八神ゆとりの日常   作:ヤシロさん

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げ、原作キャラとの絡みが難しい!
なるべく不自然にならないようにゆとり成分を出してみたので、もし不自然なところとかあったら教えてほしいです。


第五話 八神ゆとりの非日常(中篇)

「ロストロギア、『ジュエルシード』。大人しく、こちらに渡してください」

「・・・・・・え?」

 

 突然のことで茫然とする。

 足音は聞こえなかった。誰かが近づいてくる気配もなかった。

 まるで何もない空間からいきなりその場に現れたような金髪の女の子は、赤い双眸を細くし、その手に持つ黒い大鎌をこちらに向けて近づいてくる。

 

「あなたの持っているそれを、こちらに渡してください」

 

 再度告げる。

 こちらを睨む視線は鋭く、声も冷たい。

 その視線に思わず一歩下がってしまうが、金髪の女の子には私が逃げようとしていると解釈したのか、大鎌を握る手の力を強くし、最後の警告を告げた。

 

「渡さないのであれば、力尽くで奪います」

「え、え?」

 

 そう言われても、私には目の前の女の子が何を欲しがっているのかが検討もつかない。

 必死に彼女の欲しがっている物がなんなのかを考えている間にも、女の子はどんどんこちらに近づいてくる。

 

 あの鎌で切られたら痛そうやなーとか、よく見たらこの子、私やはやてちゃんと同い年くらいの女の子なんやとか考えている場合ではない。

 自分が持っている物で他人が欲しがりそうな物がなんなのかを考えてた末に、ある結論が出た。

 

「もう一度言います。渡さないのなら、力尽くでも―――」

「こ、これ!」

「渡してもらい・・・・・・えっ?」

「あ、あの、これ、今私が持っている全財産です。これで勘弁してくれへんやろうか?」

「・・・・・・え?」

 

 持っていた財布を取り出して眼前まで迫っていた女の子に渡すと、予想に反して、女の子は今までの怖い顔が嘘のように、きょとんとした年相応の可愛らしい表情になった。

 つい、あ、可愛い。などと場違いな事を思ってしまう。

そんなこと考えていると、女の子は何かに気づいたように慌て始めた。

 

「あ、あの! ち、違うんです! 私の欲しいのはこれじゃなくて!」

「へ? そうなん?」

「は、はい。お金じゃなくて・・・・・・」

「えと、なら、こっちやろうか?」

「いえ、そっちでもなく・・・・・・」

 

 持っていた買い物袋を差し出すが、それも違うと言われた。

 お金でも食糧でもないとすると、あと私が持っている物は携帯電話くらいしか思いつかないし、他にこの子が欲しがりそうな物は・・・・・・あ。

 

「もしかして、このきれいな石やろうか?」

「は、はい。それです。それが必要なんです」

 

 アインにもらった石を見せると、ようやく首を縦に振ってくれた。

 でも、これはせっかくアインが私のために持って来てくれたもんやし、でも、どうもこの女の子にも何か事情がありそうやし、断ったらばっさりとされそうやし。んー。

 

「あの、ちょっと待って欲しいんやけど、ええやろうか?」

「え? 渡して、くれないんですか?」

 

 私のお願いに、女の子は再び武器を構えた。

 不安そうな、でも何かを決意したような強い瞳を見て、言葉が足りなかったと焦る。

 

「そ、そやなくて、この石はこの子にもらった物なんよ。せやから、この子に渡してもええか聞かんと、渡せへんのや」

「この子って・・・・・・この猫に?」

「うん」

 

 頷くと、女の子は再び剣呑さを引っ込めて、不思議そうに首を傾げた。

 

「えっと、それって必要なんですか?」

「うん、大事な事やよ。この子は私のためにこの石を拾って来てくれたんやから、それを他の誰かに簡単にはあげられへんよ」

「・・・・・・それが猫でもですか?」

「うん、そうやよ。あなたかて、自分のためにくれた物を簡単に人にあげるなんて出来へんやろ?」

「それは・・・・・・うん、あげられないかも」

 

 納得してくれた所で、さっきから毛糸玉のように丸まって動こうとしないアインに聞いてみることにした。

 

「ねえ、アイン。さっきアインにもらったばかりの石なんやけど、この子が欲しいって言うとるんやけど、あげてもええかな?」

「・・・・・・」

 

