのよ……光井さんや北山さんは慣れているようですけど、元々一高生じゃない私は気になってしまうのよ」

 

 

 愛梨の意見も理解出来る沓子は、どうしたものかと腕を組みながら考え込む。

 

「家に帰ってから達也殿に相談してみてはどうじゃ? 深雪嬢がおっては達也殿もワシたちの気持ちを汲み取り辛いじゃろうが、深雪嬢がいない場所なら多少なりともワシらの気持ちが伝わるかもしれんしの」

 

「私たち全員の気持ちを集めたとしても、司波深雪一人の気持ちには勝てないと?」

 

「エレメンツの家系じゃないにしても、深雪嬢の達也殿への依存はかなりのものじゃ。事情を聞くに仕方ない部分も多少なりともあるのじゃが、それで他の婚約者を排除しようとか思うようなら考えなければならないじゃろうしの。達也殿もその辺りは理解してくれるじゃろうて」

 

「まぁ、司波深雪さんの事情は何となく知ってはいますが、それにしても些か達也様に依存し過ぎな気がしないでもないです」

 

「母親を亡くし、一番親に助けてもらいたいときに再婚したようじゃし、側にいた達也殿に依存してしまうのも無理ないじゃろ」

 

「ですが、母親が存命の頃から、司波深雪さんは達也様にべったりだったようですよ? 私が調べた限りでは、中一の夏休み明けから、人が変わったかのように達也様にべったりになったとか」

 

 

 香蓮の言葉に、愛梨が何やら考え込む。三人は愛梨が話し出すまで、黙って彼女を見詰めていた。

 

「中学一年の夏休みといえば、沖縄侵攻があった年ですわよね? それが何か関係している――というのは考え過ぎでしょうか」

 

「それはさすがに飛躍し過ぎではないかの? 確かにワシらが中学一年の時に沖縄侵攻があったが、それとあの二人がどう関係するというのじゃ?」

 

「そうよね……考えすぎよね」

 

「ですが、愛梨は何故そう思ったのですか? 何か理由がなければそんな考えには至らないと思うのですが」

 

 

 沓子に否定され自分の考えを却下しかけた愛梨に、香蓮が質問を重ねた。彼女もさすがに飛躍し過ぎだと思っているのだが、愛梨が何の理由もなくそんな考えに至るとは思っていないようだ。

 

「達也様の魔法特性なら、あの場に居合わせ運悪く命を落としかけても救えるはずです。もしそれが原因なら、あの盲目的な依存も多少なりとも納得出来るのですわ。命を救っていただいたお礼に、自分の全てを達也様に捧げようと決めた、そんな考えがふと頭に過ったんですの……ですが、あり得ませんわよね。あの時、運悪く沖縄に滞在していて、更に運悪くあの事件に巻き込まれたなんて」

 

「可能性としてはかなり低いじゃろうが、なんだかワシもそんな気がしてきたのぅ……簡単に話してくれるとは思えんが、後でその事も聞いてみた方がよさそうじゃ」

 

「そうだね……光井ほのかが依存しているのは、エレメンツの家系だから納得出来るけど、司波深雪の依存は愛梨が考えたような普通ではありえない程の恩でもなければ説明がつかない。司波深雪に聞いても教えてくれないだろうから、聞くなら達也さんしかない」

 

「聞くのは良いとして、誰が切り出すのですか?」

 

 

 愛梨の当然とも思える疑問に、三人は一斉に愛梨を指差す。一切の乱れもないシンクロっぷりに、愛梨は一瞬固まってしまったが、すぐに三人に抗議する。

 

「何故私なのですか!」

 

「愛梨が一番達也さんと話しているから。昨日の夜も話してたでしょ?」

 

「し、知っていたのですか……」

 

「もちろん、一人で聞き出せとは言わんから安心せい。失敗しても骨は拾ってやるからな」

 

「物騒な事言わないでくださいませ!」

 

 

 沓子の冗談とも取れる言葉で、愛梨は少し気楽になり表情に笑みが戻った。だが、達也から聞き出さなければいけないという事を忘れたわけではないので、やはりどこかぎこちない笑顔のように香蓮には見えていたのだった。




とにもかくにもエスケープ編次第です

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