八神ゆとりの日常   作:ヤシロさん

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今回も短いです。


第八話 とある開幕

「そんでな、嫌がる私に無理やり入れるんよ。痛いからやめて言うとるのに、みんなで私のことを押さえつけて、あ、あんな、あんなに太いのを入れたんや!」

『・・・・・・』

「しかも三回もやよ! 二回だけって言うたのに、失敗したって嘘言うて、三回も入れたんよ。ひどいと思わへん!?」

『・・・・・・いや、まあ、嘘かどうかともかく、失敗したのは確かに酷いと思うけど。・・・・・・これって何の話だっけ?』

 

 あの悪夢の日から、今日で三日目。

 私は自分の部屋で寝転がりながら、旅行から帰ってきたと連絡をくれたアリサちゃんとお話し中で、病院で受けた仕打ちを聞いてもらっている真っ最中だ。

 

『それで、検診の結果はどうだったの? どこも悪い場所はなかったわよね?』

「結果が出るまでいつも一週間くらいかかるから、まだわからんよ」

 

 検診もいつも通り無事(?)に終わったから、早くて1週間、遅くても2週間以内には結果が来るだろう。

 先月は熱を出していることが多かったとはいえ、1か月を寝て過ごした日も少なくはないから、検診の結果にはあまり影響はないはず。

 今は体の調子も良好だし、たぶん大丈夫と告げると、電話の向こうでアリサちゃんにため息をつかれた。

 

『たぶんって・・・・・・アンタねぇ、もう少し自分の体のことを気にかけなさいよ』

「心配してくれとるの?」

『当たり前でしょ? アンタ、ちょっと前まで風邪引いて寝込んでてたんだから、心配するのは当然よ』

「そ、そなんや・・・・・・」

 

 ストレートな言葉に、思わず照れる。

 今まではやてちゃんや他の人達からも言われたことのある言葉だが、友達と意識するだけで、こうも照れくさく、嬉しいものだと初めて知った。

 頬が赤くなり、思わず手元が狂いそうになったが、どうにか作業を続ける。

 

 ちなみに体の方はちゃんと気にかけている。

 はやてちゃんから先日の無茶した話が伝わって、石田先生にもいくつか注意をもらったし、今度やったら無茶苦茶痛い注射をすると脅されたし。

 私としても、はやてちゃんやアリサちゃんにあまり心配をかけたくないから、ここ最近は食生活や体調管理を意識して生活している。

 

「そういえば、アリサちゃんは旅行の方はどうやったの?」

『いきなり話が変ったわね。まあ、別にいいけど・・・・・・。楽しかったわよ。温泉も気持ち良かったし、みんなで遊べたし、途中で変な人に絡まれたけど、概ね楽しい旅行だったわ』

「そうなんや。・・・・・・変な人?」

『そう。変な酔っぱらいでさ、私やなのは達にいきなり突っかかってきたのよ!』

「だ、大丈夫やったの? 怪我ない?」

『ええ、なんか人違いだって言ってたわ。失礼しちゃうわよ、まったく!』

 

 どうやらアリサちゃんの方でも一悶着あったようだが、無事に帰って来てくれてよかった。

 お土産を買ってきてくれたらしく、わぁ、嬉しい。何を買ってきてくれたの?と聞くと、次に会う時に渡すから、それまで秘密ともったいぶられてしまった。

 仕方ないから、それまで楽しみにしていることにする。

 

『ところでさ、さっきから何かカチカチってたまに聞こえるんだけど、アンタ何してるの?』

「うん? 編み物やよ?」

 

 アリサちゃんの言うカチカチとは、編み針がぶつかり合う音だろう。

 携帯を顔と肩に挟みながらやっているから、少しやりにくく、編むスピードが落ちてしまうが、それでも手は止まらないのは練習の成果。

 風邪で寝込んでいる時にずっと練習していた甲斐があって、今はお婆ちゃん達のようにとはいかないが、それでもそれなりにできるようになってきていた。

 

『編み物って・・・・・・アンタはお婆ちゃんか!』

「お、お婆ちゃんって、いくらなんでもひどいわ―」

 

 あんまりな物言いに、思わず編み針を落としそうになる。

 

『じゃあ、好きな食べ物は?』

「に、肉じゃがとお醤油のお煎餅」

『趣味は?』

「・・・・・・ゲートボール」

『やっぱり、お婆ちゃんじゃない!』

「そ、そんなことあらへんよ! 私、まだピチピチの10歳やもん!」

 