 女の子と二人でアインの返事を待つ。

 しばらく待つと、小さくしていた体を少しだけ動かして「にゃー」と弱々しく鳴いた。

 女の子はそれに一瞬驚くも、今度は期待の目をこちらに向けてきた。

 

「えっと、この子はなんて?」

「アインが「いいよ」やって。せやから、はい」

「あ、ありがとう」

 

 石を手渡すと、ほっと安心した表情になる。

 こっちも女の子の持つ大鎌から金色の光の刃が消えたことに、密かに胸を撫で下ろしていると、女の子は何故かその大鎌を石に近付けていた。

 

「バルディッシュ、お願い」

『はい。ナンバーⅩ 封印』

 

 驚いたことに、女の子がバルディッシュと呼ばれた大鎌に話しかけると、バルディッシュと呼ばれた大鎌は返事をして、さらにバルディッシュの宝石の部分に石を吸い込んでしまった。

 

「ありがとう、バルディッシュ。あなたも、譲ってくれてありがとう・・・・・・どうしたの?」

 

 驚きで固まっている私を見て、不思議そうにしている。

 

「い、今、その鎌さんが喋って、石が消えて・・・・・・」

「え? ・・・・・・あ」

 

 しまったという顔をしている。

 どうやら今の光景を私に見せたことが失敗してしまったらしく、見ていて面白いほど慌てふためく。

 

「あの、今のって何なん?」

「えと、今のは、その・・・・・・」

「石が消えてしもうたし、その鎌が、えっとバルディッシュさんやろうか?」

『その通りです』

「あ!? だ、だめだよ、バルディッシュ!」

『すいません』

「も、もう! こ、これはその、えーっと・・・・・・」

「バルディッシュさんが喋っとるんやけど?」

「・・・・・・うっ」

 

 なんだか質問を続けていると、目に見えて女の子が焦って、どんどん泣きそうになっている。

 さすがにこれ以上聞くのはあかんと思い、軽い気持ちで言ってみた。

 

「ま、まるで魔法のようやね!」

「・・・・・・うぅ~」

 

 場を和ませようと冗談を言ったつもりが、まさかの正解だったようだ。

 半泣きになる女の子を見て、罪悪感が湧き上がってくる。

 

「あの、もしかして魔法のことって秘密なん?」

「・・・・・・(こくり)」

 

 前に読んだ魔法使いが登場する本を思い出しながら聞いて見ると、案の定肯定の返事が返ってきた。ということは・・・・・・、

 

「ひ、秘密がばれたらオコジョにされてまうとか・・・・・・?」

「・・・・・・オコジョ?」

 

 あ、これは違うんだ。ちょっと残念。

 

「・・・・・・なら、私が誰にも言わへんかったら、大丈夫やろか?」

「え?」

「今日の事、二人だけの秘密にすれば問題ないかな?」

「・・・・・・いいの?」

「うん。魔法使いさんと知り合いになれたのは嬉しいけど、あなたが秘密にしてほしいなら、私は今日のことは誰にも言わへんよ」

 

 もちろんはやてちゃんにも秘密。

大切な家族に隠し事はすごく気が引けるけど、人のためにする隠し事ならええよね?

 

「ありがとう」

 

 笑顔で礼を言う女の子に、私は思わず見惚れそうになった。

 この子、笑うとこんな素敵な顔になるんや。

 

「それじゃあ、私はもう行きます」

 

 用は済んだのだろう。そう言って女の子はこの場を去ろうと踵を返す。って、・・・・・・あっ、しまった!

 

「ちょ、ちょっと待って!」

「はい? どうかしましたか?」

 

 突然の出来事が続いたせいですっかり忘れていたけど、一番大事な事を思い出して女の子を引き止めた。

 

「あの、私からもお願いがあるんやけど、ええかな?」

「えっと、ジュエルシードをくれましたし、私にできることでいいなら」

「ほんま? それなら、その、・・・・・・私とアインのことを助けてほしいんやけど」

「はい?」

 

 助けを求めると、予想通り女の子はぽかんと目を丸くして驚いていたが、こちらは結構必死だ。

 で、でも、あうう・・・・・・やっぱり恥ずかしいわー。

 

