劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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嫌いじゃないですが、もう少し空気を読んでほしい……


沢木に対する評価

 式典自体は特に何も起こることなく終了し、五人はこのまま駅まで一緒に行動し、駅で解散という事でなんとなくまとまっていたが、その集団に声を掛けてきた女性がいたのだった。

 

「ほら! ほらほらリンちゃん! やっぱりいたわよ」

 

「連日呼び出されて、わざわざこのためなのですか?」

 

「真由美さん! それに、市原先輩も」

 

 

 声を掛けてきたのは、一高OGにして魔法大学在学中の七草真由美、そして同じくOGである市原鈴音だ。といっても声を掛けたのは真由美で、鈴音は真由美に引っ張られている感じだったが。

 

「みんな、入学おめでとう」

 

「ありがとうございます。それで、真由美さんたちはここで何を?」

 

「ん? もしかしたあーちゃんたちに会えるかなーって思って。そうしたらやっぱり会えたわ。これって日ごろの行いが良いからかしら?」

 

「真由美さんの日ごろの行いが良いかどうかは兎も角、入学式に参加しているのですし、出入り口はここしかないのですから、ここで待っていれば必ず会えると思うのですが」

 

「相変わらずリンちゃんは面白味に欠けるわねぇ……そんなんじゃ達也くんに愛想尽かされちゃうわよ?」

 

「ご心配なく。私よりも先に真由美さんの方が愛想を尽かされると思いますので」

 

 

 何だか雲行きが怪しくなってきたのを素早く察知し、服部が二人に話しかけた。

 

「わざわざ入学のお祝いを言いに来てくださったのですか? それでしたら申し訳ないのですが」

 

「別にお祝いを言いに来ただけじゃないわよ。みんな、この後時間あるかしら?」

 

「私は特に何もありませんが……」

 

「俺も問題はありません」

 

 

 真由美の問いかけに、あずさと服部がすぐさま答える。この辺りは、真由美の下で一年間動いていた経験が生きているのだろう。

 

「俺も特に予定は無いですね」

 

「あたしたちは二人っきりでまったりしようと思ってたんですが、このまま遊びに行くのもありですかね」

 

「花音、さすがにこの格好で遊ぶのは止めた方が良いと思うよ」

 

 

 五十里に注意され、花音は小さく舌を出して反省した風を装う。そんなやり取りを苦笑い気味な表情を浮かべながら眺めていた真由美だったが、全員この後の予定は空いていると確認が取れたので小さく頷いてから口を開いた。

 

「せっかく会えたわけだし、この後一緒にご飯とかどうかな? 入学祝として先輩が奢ってあげるわよ」

 

「そうですか。では行きましょうか」

 

「ちなみに、リンちゃんも奢る側だからね?」

 

「もちろん、分かっていますよ」

 

 

 鈴音のボケなのか分からない対応にちょっと疲れ気味にツッコむ真由美。服部とあずさはそんな二人のやり取りを見て、思わず吹き出してしまったのだった。

 

「どうしたの、二人で?」

 

「いえ……お二人の関係もあまり変わっていないのだなと思うと、少し可笑しかったので」

 

「真由美さん相手に当たり前に対応出来るのは市原先輩くらいだなーって思って、つい」

 

「私だって完璧に対応できるわけではありません。達也さんに指導してもらって最近は扱いに慣れてきましたが」

 

「あっ、司波君と言えば昨日奢ってもらちゃったけど良かったんでしょうか? 真由美さんと市原先輩は兎も角、私と渡辺先輩は自分の分は払うと言ったんですけど……」

 

「達也くんはいろいろと規格外だから心配する必要は無いわよ。少なくとも、はんぞー君や沢木君よりかはお金持ちだし、五十里くん以上かもね」

 

「僕はそこまでお金持ちじゃないですよ。実家の仕事をたまに手伝ってる程度ですし。それに比べて司波君はFLTでモニターを務めるくらいですからね。僕なんかより甲斐性があって当然です」

 

「そんなこと無いよ! 啓の方が甲斐性あるって!」

 

「それは、僕は花音だけに集中できるからだよ」

 

 

 またしても二人だけの世界を作り出そうとする二人に、あずさと服部が呆れた視線を向ける。もちろん、沢木は楽しそうにそのやり取りを眺めているのだが。

 

「沢木君ってあんまり付き合いなかったけど、あんな人なんだね」

 

「近しい人の情報では『頭のねじが数本抜け落ちているのではないか』と噂されているほどの逸材だそうです」

 

「それって逸材って評価で良いのかしら?」

 

「別の人からの情報では『少年の心を忘れていない純粋な男』と聞きましたが」

 

「純粋……純粋ねぇ……」

 

 

 小声で鈴音と話していた真由美が、あからさまに沢木を眺めていると、沢木がその視線に気付き真由美に話しかける。

 

「なにか俺の顔についていますか?」

 

「いや、そういう意味で見てたわけじゃないわよ」

 

「そうですか。それにしても、五十里と千代田は仲が良くて羨ましいですね」

 

「そ、そうね……(ホントに頭のねじが抜け落ちてるんじゃないかしら)」

 

 

 やっかんでる風ではないし、自分も彼女が欲しい、という感じもしない。単純に仲が良くて見ていて気持ちがいいくらいの感じだと、真由美は沢木と交わしたわずかな言葉で鈴音から聞いた情報が正しいと判断したのだ。

 

「というか中条、昨日司波君に会ったのか?」

 

「えっ? はい。たまたま見かけまして……そのまま真由美さんたちに捕まって司波君ともしばらく一緒でした」

 

「そうか。彼とは一度試合してみたいんだが、今度会ったら教えてくれないか?」

 

「そ、それくらいなら……だけど、沢木君なら直接司波君に連絡出来るんじゃ……」

 

「直接は無理だな。十三束を間に挟めば連絡出来ないことは無いが」

 

 

 豪快に笑う沢木に、あずさだけではなく服部や五十里、花音だけではなく真由美と鈴音も呆れ顔で彼を眺めたのだった。




さすが克人×達也に次ぐ組み合わせだと……おいこらまて……

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