 確かによくお爺ちゃんやお婆ちゃん達と一緒に遊ぶから、自然と好きな物や趣味がそういう方向になっても仕方がないはずで、髪も白髪だが、それでもまだ10歳なのだ。

 

 お婆ちゃん達は好きだけど、お婆ちゃんと言われるのは嫌なお年頃。

 

『・・・・・・あのさ、いろいろ言いたいことあるんだけど、まず始めにアンタって10歳だったの?』

「うん、そうやよ?」

『わ、私より年上って・・・・・・何で言わなかったのよ! 思いっきりため口利いちゃったじゃない!』

 

 言ってなかったっけ?と聞くと、聞いてないわよ!と怒られてしまった。

 思い返してみれば、確かにお互いに自分の年齢を言った覚えがないし、知らなくても仲良くできていたから、気にもならなかった。

 

「え、えと、私はため口でええんよ? 同い年の子に敬語を使われるのは慣れとらんし。友達に敬語を使われるのも、何やか寂しい気もするから」

『そ、そうね。今さら過ぎるし、私も気にしないことにするわ』

 

 お互いに良い形で結論が出たところで、閑話休題。

 

『それじゃあ、次。なんで編み物なんかしてるわけ?』

「あんな、もうすぐはやてちゃんの誕生日なんやけど、はやてちゃんに手編みのマフラーをあげよう思うて、今頑張って作っとるんよ」

『ふーん、ゆとりって本当に妹が好きよね。普通手編みなんてしないと思うけど・・・・・・』

「そうなんかな? でも、はやてちゃんに喜んでほしいから」

 

 私がはやてちゃんを好きなのは、周知の事実。

 たった一人の家族で、大切な自慢の妹で、私の一番幸せになってほしい人。

 はやてちゃんの喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、昔から料理を覚えるのも、こうやって編み物を編むのも苦にならなくなる。

 

『まあ、いいんじゃない。確かに手作りってだけで嬉しいし。でも、大丈夫なの? はやてって子の誕生日って確かもうすぐなんでしょ? 私はマフラーなんて作った経験ないからわからないけど、手編みって時間がかかるんじゃないの?』

「・・・・・・」

『ちょ、ちょっと、急に黙らないでよ』

「・・・・・・実は、まだ半分も出来てなかったり」

『うぉい! どうするつもりなのよ!? 今からでも間に合うの!?』

「ね、寝ずに頑張れば、きっとなんとなる・・・・・・はずや」

『無理するなって言ったばかりでしょうが! アンタが倒れたら、アンタの妹が悲しむんでしょ!? 喜ばせようとして悲しませたら、本末転倒じゃない!!』

 

 言ってることがもっとも過ぎて、何も言い返せない。

 そういえば初めて会った時にも似たようなやり取りがあったなーと思い出しつつ、現実の厳しさに涙目になる。

 慣れてきたとはいえ、編み物歴一ヶ月もない私にマフラーは少し難易度が高かった。

 

「せ、せやけど時間があらへんし・・・・・・今のままやと、半分だけしかできへんねん」

『はぁぁぁ、アンタねぇ・・・・・・だったら、もういっそのこと誕生日プレゼントは別の物にしたら?』

「別の物?」

 

 深いため息の後に、そんな提案をしてくる。

 

『そう、別の物。さっきも言ったけど、マフラーなんて冬にしか使えないじゃない。だったら、マフラーはまた別の機会にあげることにして、今は別の物を買うことにしたらどう?』

「・・・・・・やけど」

『確かにゆとりの手編みのマフラーを渡せばですごく喜んでくれると思うけど、間に合わないんじゃ仕方ないでしょ? あんまり急いだって良い物はできないだろうし。なら、今回は諦めて、次の機会までに時間をかけて良い物を作った方がいいじゃない』

「・・・・・・うん」

『それに、こういうのはあげる物じゃなくて、気持ちの方が大切じゃない。手作りじゃなくても、ゆとりの妹が大好きだって気持ちを込めたプレゼントを渡せば、はやてって子も喜ぶはずよ』

 

 確かに、今から無理しても良い物のが作れると思えないし、はやてちゃんにあげるなら、ちゃんとした物を渡してあげたい。

 