「あ、あんな、私、その・・・・・・迷子なんよ」

「迷子、ですか?」

「う、うん。アインと追いかけっこして、それで気付いたら森の中で、その、帰り道がわからへんねん」

「あ、ああ。・・・・・・だからこんな場所に」

 

 納得する女の子を見て、ますます顔が赤くなる。

 女の子は無事に了承してくれたから一安心だけど、さすがに初対面の女の子に自分は迷子だと告げるのは、やっぱり恥ずかしいし、情けない。

 

「それじゃあ、つかまって」

「? はい」

 

 と、そんな感じで羞恥に悶えている私に、女の子は手を差し伸ばしてきた。

 とりあえずこちらも手を出して握ってみる。握手。

しかし、女の子の真意は違ったようで、

 

「えと、そうじゃなくて・・・・・・」

「?」

「森から出るために空を飛ぶから、私の体につかまってって意味だったんだけど・・・・・・」

「あ、そうやったんや・・・・・・え!? 空飛ぶん!?」

 

 予想外の脱出方法につい声を出して驚いたが、しかし、女の子はそれがさも当たり前のように頷き、

 

「うん。そっちの方が早いし、楽だから」

「・・・・・・そ、そうやね」

 

 確かに空飛んだほうが早そうだけど・・・・・・。

 そっかー、魔法使いさんだから、そのくらいが普通なんや。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 そう言って片手でアインを抱きながら、もう片方の手を女の子の背中へと回す。

 女の子も私を抱っこするようにして腰に両手を回し、お互いに抱き合うのような格好になった。

 

「それじゃあ、いきますね」

「う、うん・・・・・・」

 

 これから本当に空を飛ぶんだ。

 合図をくれたことでようやく実感が湧いてきて、普通じゃ出来ない未知の体験を前にわくわくすると同時に不安になってきた。

 

 飛ぶってどんな感覚なのかな?

 もしかして、落ちたりしないよね?

 

 そんなことを考えてしまい、勝手に体がちょっと強く女の子にしがみ付いてしまう。と―――、

 

「―――っ!?」

 

 これから飛ぶというタイミングで、急に女の子の体が強張った。

 

「ど、どないしたん・・・・・・え?」

 

 突然様子がおかしくなった女の子を心配して、顔を覗き込んでみて驚いた。

 女の子が、まるで何かを耐えるような表情になっていたからだ。

 そして、私はその何かがなんなのかを知っている。

 

「い、いえ、なんでもないです」

 

 そう言って微笑む女の子を見て、チクリと心が痛む。

 

 それは何度も見てきた顔だ。

 痛いはずなのに、苦しいはずなのに、私が頼りないせいで何もして上げられない時に浮かぶ、必死にその苦痛を押し隠そうとする優しい妹の、優しくも歪んだあの笑顔。

 

 私がこの世で、一番嫌いな顔だ。

 

「もしかして、怪我しとるん?」

「そんなこと、ないですから・・・・・・」

 

 それが嘘だって事くらい、私にだってわかる。

 

 私のせいで痛い思いをさせたのに、見て見ぬ不利なんてできない。

 そんな顔を見せられて、なにもしないなんて出来ない。

 

「ごめんね。私が強く体触っちゃったせいや」

「大丈夫です。これくらい問題ありません」

「そうなんや。やっぱり怪我しとるんやね」

「え?・・・・・・あ」

 

 遠回しに自分が怪我をしていることを認めたことに気づいたらしい。

 女の子から体を離し、彼女の体をちゃんと観察してみればすぐにわかった。

 黒衣が邪魔をしているけど、一度怪我してるって分かりながら見ると、女の子の立ち姿がちょっと不自然なように見える。

 もしかしたら、アインと同じように体中に怪我をしているのかもしれない。

 

「それを知って、どうするんですか?」

 

 さっきと打って変わって、警戒心をむき出しにする女の子。

 なんやか猫みたいやなーと思わず苦笑する。

 

「あの、お願いをもう一個したいんやけど・・・・・・だめ?」

「もう一個ですか?・・・・・・内容にもよります」

 

 よかった。すぐにだめって言われたらどうしようかと思った。

 安堵の息を吐いて、私は意を決して言う。

 

「もう一個のお願い何やけど、服を脱いでくれへん?」

「・・・・・・え? えぇっ!?」

 

 私のお願いに、女の子は驚いて顔を真っ赤にした。

 

「え、えと、ここで? え? な、なんで?」

 

 顔を真っ赤にしながら、挙動不審な動きをする女の子。

 そういえば、さっきから女の子の使う言葉が敬語だったり、そうじゃなかったりしているが、こっちが素なのかな?

