劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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幹比古の胃が心配だ……


気になる気持ち

 幹比古と美月が付き合っているという噂は、話題にはなったが意外性は無かった。

 

「吉田、遂に告白したんだってな」

 

「な、なんだよ急に……僕は別に告白なんてしてないんだけど」

 

「そうなのか? だけど、お前と魔工科の柴田さんが付き合ってるって、学校中で噂になってるんだが?」

 

「その噂は僕も聞いたけど、事実じゃない。僕は別に柴田さんと付き合ってないし、その前にあの噂だってただ僕が柴田さんに上着を預けたところを見て勘違いしただけなんだろ?」

 

 

 幹比古としては、何故それだけの事で「付き合っている」などという噂になるのかが分からないのだが、周りの受け取り方は別だったのだ。

 

「吉田が柴田さんを呼んで上着を預けたなら別に問題なかったかもしれないが、お前が脱ぎ始めたのと同時に柴田さんがお前の後ろに移動して、当たり前のように上着を受け取ってたからな。あれは彼氏彼女というより、熟年の夫婦みたいだったからな」

 

「な、なんだよそれ……僕は兎も角柴田さんに失礼だろ」

 

「そうか? お前らは前々から付き合ってるんじゃないかって噂されてたし、てっきり本人たちもそう思ってるんだろうって、今回の動画でそう思ったんだが……」

 

 

 幹比古と美月が特別仲がいいのは、学園三年生なら誰しもが知ることだ。一科生で風紀委員長の幹比古が、魔工科の美月と親し気に話していれば、かなり目立つのだ。まして美月は一科生の間でも人気が高い。誰隔てなく丁寧に接してくれるのと、あの見た目で癒されている男子も少なくないのだ。

 

「たぶん吉田の存在が無かったら、今頃柴田さんは男子たちの注目の的だったろうな」

 

「司波さんやエリカじゃなくて?」

 

 

 幹比古も美月の人気は知っているが、それ以上に深雪やエリカの方が人気なのではないかと思っている。深雪に関しては言わずもがなだが、エリカもあのサバサバした性格と人懐っこい笑顔で、かなりの隠れファンがいると噂されているくらいなのだ。

 

「司波さんは確かに綺麗だし仲良くなれたら自慢出来るだろうけど、最初から攻略法が無いだろ? 千葉さんも同様に、友達にはなれるかもしれないが、それ以上は難しそうだしな」

 

「柴田さんなら簡単だと?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど……」

 

 

 幹比古の機嫌が傾いたのを受けて、男子生徒は慌てて両手を振る。

 

「あの子なら、俺たちと住む世界が違う、って感じはしないだろ? 司波さんは十師族で、千葉さんは百家だし」

 

「まぁ、そういう点なら確かに柴田さんは僕たちと同じだね」

 

「吉田はちょっと違うけどな」

 

 

 古式魔法の名門『吉田家』は、四葉や千葉とはまた別な雰囲気を他の生徒は感じ取っているようだった。確かに幹比古がまだ二科生だった頃も、吉田という苗字から『あの』吉田家の人間か、という疑惑の目はあった。そしてそれが確信に変わると、何故二科生に? という疑問が湧きあがり、更に疑惑の視線が増えていったのだ。

 

「それだけ家の名前の重みってのは感じるんだよ、俺たち普通の家の人間には」

 

「そんなものなのかなぁ……」

 

「まぁ、お前らが付き合ってないなら、まだ俺たちにもチャンスがあるのかもな」

 

 

 その言葉に、幹比古の心はは何故かチクリと痛んだ。別に美月が自分以外の誰かと付き合っても、それは仕方がない事だと頭では理解しているつもりだったが、どうやら心では誰にも取られたくないと思っていたようだと、幹比古はしかめっ面に近い苦笑いを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになり、幹比古は何時ものように食堂に向かうと、場所取りをしている達也を見つけた。

 

「やぁ。今日は達也が場所取りなのかい?」

 

「俺たちが一番早かったみたいだからな。今美月が食事を取りに行ってるから、俺がここに残ってるだけだ」

 

「……そうなんだ」

 

「別に俺は噂話をどうこうしようとは思ってないし、お前らが付き合ってない事も知ってる。気にし過ぎじゃないのか?」

 

「うん……達也がそういう事をしない、ってのは分かってるんだけどさ……」

 

 

 自分が美月をどう思っているのか、自分でもよく分からなくなってきた幹比古は、複雑な表情を浮かべながら達也の正面に腰を下ろした。

 

「お前は取りにいかないのか?」

 

「僕が場所取りしておくから、先に達也が行って良いよ」

 

「……一人で抱え込み過ぎるのは良くないと思うぞ。何なら、カウンセリング室にでも行ってみればいい」

 

「あそこに行ったら、噂が真実だったとかいう噂が流れそうだし」

 

「まぁ、あの人だからな」

 

 

 達也は苦笑いを浮かべて、幹比古の好意に甘え食事を取りに行った。

 

「僕が柴田さんをどう思っているかよりも、柴田さんが噂をどう思っているのか……そっちが気になってしょうがないよ」

 

 

 誰もいなくなったのを確認して、幹比古は一人呟く。自分の気持ちはこの際脇に置いておくことにしたようだが、美月がどう思っているのかが気になって仕方がないなんて、エリカに知られたら弄られるに決まっている、と決め込んでいるようだった。

 

「あれ? ミキ一人? 深雪たちは?」

 

「僕の名前は幹比古だ……司波さんたちはまだみたいだね」

 

「ふーん……まぁいいわ。場所取りご苦労様。もう少し頑張ってね」

 

 

 エリカはそれだけ言い残して食事を取りに行く。少し遅れて食堂にやってきたレオも、幹比古が場所取りしているのを確認してそのまま列に並んだ。

 

「まったく……いい相談相手がいないのも問題だな……」

 

 

 交友関係は狭くないが、色恋沙汰に敏い友人はいないなと思い、幹比古は苦笑いを浮かべながらため息を吐いたのだった。




周りにろくな相談相手がいないのも不運だ……

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