一緒に入浴している女性陣の胸囲を見て、雫は自分の胸囲に視線を落としため息を吐く。
「雫、どうかしたの?」
「ほのかやエリカは兎も角、壬生先輩やスバルにも負けてるなと思って……」
「気にし過ぎじゃない? 達也くんは胸の大きさなんて気にしてないみたいだし。ね?」
エリカの質問に対する達也の返答はなかったが、達也が「そこ」の大きさで人の好き嫌いを分ける事はないという事を知っているので、エリカは気にせず雫に視線を戻した。
「それにさ、ほのかや美月くらい大きいと、下着のサイズを探すだけでも大変そうだし」
「うん、ほのかのは専門店に行かないと売ってない」
「ちょっ!?」
雫の暴露に、ほのかが慌てて達也を見たが、彼は特に気にした様子もなくスバルの頭を洗っていた。
「あんまり大きい声で言わないでよ」
「恥ずかしがらなくてもいい。ほのかのが大きいのは皆知ってるから」
「そう言う事じゃないでしょ!」
どこかズレた感想しか出てこない雫に懸命にツッコんでもあまり意味はない。ほのかはその事を重々理解しているのだが、それでも言わずにはいれなかった。
「なになに~、何のはなし?」
「エイミィには一番縁がない話」
「何よそれ~」
一連の会話内容を聞いていなかったようで、エイミィが無邪気に話に割り込んでくる。エリカは苦笑いを浮かべて達也の方に逃げ出し、ほのかはエリカに後れを取った為に逃げ出せなかった。
「胸の大きさの話。私よりエイミィの方が小さいから」
「なっ!? た、大して変わらないじゃない!」
「全体が小さい分、私の方が大きく見える」
「サイズ的には変わらないじゃないの!」
「何を言っても負け犬の遠吠え」
「雫、言い過ぎじゃないかな……」
下手にエイミィを慰めると、雫の言い分を認める事と同義になるので、ほのかはそう言うしかなかった。
「何時もほのかの隣にいる私の身にもなるべき。陰で凸凹コンビと言われている私の気持ちが、ほのかには分かるの?」
「えっ……ゴメンなさい」
矛先が自分に向いたために、ほのかはとりあえず謝るしかなくなってしまった。別にほのかが悪いわけではないのだが、なんとなくそんな空気になってしまったのである。
「とにかく、達也さんは胸の大きさで女の価値を決める人じゃないってことは、雫だって分かってるでしょ」
「それはそうだけど……ここまで大きいのを見せられると、そう思わざるを得なくなる」
「何処見てるのっ!?」
「ほのかのお――」
「わーっ!」
慌てて雫の口を塞ぐほのか。その所為で雫の頭部にはほのかの「その部分」が直に当たる。
「やっぱり神様は不公平……お母さんは小さくないのに……」
「し、雫だってその内大きくなるって」
「そう言われてもう三年……」
「あうぅ……」
だんだんと慰めの言葉がなくなってきたほのかは、何とかして話題を変えられないかと辺りを見回す。ただ、ここは浴室なのでそうそう別の話題が見つかるわけもなく、ついにほのかは押し黙ってしまった。
「そ、そういえばエイミィとかスバルは、達也さんの身体の傷痕の事を聞いてたんだね」
「前に深雪から聞かされた。はじめてみる時は驚くかもしれないけど、って」
「まぁ、確かに初めて見た時は驚いたけど、あれが達也さんの強さの源なんだって考えれば、そんなに気持ち悪くはない」
「やっぱり雫やほのかも初めて見た時は驚いたんだ」
「ちょっとね……」
あの時ほのかや雫は、ただただ傷痕の多さに驚いた。一緒にいた美月もそうだった。ただエリカだけはその傷痕の原因に驚いてたと、今なら二人にも理解出来たが、あの時はその違いが分からなかった。
「あっ、壬生先輩が終わったみたいだね。次は雫じゃなかったっけ?」
「うん。行ってくる」
浮かれているのを隠しきれていない雫の態度に、ほのかはほっこりとした気分になっていた。
「ところで」
「ん?」
「ほのかって何度か達也さんに告白したりしてるんでしょ?」
「な、何度もはしてないよ」
「まぁ回数は兎も角として、その時はフラれたんでしょ? よく諦めなかったね」
「……達也さんの感情の欠陥について、その時教えてもらったから」
「そうだったんだ……」
普通にフラれたのだと思っていたエイミィは、ほのかに少し同情した。少ししか同情しなかったのは、今はその想いが成就しているからである。
「それにしても、達也さんの身体って服の上から見る以上に引き締まってるんだね」
「無駄な脂肪が一切なく、削ぎ落されてる感じだって前にエリカが言ってた」
「うん、なんとなく分かる気がする」
エイミィもほのかも武術の心得は無いが、エリカがそう表現した理由は何となく分かる。今現在目の前にその身体があるのも理由の一つだが、他に表現しようがないのだ。
「卒業したら達也さんと……」
「エイミィって意外と下品なの?」
「なによ! ほのかだって妄想したりしてるんじゃないの!?」
「それは……」
ほのかは言い渋ったが、ここにいる全員が一度くらいはそういう事を妄想した事はあるだろう。もちろんほのかも一度や二度では済まない程妄想しているし、今日ももしかしたらするかもしれないと思っている。
「まぁ、人の事を言えないって分かったのならそれでいいわよ」
「何か負けた気分……」
エイミィに勝ち誇られて、ほのかは複雑な思いを懐きながら、雫の番が終わるのを待つのだった。
妄想癖は全員に在りそうですが……