 そんなことを考えていると、いつの間にか女の子は動きを止めて、火が出そうなくらい顔を赤くしながら、涙目でこちらを見ていた。

 たぶん、恩人のお願いを叶えたいという思いと羞恥心がせめぎ合っているのだろう。

 

「あ、怪我を見たかっただけやから、無理なら無理でええよ?」

 

 そう言うと、あからさまにほっとしていた。

 まあ、さすがに人目がないからといって、女の子が肌を見せるのは恥ずかしいよね。

 うん、反省しよう。

 

「ほんなら、ちょい背中を見せてくれへん?」

「ど、どうしてですか?」

「悪いようにせんから、大丈夫やよ」

 

 そう言うと警戒しながら、黒衣を脱いで背中を見せてくれた。

 それにしても、今まで気付かなかったが、この子の服装が水着に見えてしかたがないんやけど・・・・・・。

 これはこれで大胆で恥ずかしい気もするが、魔法使いの世界やとこの服装が当たり前なんやろうか?

 

 女の子の背中に触れる。

 

「・・・・・・んっ」

「痛い?」

「う、ううん。大丈夫」

「そう・・・・・・、・・・・・・」

 

 つん。

 

「~っ!?」

「あ、これは痛いんやね」

「あ、あの、何を?」

「え? うーん・・・・・・何やろ?」

 

 何かこう、何かに惹かれてやったとしかいいようがない。

 それよりも、早く終わらせんと。

 

「じっとしとってなー。―――『聖母の微笑』」

「え? これって!?」

 

 女の子が驚いている声がするが、私は治癒の力を使うのに精一杯で、答える余裕がない。

 淡い光が、背中を覆い、女の子の四肢へと広がっていく。

 

「あ、これ・・・・・・温かい」

 

 やがて全身に広がると、光は女の子に吸い込まれるように消えていった。

 治癒の光が気持ち良かったのか、終わってからも頬を少し赤らめてぼうっとしていた女の子だが、ふと気がついたように、私から距離をとった。

 

「今のは、魔法!? もしかして、あなたも魔導師なんですか?」

「その魔導師がどんなのか知らへんけど、たぶん違うんやないかな。それよりも、体でまだ痛いところとか残っとる?」

「え? ・・・・・・そういえば、体の痛みがなくなってる」

「それならよかったわ。でも、私はちょい、疲れた、わ・・・・・・」

「なっ!?」

 

 無理な力の行使で、体から力が抜ける。

 突然糸が切れたように倒れた私を、女の子は受け止めてくれた。

 顔色の悪い私を心配そうに声をかけてくるが、今は疲れ切っていて、次第に落ちていく意識の中でどうにか「大丈夫やよ」と伝えたところで、私の意識は途切れたのだった。

 

 

★★★

 

 

 ゆさゆさと心地よい揺れが伝わってくる。

 一定の短い間隔で揺れは伝わり、浮上する意識の中で、伝わる感触と温かさから自分が誰かに背負われていることに気付いた。

 

「・・・・・・う、ん」

「あ、起きた?」

 

 最初に目に入ったのは、きれいな金色の髪。

 聞こえてきた女の子の声に、私は今誰に背負ってもらっているのかをようやく理解できた。

 周りを見渡すと、いつの間にか森を抜け出している。

 

「私、どれくらい?」

「十分くらいです。急に倒れたから、驚きました」

「ごめんなー、私もまさか倒れるとは思わへんかったから・・・・・・」

 

 無理をしていると自覚はあったが、気を失うくらい消耗しているとは思わなかった。

 今も体を動かそうとしてみるが、まるで力が入らない。

 

「えっと、なんで倒れてまで私の傷を治してくれたのか、聞いてもいいですか?」

 

 なんでと聞かれても・・・・・・少し答えに困る。

 