「はやてちゃん・・・・・・手作りやなくても、喜んでくれるやろうか?」

『当たり前でしょ? 大切な人から貰うプレゼントは、なんだって嬉しいんだから』

 

 的確なアドバイスに、自然とその方がいいと思えてくる。

 いや、アリサちゃんの言葉はすでに私の中で何度も自問自答して出ていた答えで、それでも諦めきれずにいたのは、私の子供のような意地だったわけで、最初からわかっていたことだ。

 だからこそ、アリサちゃんの言葉を何の疑いもなく受け入れているのだと思う。

 

「アリサちゃんのおかげで、また無理してはやてちゃんに怒られずにすんだわ。ありがとなー」

『べ、別に感謝なんていいわよ。むしろ、ゆとりの頑張りに水を差しちゃった気がするし・・・・・・』

「そんなことあらへんよ。ずっと悩んどったから、アリサちゃんのおかげで吹っ切れたわ。ほんまにありがとなー」

 

 日に日に溜まっていた焦りや不安が全て解消できた。

 肩の荷が下りたおかげで、気分が楽になってきた気がする。

 

『まあ、いいわ。それで、代わりの誕生日プレゼントってどうするつもり? 何か当てとかあるの?』

「うーん、商店街に行けば何かあるかもしれへんけど、今のところ何を買うかは決まってへんよ」

『そ、そう。ところで、ゆとりって明日時間ある?』

「明日? うん、明日はずっと暇やよ」

 

 明日だけに限らず、ほとんど暇なのだが。

 だいたい一日中家にいてはやてちゃんと遊んでいるし、やることといっても掃除や洗濯物を干すことくらいだ。

 

『それなら、私も明日暇だし、一緒に町まで出かけない?』

「え? それって・・・・・・?」

『ほら、前に約束したじゃない。私たちが初めて会った時に二人で出かけようって』

「うん。覚えとるよ」

 

 ちゃんと覚えてる。

 アインと迷子になったり、魔法使いさんと知り合いになったり、そして、私にとって初めて友達と呼べる人ができた思い出の日だ。

 一緒に出かけよと誘われた時のドキドキを今でも忘れない。

 

「だから、その約束を明日にしましょ? ついでに一緒に誕生日プレゼントを探してあげるわ。 アンタのセンスっていまいちよく分からないし、選択肢はなるべく多くあった方がいいじゃない?』

 

 突然の申し立てだったが、理解すると心が弾むのが分かった。

 はやてちゃん以外に一緒に買い物しようと誘われたことなんてなかったから、嬉しさと緊張でテンションが上がる。

 

「ほ、ほんまに!? アリサちゃん、はやてちゃんのために一緒に探してくれるん?」

『か、勘違いしないでよね! 明日で連休も終わりだし、それなのに家でごろごろしていてもつまらないから、私の暇つぶしついでに探してあげるってだけだからね!』

「うん! ありがとなー」

 

 その後、二人であーだこーだと明日の予定を話し合って、じゃあまた明日といつものように挨拶をして電話を切る。

 

 さて、明日の準備をしなければいけない。

 なにぶん初めてのことだから、はやてちゃんにでも相談してみようかな?

 

 余裕が出てきたとはいえマフラーはちゃんと完成させたい。できればはやてちゃんに似合ってるのを作りたい。

 あっ、アドバイスくれたお礼にアリサちゃんにもマフラーを編んであげようかな?でも、アリサちゃんなら手編みよりもずっと良い物を持ってそうだし。明日会った時に、もし作ったら貰ってもらえるかを聞いてみよう。

 

 そんなことを考えながら、私は再び編み針を動かす作業に戻るのだった。

 

 

 




ふと気づいたことがある。
今までのゆとりちゃんを見てて、この子本当にはやてちゃんが好きなんだと思う。
でも、ちょっと待ってほしい。

ゆとりちゃんとはやてちゃんの絡みって少なくない!?

もっとこう姉妹でらぶらいぶ的な展開を妄想してたのに、いつの間にかアリサちゃんがレギュラー化してた件について。
いや、なんか書いてるとアリサちゃんとゆとりちゃんの相性が良すぎて、つい書いちゃうんだもん。
これは仕方ないよね?

まあ、その内姉妹の日常をもっと書くつもりです。
だから、今は他のキャラとの関係を育む期間と見て楽しんでください。

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