劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼女はそこが問題ですから


料理指導

 達也たちが風呂に入っている間、夕歌と亜夜子でリーナの料理指導をしていた。さすがにキッチンを爆発させることはなくなったが、それでもまだ消し炭を作ることはあるらしいとの事で、時間がある時に交代でリーナの指導をすることになっているのである。

 

「さすがにこれを達也さんに食べていただくのは……」

 

「成功と言えば成功なのでしょうが、さすがにねぇ……」

 

 

 今回リーナが作ろうとしたのは、料理の基本が詰まっている肉じゃがだ。一応形にはなっているのだが、味が染みていなかったり、かと思えば煮崩れしていたりと、見た目が美しくないのだ。

 

「何をどうすればこうなるんでしょうか……」

 

「し、仕方ないじゃない! 私はずっと軍属で、料理なんてしてこなかったんだから」

 

「それは分かっているけど、この一年くらいはずっと日本で生活していたんでしょ? その間に練習とかしてなかったの?」

 

「してたけど……魔法ほど早く上達は出来ないわよ……」

 

 

 子供の頃から魔法の才能に恵まれていたリーナは、家事一切をしてこなかった。そんな時間があるなら魔法の練習をしろと言われてきたのもあるが、スターズの総隊長にもなれば料理などしている時間など無いのだ。偶の休日は、一日中寝ているか、必要なものを買いに行くくらいで終わってしまっていたのである。

 

「まぁ、噂に聞いていたよりかは上手ですし、これからですかね」

 

「深雪さんのライバルと言われているのなら、こっちでも頑張らないとね」

 

「同じくライバルと言われている一色さんは、料理の方もそれなりの腕のようですし」

 

「が、ガンバリマス……」

 

 

 何だか小姑にねちねち言われている気分になり、リーナは肩身が狭い思いをしていた。

 

「私たちはまだマシな方だと思うんだけど?」

 

「深雪お姉さまや水波さんと比べれば、随分と優しく教えて差し上げているのですが」

 

「分かってるわよ……あの二人は本当に怖かったもの……」

 

 

 過去のトラウマが掘り起こされ、リーナはぶるぶると身体を震わせる。ましてや達也に食べさせるものを作っていたのだから、その時の厳しさは亜夜子たちが思っている以上だったのだろう。

 

「それにしても亜夜子ちゃんは、何時料理の練習なんてしてたの?」

 

「私には優秀な味見係がいましたので、それなりに練習する機会はありましたのよ」

 

「可哀想に……」

 

 

 味見係とは文弥の事だろうと理解した夕歌は、ここにいない文弥に同情した。恐らく酷い味でも食べなければいけなかったのだろうと……

 

「ですから、リーナさんもご自身で食べなければいけないと思えば、上達するのではありませんか?」

 

「これを…自分で……?」

 

「もちろんですわ。こんなものを達也さんに食べていただいては、私と夕歌さんの評価まで下がってしまいますもの」

 

「うっ……酷い言われよう……でも、言い返せない自分がいる……」

 

 

 指導してもらってこの程度では、確かに二人の評価まで下がってしまうかもしれないと、リーナは反省する。言い返そうとしても言葉が出てこないのは、自分でもそう思っていたからだろう。

 

「さすがに達也さんはこの程度で評価を下げたりはしないでしょうけども、厳しい言葉は飛んでくるかもね」

 

「達也さんの味覚は深雪お姉さまの料理を基準としていますからね。高級レストランの料理ですら、達也さんの舌を唸らせることは難しいでしょう」

 

「そんなレベルになるまで、どれだけかかるのよ……」

 

「別にそこを目指す必要は無いと思いますわ。リーナさんはまず、普通に食べられるものを作れるようになることが先ですので」

 

「うぅ……」

 

 

 端々に感じる亜夜子の棘に精神的ダメージを受けながら、リーナは自分で作った肉じゃがを片付け始める。ところどころ美味しいと感じる部分はあるが、やはりこれをみんなに食べてもらおうとは思えなかった。

 

「どうしてこうも味がバラバラなのかしら……ちゃんと言われた通りに味付けしたのに……」

 

「リーナさんはお鍋の中をかき混ぜすぎてたんですよ。心配だからと言ってあそこまでかき混ぜたら、そりゃ均一に味は染み込みません」

 

「何で作ってる時に言ってくれないのよ!」

 

「失敗する事で人は成長するからよ。深雪さんや私たちだって、最初から上手くできていたわけじゃないんですから」

 

「深雪お姉さまは分かりませんが、確かに私も最初は酷いものでしたわ。味見係が泣き出してしまう程には」

 

「やっぱりそんな風だったのね」

 

「ですが、ちゃんと成功するようになりましたから」

 

 

 それまでにどれだけの時間がかかったのかは分からないが、その分だけ文弥が泣きたい思いをしていたのだろうと、夕歌はもう一度文弥に同情した。

 

「ですので、リーナさんも諦めずに練習すれば、きっといつか成功する日がきますわよ」

 

「そ、そうよね! 頑張ればきっと成功するわよね!」

 

「基礎は出来ているようですし、後は無駄な事をしなければいいだけです」

 

「あぅ……」

 

 

 やはりどこか刺々しい亜夜子の態度に凹みながらも、リーナは自分が作った失敗作を完食した。

 

「この失敗を糧に、今度はもっとましなものを作るんだから!」

 

「幾ら達也さんに富があるとはいえ、あまり食材を無駄には出来ませんから、毎日は無理ですからね」

 

「分かってるわよ……そもそも、他の人に時間的余裕がある時だけでしょ」

 

 

 基本的に暇を持て余しているリーナとは違い、ここで生活している人は仕事だったり学校だったりがあるので、時間的余裕はそうそうないだろうと、リーナはその事を理解した上で、今度こそはと誓うのだった。




もう少し頑張れ……

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