「うーん、教えてあげてもええけど、その代わりにその敬語をやめてほしいんやけど」

「え? 敬語を、ですか?」

「うん。同い年くらいの女の子に敬語使われるの、あんまり慣れとらんから妙に居心地が悪いねん」

 

というより私の周りで敬語使う人が少ないから、敬語を使われるのが少し苦手なのだ。

 

「それなら、わかりまし―――うん、わかった」

「ありがとなー。ついでに名前も教えてくれへん? 私は八神ゆとり。ゆとりでもゆーちゃんでも好きに呼んでええよ?」

「・・・・・・わかったよ、ゆとり。私はフェイト。フェイト・テスタロッサ」

「フェイトちゃんかー。きれいな名前やね」

「あ、ありがとう。ゆとりの名前も優しい名前だと思うよ」

 

 ちょっと悩んだようだけど、無事に名前を教えてもらえた。

 名前を交換しあったことで、お互いにあった壁が一枚取り外された気がする。

 フェイトちゃんの雰囲気も、最初にあった鋭さが無くなり、おそらく本来の彼女の優しさが伝わってくる柔らかいものに変っていた。

 

「それで、どうして私を助けてくれたの?」

 

 ああ、そういえばその話をするんだった。

 私が無理してフェイトちゃんを助けた理由。それは―――、

 

「フェイトちゃんがはやてちゃんと同じ顔をしとったからやよ」

「顔が同じ?・・・・・・それにはやてって?」

 

 私の答えに、フェイトちゃんは首をかしげた。

 まあ、いきなりそんな事言われてもようわからんよね。だから、もうちょっと言葉を選びつつ、私が何を想って行動したかを素直に告白していく。

 

「はやてちゃんっていうのは私の妹でな、とっても可愛くて優しい子なんよ。やけど、いろいろと我慢しちゃう癖があって、痛くても苦しくても大丈夫やよってしか言わへんの」

 

 例えば、車椅子での移動で疲れたときも。

 例えば、急に胸が苦しくなったときも。

 はやてちゃんは誰にも頼ろうとはしてくれない。自分が足が動かないという枷を背負っているからって、一人で頑張ろうとしてしまう。

 

「お姉ちゃんとしてはもうちょい頼ってほしいんやけど、はやてちゃんの頑張りたいって思うのもわかってまうから、あんまり強く言えへんくて。それが悔しくてなー」

 

 もっと甘えていいよって言いたい。本当は私がはやてちゃんを背負って歩いてあげたい。

 でも、それが出来るほど私は強くないから。この弱くて小さな体じゃ、はやてちゃんにしてあげられることは限られているから。 

 

 何よりも、頑張っている妹を応援できるお姉ちゃんでもありたいから。

 

「せやから、さっきフェイトちゃんが痛いのを我慢しとる時の顔が、はやてちゃんとそっくりでな。つい我慢できなくて、助けたいって思ったんよ」

 

 ようするに、ただの自己満足。

 もっともその後倒れて余計に迷惑をかけてしまってるから、だめだめなんやけどね。

 

「これがフェイトちゃんを助けた理由やよ」

「そう、なんだ」

 

 私の位置からじゃフェイトちゃんがどんな顔をしているか分からないが、たぶん戸惑っていると思う。

 理由が理由だから仕方ないかな。

 

「えっと、それじゃあ、あの力は何だったの? 魔法だよね?」

 

 話が変わり、たぶん『聖母の微笑』のことだろう。

 あれが何なのか、正直私自身がわかっていないから答えようがない。

 ここは素直に言ってしまおう。

 

「実は、私にもよくわからんのよ」

「え? わからない?」

「突然使えるようになったのと、あとはどんな怪我でも治せる治癒の力だけや」

「そうなんだ。他に魔法は使えないの? デバイスは?」

 

 いきなりそんなに聞かれても困るが。

 治癒の魔法以外で知っている魔法はないし、デバイスが何なのかがわからない。

 デバイスとは魔法使いの杖のような物で、バルディッシュさんもデバイスだと、あの鎌ではなくて三角の宝石を見せながら教えられた。

今は待機状態に戻してあるだとか。

よく見ると、来ていた服も、あの大胆な服から普通の服装に変っている。

 

「もしかしたら、希少能力(レアスキル)なのかも」

「レアスキル? それって何なん?」

 

