劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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気がつけば七月に……もう半年が終わってた……


乙女協定

 とりあえず鈴音が落ち着いたので、真由美も一息ついて、傍観していた摩利の存在を思い出した。

 

「そういえば摩利」

 

「なんだ?」

 

「修次さんとは上手くいっているの?」

 

「特に問題はないが、どういう事だ?」

 

「ほら、摩利はエリカちゃんに嫌われてるっぽいから、嫌がらせとかされてないかなーって」

 

「エリカもそこまで子供じゃないんだし、何よりアイツには達也くんがいるからな。もうシュウがいなくても大丈夫だろ」

 

「なんだ、つまらないの」

 

 

 心底つまらなそうにため息を吐いた真由美を見て、摩利は一つの疑念を抱いた。

 

「まさかとは思うが、そんなことを聞きたいがためにあたしを呼び出したのか?」

 

「そんなことは無いけど、もし摩利が困ってたらからかって――じゃなくて、相談に乗ってあげようとおもっただけよ」

 

「本音が隠しきれてませんね」

 

 

 鈴音の冷静なツッコミに、真由美は舌を出して右手を頭の後ろに添え悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「相変わらずだな、お前は……人の事をからかえる立場じゃないと理解しているのか? むしろからかいがいがあるのはお前たちの方だと思うんだがな」

 

「まぁね。あれだけ婚約者がいるわけだし、嫉妬するなら私たちの方がありえそうだもんね」

 

「ですが、達也さんはほぼ平等に私たちと接してくれますので、不満らしい不満はありませんけどね」

 

「その辺りはさすがは達也くん、という感じだな。だが、やはりどこかに不満はあるんだろ?」

 

 

 鈴音の言葉の端を拾って尋ねる摩利に、真由美と鈴音は少し頬を赤く染めて答える。

 

「摩利みたいに恋人とべったり、という事が出来ないからね。一人がやると全員がそれを望むからって、達也くんとの過度の接触は禁じられているのよ」

 

「ですが、北山さんや光井さん、千葉さんはたまに達也さんに頭を撫でてもらったりしているようですので、私たちもしてもらいたいと願う事はありますね」

 

「それは恋人扱いというより、妹扱いなんじゃないか? よく司波にしてただろ」

 

「達也くんに撫でてもらうと幸せになれるらしいし」

 

「なんだ、その都市伝説は……」

 

 

 かなり胡散臭い都市伝説に、摩利は顔を引きつらせる。だが真由美も鈴音も本気で信じているようで、撫でられた自分の姿を想像して身悶えている。

 

「そもそも撫でてほしいなら、自分から頼めばいいだろ? 北山も光井もエリカも達也くんに頼んだんじゃないのか?」

 

「その三人から頼んだのではなく、達也さんが自発的に撫でてくれたらしいので、我々の協定に反していないという判定なのです」

 

「だから、私たちから頼んだら、他の婚約者から寄ってたかって非難されるわけ」

 

「めんどくさい協定だな……」

 

「だから、摩利みたいに好きなだけ腕を組んだり密着したり出来ないのが、不満と言えば不満なのかしらね」

 

「あ、あたしはそんな事してないからな!」

 

「そうなの? エリカちゃんがそんなことをしてるって言ってたけど」

 

「ぐっ……」

 

 

 真由美たちの前でした事がないから誤魔化せると思っていたが、情報の出所がエリカでは誤魔化しようがないと観念して、摩利は無言で頷いたのだった。

 

「年上の彼氏だと、そういった事も許してくれるのかしらね」

 

「達也くんだって、年下だが年下らしくないから許してくれるんじゃないか? もちろん、他の婚約者がどう思うかは別だがな」

 

「そうなのよね……」

 

「市原は兎も角、お前は達也くんより年上に見えないから大丈夫だろ」

 

「どういう意味よ!」

 

「そのまんまの意味だ。市原に対しては達也くんもちゃんと年上を相手にする感じで振る舞っているし、市原も落ち着いた雰囲気から年上な感じがするが、お前は子供っぽいからな。背も低いわけだし」

 

「背は仕方ないでしょ! てか、誰が子供っぽいのよ!」

 

「そうやってむきになって反論するところが子供っぽいといっているんだ」

 

 

 摩利に指摘され、真由美はムスッと頬を膨らませながらそっぽを向く。その姿がまた子供っぽいのだが、指摘するとまた不貞腐れるので黙って流した。

 

「達也くんの婚約者の中で、彼より年上に見える相手はどれだけいるんだ? そもそも、達也くんより年上の婚約者はどれくらいいるんだ?」

 

「私とリンちゃん、津久葉先輩に平河さん、壬生さんと響子さんくらいじゃない?」

 

「あとは四葉家が正式に認めた愛人であるところの安宿先生と小野先生でしょうか」

 

「そのメンバーだと、達也くんより年上だとはっきり言える相手は藤林さんくらいか?」

 

「響子さんは別格よ。あの落ち着き様はさすが年上のお姉さん、って感じよね」

 

「達也さんの隣にいても姉弟でなく恋人だとはっきり言えるのは、恐らく彼女だけでしょうね。非情に悔しい事ではありますが……」

 

「夕歌さんは血縁だしねぇ」

 

「とにかく、それだけ達也くんが落ち着いているという事なんだろうな。まぁ、それ以上に真由美が子供っぽいせいで恋人に見られないのかもしれないがな」

 

「なんですって!」

 

「そうやって反応するから、渡辺さんにからかわれるんですよ」

 

 

 鈴音に冷静に分析され、真由美はなにか反論しようとして口をパクパクさせるだけしか出来なかった。

 

「まぁ、達也くんの落ち着き具合も高校生とは思えないんだがな。それこそ、十文字に匹敵するんじゃないか?」

 

「十文字くんはまた別格よ。あの風格は達也くんでも敵わないって」

 

「十文字くんには悪いですが、達也さんとはまた別ですよね、彼は」

 

 

 三人は同級生の姿を思い浮かべ、揃って噴き出したのだった。




摩利と詩奈って面識会ったんでしたね……まぁ問題ないので修正はしませんが

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