劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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とりあえず10日連続投稿です


入学式直前

 達也は、真由美の反応が少し不思議だった。如何してこの人は人の事を自分の事のように話し、そして自分の事のように喜んでいるのだろうと思っていたのだ。

 

「どれだけ凄いと言われようと、あくまでもペーパーテストの成績、情報システムの中だけの話ですよ。その証拠に、自分にはエンブレムもありませんし」

 

 

 魔法科高校生の評価として優先されるのは、テストの点数では無く魔法技能の評価なのだから。

 達也は愛想笑いを浮かべようとしたが、実際に浮かべられたのはかなり苦い笑いだった。そうして自分の左胸を指差し、テストの点数は何の意味も無い事を示す……生徒会長である真由美に、達也が意図した事が分からないはずも無い。

 だけど真由美は嬉しそうな顔を変える事無く首を左右に振った。

 

「そんな事無いわよ。少なくとも私には無理だもの。私ってこう見えて理論系も結構上の方なのだけどね」

 

 

 如何見られてるのだろうかと思ったが、達也は余計な事は言わなかった。知り合って間もない相手の話を途中でぶった切る事はさすがの達也でも出来なかったと言った方が正しいかもしれないが。

 

「入試問題と同じものを出されたとしても、司波君のような凄い点数はきっと取れないと思うな~」

 

「そろそろ時間なので……失礼します」

 

「え? ちょっと!」

 

 

 まだ何か話したそうな真由美にそう告げて、達也は横を通り過ぎて行く。背後から呼び止められる声が聞こえたが、生徒会長が新入生を掴まえて入学式に遅刻させたとなれば問題になると真由美も分かっていたので、さすがに追いかけては来なかった。

 達也は足早に真由美から距離を取り講堂に向かった。自分が何かに恐れているとは気付かずに……

 

「真由美、こっ酷く振られたな」

 

「摩利!?」

 

 

 達也が居なくなった中庭で、残された真由美をからかうような声で話しかけてきた女子が居た。彼女は影からずっと達也と真由美のやり取りを見ていたのだ。

 もちろん達也は気付いていたのだが、別に害意も感じなかったので放っておいたのだが、如何やら真由美は気付いていなかったようだった。

 

「それにしても真由美はああ言った男が好みなのか」

 

「そんなんじゃないってば!」

 

「アイツ、新入生だろ? 服部が知ったら如何なるかな~」

 

「はんぞー君は関係無いでしょ!」

 

「何だ真由美、お前アイツの気持ちに気付いてるんじゃないのか?」

 

「それは……」

 

 

 真由美はもちろん服部が自分に先輩以上の好意を寄せているのには気付いているが、残念ながら真由美にとって服部はからかう相手であってそう言った対象では無いのだ。

 

「それにしても、何をあんなに楽しそうに話してたんだ? 初対面の男相手にお前があんな顔をするとは思って無かったぞ」

 

「ちょっと趣味が合ってね。彼も読書派だったのよ」

 

「ふ~ん」

 

「あれ?」

 

「本当にそれだけか?」

 

「だからそう言った事じゃ無いってば!」

 

「私はまだ何も言ってないぞ。真由美、お前は何の事だと思ったんだ?」

 

「もう! 知らないもん!」

 

 

 悪友にからかわれて、真由美はフイと顔を逸らして講堂に向かった。そんな真由美の態度が面白かったのか、摩利は声を出して笑った。

 

 

 

 

 

 

 生徒会長と話しこんでいた所為で、達也が講堂に入った時には既に半分の席は埋まっていた。

 特に座席の指定は無いのだから、最前列だろうが最後列だろうが、端だろうが真ん中だろうが自由に座れるのだが、達也は座っている生徒を見てため息を吐きたくなった。

 前半分が一科生(プルーム)で後ろ半分が二科生(ウィード)に分かれているのだ。同じ新入生でありながら前と後ろで綺麗に分かれているのを見て、関心と呆れを感じたのだ。

 

「(もっとも、差別意識が強いのは、差別されている側だろうがな)」

 

 

 達也にはそんな意識は無いのだが、他の二科生も自分と同じだとはさすがに思っていない。この中の何人が達也と同じ思考の持ち主かを見つけるのは恐らく困難だろう。もちろんそんな事はしないのだが。

 前後で分かれているのが意識的だろうが無意識だろうが、その流れに逆らって波風立てるのも面倒だと思い、達也も二科生が集まっている後列、その中でも後ろの方に目をつけ、端っこが開いている場所に移動した。

 横に誰が座っても別段気にはしないのだが、出来る事なら端っこの方が気が楽なのだ。

 

「(あと20分か……何をするにも中途半端な時間だ)」

 

 

 席に腰を下ろして時計を確認して、さてこれから如何やって時間を潰すかと悩んだ。通信制限が掛かっている講堂では端末にアクセスは出来ないし、そもそもこんな場所で端末を広げるのはマナー違反だ。

 

「(深雪は今頃最終チェックをしてる……いや、深雪がこんなギリギリまでそんな事をしないか)」

 

 

 こんな時に自分の妹の事を考える辺り、達也も普通の兄では無いのだろう。自分の考えてた事に苦笑いを浮かべようとしたら、声をかけられた。

 

「あの、お隣空いてますか?」

 

 

 寝ようとしてた達也は、組んでいた腕を解いて閉じかけていた目を開いて声のした方を確認する。そこには女子が立っていて、間違いなく自分に掛けられて声だと理解した。

 

「どうぞ」

 

 

 別に連れが居るわけでも無いし、どうせ隣に座るならムサイ男よりも女子の方が良い。そんな事を達也が思ったか如何かは知らないが、達也は声を掛けて来た女子を隣に座らせた。

 まだ空きは多いのに、何故こんな所に来たのかが、達也は気になっていたのだ。

 

「良かったね~」

 

「これで一緒に座れるね」

 

「4つとなると探すの大変だもんね」

 

 

 如何やら彼女は1人では無く4人組だったようだ。それならこんな場所を選ぶのにも納得が行く。 

 だが、この4人は如何言った関係なのだろうか……中学からの友人なのだろうか?

 

「(でも、それなら誰か1人くらい一科生でも良さそうなもんだがな)」

 

 

 4人の関係を考えながら、達也は再び腕を組み目を閉じたのだった。




話がゆっくりとしか進まない……

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