 また出てきた新しい単語に首を傾げる。

 詳しい説明を受けたが、わかったのは珍しい能力だということだけ。

 まあ、それだけわかれば大丈夫だと言われたからそれでいいのだろう。

 

「そういえば、どうして倒れちゃったの?」

 

 ふと思い出したように尋ねられた。

 あまり心配をかけたくないから、なるべく避けるようにしていたのに。

 

「えっと・・・・・・実はちょい寝不足で」

「・・・・・・それ、嘘だよね?」

「え? ど、どうしてわかったん?」

「ゆとりって嘘下手だよね」

「あう・・・・・・」

 

 こうなったら言うしかないだろう。

 覚悟を決めて、自分の体が虚弱体質であることを伝えると、案の定、心配され、さらに倒れるまで力を酷使させたことに落ち込んでしまった。

 

「ち、違うんよ、フェイトちゃん。今日はたまたまだから」

「でも、私がいなければ倒れなかったと思うし・・・・・・」

「そんなことあらへんよ。私はフェイトちゃんと出会えてめっちゃ嬉しいんやよ」

「そ、そう。私もゆとりと出会えて嬉しかった」

 

 その言葉が、私には妙に嬉しく、心に響く。

 なんやろ、いつも以上に気持ちが弾んでいる気がする。

 

「私が倒れたのはタイミングが悪かったせいや。フェイトちゃんと会う前から少し疲れてたし、それにフェイトちゃんの前にアインを治してあげたから」

「アインって、あの子猫だよね? どこか怪我してたの?」

「うん、・・・・・・って、あれ? アインはどこなん?」

「えと、後ろからついて来てるよ?」

 

 首だけ振り返ると、確かにアインが後ろにいた。

 何故か十メートルくらい離れているが。

 

「どうしたんやろ、アイン。結構人懐っこい子やと思ったんやけど・・・・・・?」

「・・・・・・人懐っこいんだ」

 

 前から沈んだ声が聞こえてきて、見るとフェイトちゃんがしょんぼりと肩を落としていた。

 理由を聞くと、気を失った私を運ぶ際にアインも一緒に連れて飛んだらしいのだが、地面に降りたとたんに逃げられたんだとか。

 仕方なしと私を運ぶことを優先したが、後ろからついて来るので振り向くと、すぐに隠れてしまう。でもついて来る。

 しばらくいろいろ試している内に、アインがフェイトちゃんを避けていることがわかって落ち込み、人懐こい猫だと知り、さらに落ち込んだらしい。

 

「うーん、私も最初は逃げられたけど、怪我を治してから懐かれたから、もしかしたら人見知りする子やったのかも」

「そうなのかな? ・・・・・・ところで怪我って?」

「私がアインを見つけた時、足を引きずとってな、見せてもらった前足にやけどの跡があったんよ。あと、体中擦り傷だらけやったし」

「そうなんだ・・・・・・ん? やけどに猫? ・・・・・・あ」

「どないしたん?」

 

 急に立ち止ったフェイトちゃんに声をかけるが、返事が返ってこない。心配になって顔を覗き込むと、真っ青になっていたから驚いた。

 

「ど、どうしたんフェイトちゃん!? 顔真っ青やで?」

「わ、私・・・・・・」

「ん?」

「アインが怪我したの・・・・・・私のせいだ」

「・・・・・・え?」

 

 泣きそうな顔になっているフェイトに話を聞くために、手頃なベンチを探して二人並んで座る。

 

「えと、話を聞いてもええかな?」

「・・・・・・うん」

 

 話を聞くに、フェイトちゃんが欲しがっていたあの石は、願いを叶える魔法の石なのだとか。

 それを以前、とある場所で子猫が間違って手に入れてしまったことがあり、うっかり願いを叶えて体がすごく大きくなってしまい、その体内に入り込んだ石を取り出すために、少し攻撃をしたそうだ。

 その時にできた傷が前足のやけどで、最初に見た時からどこかで見たようなと思ってたらしく、私の話を聞いて思い出したらしい。

 

「えーと、ジュエルシードやっけ? それってアインを攻撃せずにジュエルシードを手に入れる方法はなかったん?」

「・・・・・・うん。ジュエルシードに取り込まれた生物からジュエルシードを取り除くには、まずジュエルシードの力を弱めないといけないから、魔力でダメージを与えなくちゃいけないんだ。それに、いつ暴走するかもわからなかったから、あまり悠長にしている暇もなかった」

「暴走? あの石ってそんなに危ない物なん?」

「どのくらいかわからないけど・・・・・・ロストロギア指定されるくらいだから、かなりの被害が出るかもしれない」

 

 そんな危険な物を私は素手で触ってたんや・・・・・・。

 衝撃の事実に私は真っ青。

 もしかして、あの時発光してたのは暴走の前触れだったのだろうか?

