劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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序盤はかなり物騒な話題ですが……


五人の計画

 亜夜子と愛梨の手料理を食べながら、先ほどの話題が再開されていた。

 

「確かに、七草家は本気で四葉家と仲良くなりたいのかと疑わしい感じでしたわね……あの集まりは、司波深雪を広告塔に仕立て上げる為に開かれた感じでしたし」

 

「そんな感じだったようですね。達也さんから聞かされた限り、七草家は本気で四葉家との縁を深めるつもりは無さそうだと感じました」

 

「ただ、一高に通うようになって分かった事は、七草香澄さんは達也様と、七草泉美さんは司波深雪と、本気で縁を深めたいと思っているようです」

 

「香澄さんは兎も角、泉美さんの方は問題だと思うけどね」

 

 

 愛梨の感想に、響子が引き攣った笑みを浮かべながら口を挿む。達也も泉美の事は問題だと思っているのだが、本人が深雪に害を為すつもりがないと公言しているので、行き過ぎない限りは黙認しているのだ。

 

「私がいない間に、深雪は女子にモテるようになっているのね。私が一高にいた時は、男子が厭らしい視線を向けていたと思うのだけど」

 

「別に深雪お姉さまが女子にモテ始めたというよりかは、達也さんが深雪お姉さまの婚約者に決まって、太刀打ちできないと勝手に諦めたという感じです」

 

「諦めるも何も、最初から深雪さん相手に釣り合ってなかったんじゃないの?」

 

「深雪お姉さまと釣り合いが取れる男性など、達也さん以外思いつきません」

 

 

 亜夜子の言葉に、響子と夕歌は頷いて同意したが、愛梨とリーナは少し複雑そうに首をひねっている。確かに深雪の美貌と釣り合う男性となれば、達也のように深雪の美貌に恐れを懐かず、本人に落ち着いた雰囲気があった方が良いとは思っていたが、その条件に当てはまる男性は達也以外にもいるのではないかと思っている様子だ。

 

「達也と似たような条件なら、克人でも良いんじゃないの? 克人なら深雪の美貌に引けを取ることも無いでしょうし、どっしりとした雰囲気があると思うのだけど」

 

「こう言っては十文字様に失礼ですが、深雪お姉さまと並んでも恋人には見えないと思うのですが」

 

「まぁ、十文字家の御当主は、年相応には見えないものね。それも、達也くん以上に」

 

「達也様は落ち着き過ぎているだけですが、克人さんはその……見た目も同年代には思えませんものね」

 

 

 愛梨のある意味容赦のない感想に、達也以外頷いている。達也も克人の見た目は年相応ではないと思っているのだが、ちょっとしたことで心に傷を負うナイーブさを兼ね備えているのを、真由美からなんとなく聞いたことがあるので、その点では自分の方が年相応ではないと感じているのだ。

 

「まぁ、克人さんに達也様と同様の包容力があるかと聞かれれば、比べるだけ失礼というものでしょうが」

 

「見た目の包容力はありそうだけど、これほどまで婚約者を迎えられるだけの度量は無いと思うわね」

 

「これ以上この場にいない人の話で盛り上がっても仕方ないし、この話はこれで終わりましょうか」

 

 

 少し盛り上がり過ぎたと感じたのか、夕歌が話題変更を申し出る。他のメンバーも特に克人の話題にこだわりがあるわけではないので、その申し出はすぐに受け入れられた。

 

「達也様、何やら新ソ連が不穏な動きを見せているようですが、こちらから仕掛けるわけにはいかないのですか? 一条の御当主が倒れたのも、新ソ連軍が絡んでいると報告を受けているのですが」

 

「あくまで国籍不明船に仕掛けられたトラップで負傷した事になっているからな」

 

「ですが達也さん。宗谷海峡で検知された魔法は、新ソ連の戦略級魔法師イーゴリ・アンドレビッチ・ベゾブラゾフのトゥマーン・ボンバの可能性が高いのですよね?」

 

「あくまで可能性だ。トゥマーン・ボンバはその見た目が公開されていないから、何とも言えないがな」

 

「そのような情報、私は聞いていませんが」

 

「私も知らないわね……達也、そんな情報何処で手に入れたの?」

 

 

 リーナの問いかけに、達也は答えない。事情を知っている夕歌、亜夜子、響子も口をつぐんだ。四人の表情を見て、あまり聞かれたくない事なのだと理解した愛梨は俯いて視線を逸らしたが、こういう空気を読む力が欠如しているリーナは、もう一度達也に問い掛ける。

 

「ロシアの戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』はその効果、発動光景など一切が非公開の魔法よ。それを何処で見たというのよ」

 

「リーナと似たような立ち位置に俺がいるのは、なんとなく分かっているだろ?」

 

「あっ……」

 

 

 その一言だけで、リーナは達也が何処でトゥマーン・ボンバを目撃したのか理解した。完全に理解は出来ていないのだが、これ以上踏み込んではいけない問題だという事だけ理解出来ていれば、達也にとってそれで十分だったのだ。

 

「さて、食事も済んだことだし風呂に入って休むとするか」

 

 

 達也のこの一言に、五人が一斉に達也を見る。達也には特に深い意図はなく、普通に風呂に入って普通に寝るだけなのだが、五人はこれをチャンスだと受け取っていた。

 

「達也くん、ここのお風呂って、結構広いのよね?」

 

「十人くらいは楽に入れると思いますが……それが何か?」

 

「十人か……なら、この人数で入っても問題ないわね?」

 

「はぁ……五人くらいなら問題ないかと思いますが」

 

「じゃあ、そういう事にしましょうか」

 

 

 響子が意味ありげに四人に視線を向ける。その視線を受けた四人も、意味ありげに笑みを浮かべ微笑む。達也は何となく嫌な予感がしたが、反論したところで無意味だと諦めたのか、何も追及する事はしなかった。




風呂は一人が一番だと思う……あんまり好きじゃないですが

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