劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1136 / 2283
達也たちに幹比古を弄るつもりはありません


誘拐事件後の話題

 食事中はさすがに誰も例の噂に触れなかったが、食事を済ませた途端にエリカが切り出した。

 

「それで、今日一日噂されてどんな気分だった?」

 

「まだ一日経ってねぇけどな」

 

「細かいことは良いのよ。それで、ミキと美月はどんな気分なの? 意外と満更じゃなかったんじゃないの?」

 

「エリカちゃんっ!」

 

 

 顔を真っ赤にして詰め寄る美月と、飲んでいたお茶を噴き出した幹比古を見て、エリカはますますからかい甲斐があると感じていた。

 

「あんたたちは一年の時から噂されてたけど、ここまで大っぴらに噂になるとはね~。まぁ、あの一連の動作を見れば、そう思っちゃう気持ちも分からなくはないけど」

 

「そんなこと言うなら、達也だって去年十三束君と戦う時、司波さんに上着を預けてたんだぞ」

 

「まぁ、達也くんと深雪はそれくらいしてもおかしくない雰囲気だったし、兄妹だからある程度納得は出来るけど、ミキと美月は兄妹じゃないでしょ? それとも、ミキは美月の事を妹のようにおもってるのかな~?」

 

「エリカ、からかうのもそれくらいにしておけ」

 

 

 さらに詰め寄ろうとしたエリカに、達也から制止が掛かる。ここにいるメンバーで幹比古と美月をからかって楽しもうと思っているのはエリカだけで、他のメンバーはいい加減可哀想に思えてきており、全員が達也に制止を求めたのだ。

 

「エリカだって散々根も葉もない噂を流されてたんだし、二人の気持ちは分かるんじゃないのか?」

 

「あたしの噂って、このバカと付き合ってるとかいうあれ? あれは本当に何にも思ってない相手だから気にしなかったけど、ミキと美月は互いに意識してるわけじゃない? あたしとは違うと思うんだけど」

 

「そうやってからかわれるのは誰だって嫌だろ? エリカだって、修次さんの事を――」

 

「わー、わー! わ、分かったからそれ以上は止めてよね」

 

 

 エリカの弱点を的確に突いてきた達也に、エリカは大人しく白旗を揚げた。確かに弄られるのは気分が良くないと分かったのか、その後エリカは大人しく座っているだけだった。

 

「ところで、この噂って何時まで続くのかな?」

 

「人の噂も七十五日っていうし、二ヶ月弱くらいじゃない?」

 

「えっ、そんなに長いんですか?」

 

「まぁ、本人が否定してる訳だし、そんなに長くは続かないだろう」

 

 

 絶望的な表情で尋ねてきた美月に、達也は思った事を素直に答える。彼からすれば、詩奈が誘拐まがいな事をされた方が噂になるかと思っていたのだが、蓋を開けてみたら幹比古と美月の噂だったので、正直肩透かしを食らった気分だったのだ。

 

「そういえば達也、三矢の誘拐――じゃねぇけど、あれってどうなったんだ?」

 

「どうとは? 事の顛末は俺なんかよりお前たちの方が詳しいんじゃないか?」

 

 

 実際現場にいたレオたちの方が確かに詩奈救出の顛末に関しては詳しく知っているが、レオが知りたいのはその後の事で、達也もその事を分かっていながら恍けているのだ。

 

「軍の情報部が絡んでたのは知ってるけどよ、あいつらってお咎め無しなのか?」

 

「演習だと言い張ってるんだし、それ以上の事は何も分からないだろ。まぁ、届け出が無かった時点で『演習』なんて言い訳が通るわけ無いんだが、事を大事にしたくないと三矢家が警察と国防軍に申し出た所為で、真相は誰にも分からないだろうな」

 

「三矢さんが言ってた、遠山つかささんって人に聞くのは?」

 

「俺はその人物を知らないし、幹比古たちだって見てないんだろ?」

 

「うん……」

 

 

 あの現場にそれらしい人は見当たらなかったし、警察の方も踏み込んだ捜査が出来ないという事は、エリカ経由で聞いているので、幹比古は俯いてしまった。

 

「とにかく、詩奈失踪事件に関して、俺たちが出来る事は何もない」

 

「でもよ、また同じような事が起きるかもしれないんだろ? 学校としては何か対策を練るべきなんじゃねぇのか?」

 

「それは教師が考える事で、生徒会の領分じゃない」

 

 

 達也の言い分に、レオは何か言い返そうとして、結局何も言わずに黙り込んだ。

 

「そういえば達也さんは現場にいなかったんですよね?」

 

「十文字先輩と七草先輩と渡辺先輩と会っていたし、警察はエリカに任せておけば問題ないからな」

 

「エリカちゃんのお兄さんは刑事さんだもんね」

 

「あのクソ兄貴の使い道なんて、こんな時くらいしかないもん」

 

「エリカちゃん、あんまりお兄さんの事を悪く言うのは良くないよ?」

 

「休職中の刑事なんて、連絡係くらいにしか使えないのは本当の事でしょ? まぁ、復職してたら昨日の件で動けなかったかもしれなかったし、その点は良かったかもしれないけどね」

 

 

 これがエリカの照れ隠しだと全員が理解していたが、これ以上刺激すると激怒する可能性があったので、それ以上の質問は止めた。

 

「まぁ、詩奈も無事だったんだし、お前たちが軍の演習を妨害した、という事も無かったんだ。とりあえずはこれで終わりで良いんじゃないか?」

 

「そうですね、達也様。下手にほじくり返して、エリカたちが罪に問われるのもバカらしいですし、詩奈ちゃん自身が自分で引き受けたと言っていた以上、向こうを悪者に仕立てるのは難しいでしょうし」

 

「深雪、あんたが一番恐ろしいわよ……」

 

「そうかしら? あちらの連絡ミスの所為で、いろいろと問題があったんだから、あちらが謝るのが普通だと思うけど?」

 

 

 笑顔なのだが、何処か怒っているようにも見える深雪の表情を受けて、全員が何も言えなくなったのだった。




やっぱこの二人怖い……怒らせたら駄目だな……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。