 

「そ、そないに危ない物を、どうしてフェイトちゃんが集めとるん?」

「えと、それは・・・・・・」

「言えへんの?」

「・・・・・・ごめん」

「ううん、言えへんのなら仕方ないから、これ以上は聞かへんよ。でも、危ないことに使うわけじゃ、ないんやよね?」

「う、うん。それは間違いないよ」

「そやったら大丈夫や。さて、そろそろアインを呼んで誤解を解かんと。アイン、こっちにおいでー」

 

 私に呼ばれてか、恐る恐るといった感じでアインが近づいて来る。

 足元に来たアインを膝の上に乗せ、頭を撫で上がらアインに語りかける。

 

「あんなー、アイン。フェイトちゃんなんやけど、アインを傷つけたことを反省しとるから、許してあげてほしいんや」

「・・・・・・にゃー」

「それになー、フェイトちゃんはアインを虐めたくて傷つけたんやのうて、アインを助けるためにしたことなんよ」

「にゃー?」

「ほんまや。せやから、そろそろフェイトちゃんのこと、許してあげてくれへんかな?」

「・・・・・・にゃーご」

 

 私達のやり取りを、こちらにアインが来てから、少し離れた場所に座り直したフェイトちゃんが心配そうに眺めている。

 

「・・・・・・ど、どう? アイン、まだ怒ってる?」

「大丈夫やよ。アインはええ子やから、ちゃんとわかってくれた。フェイトちゃんと仲直りしたいって言うとるよ」

「ほ、本当!?」

 

 アインの言葉を伝えると、嬉しそうに少しずつこちらに近づいて来る。

 期待と不安の色が混ざった瞳で私の膝の上に座るアインを見つめ、ゆっくりと手を差し伸ばした。

 

「にゃー」

「っ!?」

「大丈夫やよ」

「う、うん」

 

 壊れ物を扱うように、そっとアインの頭に手を置く。

 数秒しても嫌がる素振りを見せないアインを見て、ようやくフェイトちゃんは力を抜いて、安堵のため息を漏らした。

 

「ごめんね、アイン」

「にゃー♪」

「わっ、くすぐったいよ」

 

 顔を舐められ、嬉しそうにするフェイトちゃん。

 その姿を見て、よかったわーと私もアインを撫でることにした。

 

「おーい、フェイトー!」

 

 その声が聞こえてきたのは、フェイトちゃんとアインが仲直りをしてすぐだった。

 

 声の方を振り向くと、オレンジ色の髪をした女性がこちらに向かって走って来ていた。

 どうやらフェイトちゃんの知り合いらしい。

 

「アルフ!」

「フェイト、探したよ。無事にジュエルシードは見つけられたかい?」

「うん、ゆとりに譲ってもらったんだ」

「へ? ゆとり?」

 

 アルフと呼ばれた女性の視線が、私に注ぐ。

 それからにっこりと笑いかけて、私の頭を撫で始めた。

 

「ありがとね、ゆとり。アンタのおかげで助かったよ」

「あ、アルフ!? ゆとりに失礼だよ!」

「そうかい? でも、この子の髪の毛ってさらさらですごく気持ちいいよ?」

「え? そうなの?」

「フェイトも触ってみるかい?」

「そ、それは、えーと」

 

 少し迷うような素振りを見せる。

 いきなり髪を触ることに抵抗があるのだろう。

 

「触ってもええよ、フェイトちゃん」

「え? 本当にいいの? 嫌じゃない?」

「頭撫でられるのは、好きなんよ」

「そ、それじゃあ、触るね。・・・・・・あ、気持ちいい」

「でしょ?」

「う、うん。少し羨ましいかも」

 

 そんな会話をしながら、二人揃って頭を撫で続ける。なんだか、顔が熱くなってきた。

 隣ではアインが私に同情の視線を向けてきていて、少し辛い。

 

「それにしても、ゆとりの髪って変ってるね」

「あ、アルフ!?」

 

 突然のアルフさんの発言に、フェイトちゃんが怒るが、どうも私の髪に興味心身らしく、聞こえている様子がない。

 

「白髪ってお爺さんかお婆さんのイメージしかないから、驚いたよ」

「も、もう! ご、ごめんねゆとり。私はゆとりの髪、白くて雪みたいにきれいで好きだよ」

「うん、ありがとなー」

 

 本来は怒る所なんだろうが、アルフさんの様子から馬鹿にしたような感じはなく、どちらかというと思ったことが口から勝手に漏れているように見える。

 私と違うタイプの嘘をつけない性格なのだろう。

 

「そういえばアルフ。私に何か用だったの?」

「あ、あぁ!? そうだった! 次のジュエルシードの目星がついたんだよ!」

「え? 本当にアルフ!」

「そうだよ! 早くいかないと、あの生意気な小娘に先を越されちまうよ」

「うん! ・・・・・・あ、でも」

 

 ちらりと罰が悪そうにこちらを見る。

 そんなん気にせんでもええのにと思いながら、笑顔で二人を見送る。

 

「私は大丈夫やよ。ここからやったら、タクシーを呼べば家に帰れるから」

「で、でも、ゆとりは体が弱いし」

「心配してくれて、ありがとなー。せやけど、これが初めてってわけやないから大丈夫やよ。それに、フェイトちゃんも急がなあかんのやろ?」

「う、うん。ありがとう、ゆとり。また、会えるよね?」

「フェイトちゃんが会いに来てくれるなら、アインと一緒に待っとるよ」

「にゃー」

 

 何度も振り返って笑顔で去っていくフェイトちゃんに、私とアインも一緒に手を振って見送る。

 その姿が見えなったところで、ようやく一息つけた。

 

「行ってもうたなー、アイン」

「にゃー」

「でも、また会えるよね?」

「にゃー☆」

「ありがとなーアイン。元気出たわ」

 

 胸に残った寂しさをアインに拭ってもらい、タクシーを呼ぶことにする。

 そういえば、はやてちゃんも心配しとるよね。

 服も泥だらけにしてもうたし、たぶん帰ったらめっちゃ怒られるに違いない。

 でも、なんでやろうな?

 今はそのはやてちゃんの怒り顔を一刻も早く見たいと思うのは。

 

 それに、アインの飼い主も見つけなあかん

 

「アイン、一緒に帰ろうなー」

「にゃー」

 

 まあ、とにかく。

 今日は疲れたから、早く家に帰え――『キキーッ バタンッ「見つけたわ!」』―――ん?

 

 甲高いブレーキ音に振り向くのと、路上に止められた高級そうな外車から一人の少女が飛び出してくるのはほぼ同時だった。

 

 人目を引く、先ほど別れたばかりの魔法少女と同じくらいきれいな金色の髪を揺らしながら、その少女は端正な顔立ちを歪めてこちらに向かって走ってくる。

 はて、どこかで見たような? と首を傾げる暇もなく私の目の前にやってきた少女は、堂々と高らかに私達に向けて叫んだ。

 

「ようやく見つけたわよっ、アイン!!」

 

 どうやら、私の今日はまだ終わらないらしい。

 

 




はやて「なあ、ヤシロさん」
ヤシロ「なんだいはやてちゃん」
はやて「家の姉ちゃんがなんか普通に動物と会話しとるんやけど?」
ヤシロ「それがゆとりクオリティだからだよ」

 どうもヤシロです。今回五話までなんとか書き上げることができました。
 次ももうすぐできるけど、その次が少し心配です。でも、なんとか書きます。

 あと別にゆとりちゃんは動物と話は出来ません。なんとなくのニュアンスで話してます。
 つまり「何言ってるかわからないけど、たぶんこんな感じ」って感じで会話を成立させているので、まあそこはゆとりちゃんだからで納得してくれると嬉しいです。

 ちなみに、今回の話はだいたいアインのせいで通すつもりです。

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